信用回復に精一杯、ライバルの躍進にもなすすべなし
売り上げで後発薬国内首位の日医工が〝泥沼〟でもがいている。主力生産拠点の富山第一工場で約10年にわたって不正な製造を続けていた事実が発覚、今年3月に富山県から約1カ月に及ぶ業務停止命令を受けた。国が普及を推し進める後発薬の品質に対して広く国民に不信感を植え付けてしまった。日医工は再発防止と信用回復に懸命だ。製造や品質の管理体制の改善強化のために、GMP監査室や製剤技術本部等を新設、品質管理本部の人員も従前より5割増(50人増員)した。富山第一工場では社内監査を毎月実施、月間生産数量を従来比4〜5割削減して余裕を持たせる事で、製造品質に気を配る体制整備を進める。
出荷再開も手間取る
2021年3月期の業績は売り上げが前期比1%減の1882億円、営業利益が同96%減の1億円、最終損益に至っては41億円の赤字に転落した。売り上げでは後発薬2位のサワイグループホールディングスの1872億円をわずかながらも抑えて首位をキープしたが、営業利益ではサワイの188億円、売り上げで後発薬3位(1549億円)の東和薬品の199億円には大きく引き離された。
日医工は営業利益以下の会社損益予想は見通し難として未開示にするが、今期の売り上げを1950億円、一時的な損益を除いたコア営業利益を7億円と前期の約10億円から下回ると見ている。4月の薬価改定で100億円、事件を起こした小林化工に製造委託していた製品の中止・休止で100億円、更に富山第一工場の出荷遅延で150億円の減収減要因がある一方で、今年2月の武田テバファーマからの岐阜工場と関連後発薬等の販売譲受の効果が400億円ある。更に米国子会社セージェントの売り上げが前期比で57億円(16%)増、コア営業損益で25億円の改善効果があり、今期の連結収益に貢献するというのが会社の皮算用だ。
しかし、これを鵜呑みにする市場関係者は少ない。日医工の販売品目1229品目中、194品目が8月2日現在で供給中止状態、6月1日に52品目の供給遅延の可能性を会社も発表したように、慎重な品質評価等を原因に出荷再開も遅れ気味だ。「アムロジピン」「オルメサルタン」等よく使われる薬剤も少なくない上、194品目中22年4月以降の出荷再開予定品目も半分強の110品目を数える、出荷停止による減収額が会社の期初想定で収まるのかというわけだ。16年に約730億円で買収した米国子会社の見通しも相変わらずの大甘予想だ。18年3月期以来4期連続の営業赤字だが、期初の予想を裏切る事の繰り返しだった。前期も結局、20億円の営業赤字で会社の足を引っ張った。今期もこのパターンが続く公算が大だろう。
サワイ、東和薬品との3強体制と言われた国内後発薬の業界地図は一変し、日医工が上位から振り落とされる可能性も高まっている。日医工にとっては厳しいが、それが今の現実だ。
製造不正の根源に日医工の根深い体質問題がある。20年に及ぶ田村友一社長の超ワンマン経営がもたらす歪みだ。売り上げを急伸させ北陸の一地方企業から全国区、後発薬のトップ企業にまで駆け上がらせた功績は大きいが、光の強さの裏返しで〝闇〟も深い。社内では誰もその判断に異を唱える事が出来ない。外部調査報告書が挙げる「ネガティブな情報を経営陣に報告・進言する事を従業員が躊躇する風潮」もこれが生んだ産物だ。
会社は田村社長のイケイケ拡大至上主義で急成長した。その手段が、相次ぐ大型買収だった。米国子会社の大買収の後は、国内でも19年にエーザイの後発薬子会社のエルメッドエーザイ(現エルメッド)を完全買収、21年2月には武田テバから岐阜工場と後発薬の譲り受けを完了させた。そのたびに国内売り上げ規模、シェアは飛躍した。
だが、メーカーの命とも言うべき製造品質の基盤は脆弱でこれに追い付かなかった。トップの号令による拡大目標に合わせるため製造現場が無理をした、その先に今回の製造不正はある。
