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第136回 片頭痛予防用新規製剤の害

第136回 片頭痛予防用新規製剤の害

 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)に対するモノクローナル抗体製剤のガルカネズマブ(商品名エムガルティ皮下注)が承認され、2021年4月から販売されている。薬のチェック95号(2021年5月発行)1)で批判的に吟味し、「腹式呼吸も含めてあらゆる予防用の手段、治療を講じても生活に著しい支障がある人が、害を覚悟して使う以外、使うべきでない」と結論づけた。その効果と害の概略を紹介する。

片頭痛の発症機序と予防の基本

 片頭痛は持続ストレスとその離脱に伴う、虚血-再灌流性組織障害とその修復のための炎症が基本にある。その予防は、ストレスを持続させないための休息と腹式呼吸、睡眠剤に頼らない十分な睡眠など、非薬物療法が有効であり基本となる。

 片頭痛発作抑制のための薬物療法の第一選択は経口プロプラノロールであるが、腹式呼吸とのランダム化比較試験では、中止後の再発防止は腹式呼吸が優れていた。バルプロ酸も2011年に、片頭痛発作の予防に承認されたが、妊婦や妊娠する可能性のある女性には使えない。また、精神神経系の害を考慮すると勧められない。

ガルカネズマブの臨床効果

 ガルカネズマブは、片頭痛の発症に関係する神経ペプチドの一種CGRPに対するモノクローナル抗体で、皮下注射で月に1回使用する。CGRPは血管拡張作用があるため、ガルカネズマブが結合して生理活性を阻害すると血管が収縮する。これが、片頭痛予防に関係していると考えられている。

 既存の薬剤プロプラノロールやバルプロ酸との直接比較試験は実施されていない。

 ガルカネズマブは、1カ月に平均約9回程度頭痛が起こる反復性片頭痛患者でも、1カ月に平均約19回頭痛が起こる慢性片頭痛患者でも、プラセボ群と比較して、月に2回程度発作が少なくなっていた。

 また、既存の片頭痛予防用薬剤で効果が不十分だった片頭痛患者(1カ月に平均約13回頭痛)では、3カ月間使用して、プラセボ群よりも約3回頭痛回数が減った。しかし、反復性片頭痛患者(頭痛が1カ月当たり15回未満)もしくは、慢性片頭痛患者(頭痛が1カ月当たり15回以上)のタイプごとに分けて解析した結果では、減少傾向はあったものの有意差があったかどうかは、記載がなく不明である。

重篤な害反応の頻度が高い

 血管収縮作用に関連する害として、動物実験では骨塩量減少・骨梁の骨密度が減少、胎仔に骨の奇形が認められている。また人でも、自発報告をもとにした調査で、血管収縮作用に関連する害として、脳卒中や心筋梗塞など重篤な心血管疾患が1年間当たり500人に1人に生じていた。アナフィラキシーは、4000人に1人生じていた。半減期が長い薬剤であるため、起これば重篤になる可能性がある。

 更にガルカネズマブは胎盤を通過し母乳にも移行し奇形も認められているが、添付文書の妊娠可能女性への注意の記載は不十分である。

実地臨床では

 年間薬剤費は60万円と著しく高価だ。片頭痛の予防には睡眠剤に頼らない十分な睡眠と休息が重要。まずこれを見直し、腹式呼吸も含めてあらゆる予防用の手段、治療を講じても生活に著しい支障がある人が害を覚悟して使う以外、使うべきでない。

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