眼科学会等の報告書で眼鏡業界に〝激震〟走る
街中の眼鏡店で当たり前のように見かける「ブルーライトカット」眼鏡を巡り、関連学会から衝撃的な「意見書」が出された。なんと、子どものブルーライトカット眼鏡使用は効果がないどころか、悪影響だというのだ。海外では大人に対しても「意味がない」としている研究もあり、議論を呼びそうだ。
ブルーライトとは、ヒトの目で見える波長、いわゆる「光」のうち、紫外線と波長が近い380〜495㌨㍍前後の青色の光の事。「青色光」とも言う。太陽光や電球から出る光に含まれており、最近ではパソコンや携帯電話等のデジタル機器の液晶画面から発せられている事が知られるようになった。目に負担を与える事が懸念され、眼鏡専門店では「ブルーライトカット」を謳った眼鏡が多く販売されている。中には、子ども用の物もある。
大手紙経済部記者が言う。「ブルーライトカット眼鏡は、今や若い人の間では標準装備と言ってもいい。例えば、海外にも展開する眼鏡専門店『Zoff』は、レンズにブルーライトをカットするコーティングを追加料金なしで請け負っている。それだけ需要があるのです」。
6団体の意見書が投げ掛けた波紋
ところが、こうしたブルーライトカット眼鏡の利用に「待った」がかかった。日本眼科学会、日本眼科医会、日本近視学会、日本弱視斜視学会、日本小児眼科学会、日本視能訓練士協会の6団体は4月14日、「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」とする意見書を公表したのだ。
意見書では、「小児にブルーライトカット眼鏡を装用させることを推奨する動きが一部にあるが、我々は以下の科学的観点からそれを危惧する」とかなり強い言い回しで、子どものブルーライトカット眼鏡の使用の流れに疑問を呈した。
また6団体は、ブルーライトカット眼鏡の販売側が、眼鏡の〝効果〟として「デジタル端末使用時の睡眠障害や眼精疲労の軽減、また眼球への障害を予防すると謳っている」と指摘。このうち睡眠障害については、夜遅くまでデジタル端末の強い光を浴びる事で睡眠障害を来す恐れを指摘する論文があるとしたが、その他の〝効果〟についてはエビデンスに乏しいとバッサリ斬って見せたのだ。
「液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光より少なく、網膜に障害を生じることはないレベルであり、いたずらにブルーライトを恐れる必要はない」「小児にとって太陽光は、心身の発育に好影響を与える。十分な太陽光を浴びない場合、小児の近視進行のリスクが高まる。ブルーライトカット眼鏡の装用は、ブルーライトの曝露自体よりも有害である可能性が否定できない」と各種論文を引用しての説明には説得力がある。
更に、意見書は「成人に対しても、ブルーライトカット眼鏡を推奨しない」とする米国の眼科アカデミーが3月に公開した一般・患者向け文書の翻訳も紹介した。
文書は「デジタル機器の画面を長時間見つめると、まばたきが減ります。まばたきの減少はときに眼精疲労を生じます。眼精疲労は画面からのライトのためではなく、デジタル機器の使い方によるものです。目の疲れを和らげる最も良い方法は、頻繁に休憩をとって、画面から目を離すこと。コンピュータのディスプレイから出る光によって目の疾患が生じることは知られていません」等とブルーライトカット眼鏡に否定的な見解となっている。
都内の眼科医は「ブルーライトカットに意味があるかどうかは、専門家の間でも見解は分かれる。光に敏感な人にとっては、ブルーライト等の光がカット出来る眼鏡を使った方が良い事もあるかもしれない。高いお金を払ってまでブルーライトカットにこだわらなくてもいい、くらいに思っていればいい」と冷静だ。
眼鏡業界側は学会報告に反論
一方、この6団体による意見書に慌てたのは眼鏡業界だ。「実は、大手眼鏡チェーンの『JINS』は新年度、東京の渋谷区立小中学校に通う全児童、生徒にブルーライトカット眼鏡を寄贈する予定だった。ところが、意見書を大々的にメディアが報じたため、この計画は保留になりました」(前出の経済部記者)。
渋谷区では児童、生徒に1人1台、タブレット端末を貸与する等の先進的なICT教育が進められており、長谷部健区長も感謝の言葉を口にしていたのだが……。効果が低いどころか有害だと言わんばかりの意見書の内容を読めば、保護者も心配するだろう。
もちろん、心配するのは保護者だけではない。「Zoff」の運営会社「インターメスティック」(東京都港区)は意見書が公表された翌日、ホームページに「ブルーライトカット眼鏡に関する報道について」とする見解を発表。「お子様にとって太陽光が心身の発育に好影響を与えるという研究結果は弊社も承知しており、今回のブルーライトカット眼鏡に関する報道は、お子様に対して必要以上の状況においてブルーライトカットを推奨することに対するご意見と認識しております」「夜間にブルーライトをカットすることには、一定の効果が見込まれるという見解もございます」として、ブルーライトカット眼鏡の効果を強調した。
「JINS」(東京都千代田区)も4月28日、「ブルーライトカットメガネ・レンズをお使いいただくにあたって」とする文書を公表した。これまでにブルーライトカット眼鏡を1100万本販売したと紹介し、「お子様については、ブルーライトカットメガネ・レンズは、日中の太陽光のもとではなく、夕方以降の屋内での使用を推奨しております」と適切に使用するよう説明してきたとする。
その上で、「ブルーライトの影響は、世界中の専門家によって研究が行われており、数多くの論文が発表されております。JINSはいち早くブルーライトの影響に着目し、学術機関と共同研究を進めるなど、エビデンスに基づいてブルーライトカットメガネ・レンズを開発しております」と意見書に反発してみせた。
都内の小児科医は、眼科は専門ではないと断った上で、「現代の子どもは、デジタル機器の影響か、視力低下が目立つ。保護者は子どもに良いと思うものはなんでもさせたがるものだから、視力低下を心配して、必要でないブルーライトカット眼鏡を購入する等、過剰な反応をしがちなのかもしれない」と推察する。
文部科学省が今年度、全国の小中学生を対象に、近視と生活習慣に関する初の大規模調査を始めたように、確かに子どもの視力低下の問題は社会の重大な関心を集めている。「そうした保護者の心配やメーカーの過剰とも受け取られかねないサービスに、学会としても〝待った〟をかける必要があったのではないか」(同)。
いずれにしても、ブルーライトと視力低下の関係については目下、研究が進められている最中だ。眼鏡の意味がないとは言えないが、過剰に恐れる必要もないというのが現時点での〝エビデンス〟という事か。
新たな視点です