最新の有価証券報告書を見ると、面白い事が分かる。子会社も含む日医工の国内主要製造設備(工場)の従業員数は1449人だが、期末に加わった岐阜工場分を除くと726人。サワイは1617人、東和薬品は1138人だ。一方、各社の国内売り上げは日医工1519億円(うち岐阜工場分はまだ僅少)、サワイ1535億円、東和薬品1186億円だから、売り上げとの見合いでの日医工の製造部門の人員の少なさは一目瞭然だ。
製造不正の防止のために、日医工は今後、製造・品質管理強化に人と金を注ぐ事が不可欠になるが、これがコスト上乗せに繋がる事は間違いない。積年のつけを払い、新たな製造体制が軌道に乗るまでには時間も相当かかるはずだ。
日医工の粗利益率はライバル2社に比べ極端に低い。製造不正の影響が出る前の20年3月期を見てもサワイ40・3%、東和薬品45・9%に対し、日医工は19・6%と半分の水準だから、製造不正とは別の構造的な問題がある事になる。その上に製造・品質改善のためのコスト増による上乗せが出る、製造部門の抜本改革は「言うは易く行うは難し」が明白だ。
国内後発薬市場には逆風が吹きまくる。2020年9月末で国の後発薬普及率80%目標が完了、追加後押し策も「23年度まで全都道府県での80%以上」の小粒目標しか出てこない。数量の拡大頭打ちは後発薬ではそのまま金額ベースでの市場縮小に繋がる。後発薬は先発薬に比べ差別化が難しく、医薬品卸が病院・薬局に売る実勢価格の値引きも大きい。この値引きを反映して、薬価改定でも後発薬の引き下げ幅は大きくなる。
後発薬受難の時代も逆風に
タイミングも最悪だ。2年に1回だった薬価引き下げは今年4月に毎年薬定改定がスタートした。後発薬メーカーにとっては数量が頭打ちの上、値段の下げは加速する。先発薬以上に後発薬受難の時代が今後本格化するわけだ。
日医工が製造不正で引き金を引いた格好だが、後発薬の開発や製造への規制強化も始まる。製造では国や県の査察が強まる。開発面では安易な共同開発にメスが入る。1つの先発品の特許が切れると複数のメーカーが共同開発・相乗りで後発薬を出す事が多発していたが、小林化工の例を見るまでもなく、共同開発と言いつつ委託先の製造チェックに関与していない実態も明らかになった。申請データの審査が厳格化して、コスト減になるという事で安易に共同開発、承認販売品目を増やす事にもブレーキが掛かる可能性がある。場合によっては弱小メーカーの淘汰にも繋がるし、厚生労働省等政策当局にもその期待がある。
これは後発薬大手にプラスになるはずで、開発製造体制強化のコスト増負担に耐えられるサワイや東和薬品等は虎視眈々とそのメリット享受を狙う。日医工もと言いたいところだが、製造不正の後始末に懸命で、長引く出荷停止とそれが巻き起こす薬剤の欠品問題の後始末をさせられる病院や調剤薬局、卸からの反発も強い日医工には、将来に失地を回復出来るかにアップアップで余裕はない。ライバル2社の躍進を横目で見るしかない。
仮に改革が成功した暁に、従来通りの「落穂ひろい」の買収戦略が復活出来るかも疑問だ。冷静に日医工の拡大戦略の成果を分析すれば、セージェント、エルメッドが規模拡大には繋がっているが、買収後の利益は低下している。本当に買収で規模拡大が正解だったのかは心許ない。田村社長が推し進めるもう1つの戦略、バイオ後発品の開発も1年前に「トラスツズマブ」の自社開発を中止、米国での「インフリキシマブ」の申請時期が後ずれしまくる等うまくいっていない。
田村社長が推し進めてきた戦略の敗戦が濃厚になる今、それを超越する新たな日医工の再生策が求められるのだが、青写真も田村社長に代わる経営人材も一向に見えてこない。
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