1周年の神奈川精神医療人権センター
精神科病院などで不当な扱いを受ける患者たちを守る活動と、患者の発信力を高めるプロジェクトを同時に進めるKP神奈川精神医療人権センターが、医療・福祉関係者の注目を集めている。4月号で報告した630調査(精神保健福祉資料)の開示請求では、「公開拒否」と回答した神奈川県に物申して対応を改めさせ、横浜市の撤去要請も聞かずに精神障害者へのヘイト幟旗を立て続ける住宅街では、差別される側の思いを伝える継続的なチラシ投函活動などで、旗を半減させた。
こう書くと、強面の人権屋のようだが、実態は異なる。お祭り好きなピアたちを中心とした明るいチームで、「声を上げる」「言うべきことを言う」を貫いてきただけなのだ。
この組織の結成は、私が横浜の福祉事業所で2019年春に行った講演が発端となった。精神医療の惨状をジャーナリストとして告発するだけでは、問題の本質は変わらないと感じていた私は、この講演でピアスタッフたちにこう呼びかけた。
「私の仕事は横浜球場の外野スタンドでビール片手にヤジを飛ばしているオッサンのようなもの。グラウンドでプレーしているのは患者と医療者です。患者自身が声を上げなければ、医療者からも社会からも舐められっぱなしで何も変わりませんよ」
それから僅か1年、20年5月にKP(Kanagawa Peers)は誕生した。これは、才能あふれるピアたちが集まり、様々なイベントを仕掛けてきたYPS横浜ピアスタッフ協会という下地があったからこそ、実現した奇跡だった。私はアドバイザーやWebサイト編集長として、密接に関わることになった。
KPの患者支援活動の主軸は、電話相談。平日の午後1時から午後4時まで対応している。開設後1年間の相談件数は、県内外120件を超えた。同年代の男性から病的なストーカー行為を受け続けた女子高校生が、学校やクリニックで不安を訴えたところ、いきなり強制入院させられてしまったり、不仲な父親の意向で、深刻なメンタル不調はないのに2年も強制入院させられたり、といった理不尽な被害体験が目立つ。この2件を含め、KPの関与で状況が好転する例は多い。
主治医は早く退院させたいのに、地域に適切な受け皿がなく、患者を出せないケースも少なくない。こうした件は、経験豊富なケースワーカーを多く抱えるKPが、住まいの確保や生活支援を約束することで、あっさりと退院に至る。これは、従来の支援の在り方や地域社会の問題であり、精神医療を変えるだけでは解決しない。
活動のもう1つの柱である発信力向上プロジェクトも順調に進む。その中核が、連携組織として生まれた「OUTBACKアクターズスクール」。精神疾患を持つ人たちの豊かな感性を伸ばし、お金を払って観てもらえるレベルの演劇作品を作り上げて公演する計画で、第1期は約20人が受講している。患者の支援経験に加え、演劇の指導経験も豊富なKPメンバーが校長を務め、若手俳優らを講師に迎えて、11月の初公演に向けて表現力を磨いている。
8月7日には、KP設立1周年記念イベント「TALK BACK 私たちはもう黙っていない」を横浜で開催する。精神医療国賠訴訟のシンポジウムや、演劇「精神病院つばき荘」の公演、海外で広がる患者達のパフォーマンス「Mad Pride」の日本版パフォーマンスなどを予定している。
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