一見、外からは華やかで国際色に富んだ「グローバル企業」のような印象を強くするが、実態はあまり有能とはいえない親方がどんぶり勘定で腹を膨らましているだけの、その辺の中小零細企業のような社風——。
言葉は悪いが、クリストフ・ウェバーが2015年に武田薬品工業の代表取締役社長CEO(最高経営責任者)に就任して以降、同社は年を追うごとにこのような特徴を色濃くしている。
おそらくウェバーは、いくら国内の売り上げが首位とはいえ、極東の、それも本社が首都圏にもないような一製薬会社のトップに甘んじるのが耐え難かっただけではないか、という疑念が湧く。とにかく形だけでも武田を国際的に認知されたメガファーマ(巨大な製薬企業)にする事で、自己満足に浸りたかっただけではないのか。
ウェバーは19年初め、アイルランドの製薬大手・シャイアーの買収を完了する事で、武田を日本で初めて世界の製薬会社トップ10入りするメガファーマに押し上げた。
同時に、「グローバル拠点」と称して日本の研究施設を米国に移転。執行役員の19人中、日本に拠点を置いているのは7人。米国の8人より少ない。残りは欧州・カナダが3人。新興国が1人という。広報部門ですら、日本は形だけの拠点で、今や実質的に主力が米国となっている。
小ぶりな故に目立つ「巨額CEO報酬」
ただ、いくら武田がこのように「国際化」してメガファーマ入りしたとはいえ、他社と比較したら圧倒されている。トップのスイスのロシュの売上高は624億600万㌦で、10番目の武田の287億8000万㌦の2倍以上。しかも2位のノバルティスの486億5900万㌦以下、9位の仏サノフィの410億8700万㌦までいずれも400億㌦台をキープしている(20年12月期決算。武田のみ21年3月期)。
更に時価総額でも、世界の主要製薬メーカーと比較してその「小ぶり」さが目立つ。トップの米J&Jは4271億㌦で、武田の529億㌦の8倍以上。2位のロシュは2871億㌦、3位の米ファイザーは2152億㌦(いずれも21年4月現在)と、勝負にならない。武田は国内でも中外製薬の後塵を拝しており、時価総額で見るなら、「トップ10」どころか、メガファーマを名乗る事自体恥ずかしいくらいなのだ。
これでは、いわば「なんちゃってメガファーマ」のような存在だが、ただ武田が堂々と他のメガファーマに伍している項目がたった1つだけある。何と、CEO報酬なのだ。
創業家筋の株主らで構成する「武田薬品の将来を考える会」は今年も、武田の株主総会向けに事前質問を提出し、「ウェバー氏の報酬(未公表のため前年度比較)約20億円はファイザー社CEOとほぼ同額であり、グローバルでも最高水準です」とその妥当性を質しているが、そのHPにも次のような記述がある。
「タケダ薬品のCEO報酬(2019年実績)を代表的なグローバル製薬企業4社(ロシュ、ノバルティス、ファイザー、メルク)の最新(2020年)実績と比較した。タケダの20億円は、メルク(23億円)およびファイザー(22億円)に匹敵し、ノバルティス(15億円)およびロシュ(12億円)を大きく上回っている」
資産売却でしかROEを改善出来ず
「タケダ薬品の2020年度ROEは事業売却や一時的な益税効果によって前年度の0・9%から7・6%へ大きく上昇し、2015年度比では3・7ポイント改善したが、配当成長率はゼロ、……事業売却と益税処理を除外した実質的なROEは2%前後だったと推察される。一方で、CEO報酬は2015年度から2018年度までの4年間で18億円へと倍増し、さらに2019年度には20億円を超えている」(同)。
ROE(自己資本利益率)は、企業の自己資本(株主資本)に対する当期純利益の割合で、投資家が投下した資本に対し、企業がどれだけの利益を上げているかを表す重要な財務指標となる。この値が低ければ経営効率がマイナスに評価され、役員の手腕に疑念が持たれかねないが、武田は例外のようだ。
武田の21年3月期決算では、ROEは7・6%。これだけでも、決して褒められた数字ではない。中外製薬の23・4%(20年12月期)は別格としても、塩野義製薬の13・89%(21年3月期)、小野薬品の12・59%(同)等の創薬に強みを発揮している他社には遠く及ばない。
しかも、武田の20年3月期決算では、わずか0・9%という極端な低さだった。これを1年で改善させるには本来であれば劇的に業績好転を実現するしかないが、21年3月期の決算で改善したのは別にウェバーが何か格別の策を講じたからではなく、周知のように利益が出ていてもお構いなしに非中核事業や資産の売却を強行し、形の上で増益にしたからだ。「アリナミン」や「ベンザ」等の大衆薬を扱う武田コンシューマーヘルスケア(現アリナミン製薬)等の売却益2289億円を計上。営業収益は前年同期比で428・2%増の2578億円に達している。
これでROEが改善されなければむしろおかしいが、武田の22年3月期でも前年同期比の5・4%増の3兆3700億円の増収が見込まれているのは、帝人ファーマに譲渡した糖尿病治療剤の収益1330億円が計上されるためだ。当然ながら「武田薬品の将来を考える会」も、21年3月期決算について以下のように指摘している。
「営業利益5000億円のうち3000億円は大衆薬子会社や不動産などの資産売却によるものである。本業では売上収益が3%近く減少し、営業利益は2000億円、当期利益段階では1000億円程度に過ぎず、実質のROEは2%以下(1・9%)であった。また今年度の業績予想は売上収益を5・4%増としているがここにも事業売却や為替の円安影響を織り込んでいる。本業は減収減益と言っても過言ではない状況が続いている」
おそらくメガファーマのみならず、名の知れたグローバル企業であれば、資産売却程度のやり方でしかROEを改善出来ず、就任から6年もたつのに創薬のヒット1つも打てないようなCEOの報酬が、減じられるどころか「4年間で倍増」するような事例はまずあり得ない。ますます「なんちゃって」の類だ。
それが武田で毎年のように批判にさらされながらまかり通っているのは、外見とは異なり、前近代的な中小零細企業に多く見られるような企業ガバナンスが機能しない会社だからだろう。
それともウェバーは、メガファーマ入りしただけでは飽き足らず、そのトップクラスのCEOにでもなった気分に浸りたいのかもしれない。
(敬称略)
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