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未来の会

創意工夫で首都の「医療と命」を守る ~地域包括ケアシステムを新型コロナ診療に転用~

創意工夫で首都の「医療と命」を守る ~地域包括ケアシステムを新型コロナ診療に転用~
尾嵜 治夫(おざき・はるお)1951年東京都生まれ。77年順天堂大学医学部卒業。79年順天堂大学医学部循環器内科学講座入局。87年順天堂大学医学部循環器内科学講座講師。90年おざき内科循環器科クリニック開設。2002年東久留米医師会会長(〜08年)。11年東京都医師会副会長(〜15年)。15年公益社団法人東京都医師会会長に就任。16年公益社団法人日本医師会理事に就任。

新型コロナウイルスの感染拡大により、この1年数カ月間、東京の医療は何度も逼迫し、医療崩壊の危機にもさらされてきた。その度に、PCRセンターの設置、ホテルを借り上げての宿泊療養等、新たな策で乗り切ってきた。第4波では、地域包括ケアシステムをうまく活用する事で、患者の流れを良くし、自宅療養の人達を見守る仕組みを作っているという。医療を守り、人々の命を守るための東京都医師会の取り組みについて尾﨑治夫会長に話を聞いた。

——現在の新型コロナウイルスの感染状況をどう見ていますか。

尾﨑 変異株が出てきた事によって、第3波までとは全く違った局面を迎えていると考えています。感染力については、国立感染症研究所では従来の1.3倍と言っていますが、イギリスの論文では1.9倍というのもあるので、1.3〜1.9倍程度の感染力があると考えればよいでしょう。若い人を含めたあらゆる世代が感染していて、40歳以上では重症化率が従来の2倍、60歳以上では3倍です。重症化するまでの期間も短くて、従来は重症になるまでに平均8日程度でしたが、変異株では6日程度ですから、すぐ受診しなかったりして遅れると、入院してたちまち重症化してくる。すぐに入院出来ずに自宅待機が続いていると、そういうケースが増えてくる可能性があります。

——これまでの状況とは、かなり様相が異なるのですね。

尾﨑 第1波、第2波、第3波と経験してきて、またかと思っている人が多いのですが、そうではないんですね。第1波の時のように、得体のしれないウイルスだという気持ちを持って接しないと、かなりまずい事になってくると思います。大阪の現状を見ても、緊急事態宣言を早めに解除したのが甘かったのではないかという見方もありますが、それは少し気の毒です。大阪も一時は1日の新規陽性者数が2桁になっていましたからね。あの状況なら、日本のやり方であれば、経済を動かす事になります。ただ、解除した時に変異株が30〜40%を占めていました。それが、今はほとんど100%になっています。4月28日に行われた東京都のモニタリング会議の発表だと、東京も既に変異株が60%ですから、あと2週間くらいで100%近くになる可能性は十分にあると考えています。

——3回目の緊急事態宣言が出ましたが。

尾﨑 1回目と2回目はピークアウトしてきたところで出ましたが、今回の緊急事態宣言は、東京にとっては早い時期に出してもらえました。第3波がピークアウトしたのは正月休みの影響があったと考えられていますが、今回は連休前に出ました。正月休みに近い状態を再現出来れば、連休明けにはピークアウトしていくのではないかという期待は持っています。

PCRセンターも宿泊療養も東京が始めた

——この1年数カ月の国のコロナ対策については、どう評価していますか。

尾﨑 行き当たりばったりの政策という印象を受けます。第1波の時も、たまたまうまくいって偶然抑えられたわけです。それで少し落ち着いたら、経済、経済と言い出すのですが、その後の展望がないから、再び上昇を始めると慌てふためいて止める。安倍政権も菅政権も、その繰り返しでした。しっかり長期展望を持つべきだと思います。例えばスペイン風邪のパンデミックは、終息までに3年かかっているんです。あの時代にはワクチンという武器はありませんでしたが、当時と比べるとグローバリゼーションで人の動きは全世界的に活発になっています。やはり、これはどう見ても2年か3年はかかると。そういう長期展望に立ったコロナ対策が必要だったと思います。それから、感染症対策というのは国家の安全保障に関わってくるので、そういう観点を持って対処していくべきです。軍隊を持っている国だったら、当たり前のように考えている事だと思います。そういう緊迫感が感じられません。昨年8月頃ですが、私は特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)を改正した方がよいと思い、「新型コロナウイルスに夏休みはありません」と何回も言っていたのですが、結局、特措法が改正されたのは年が明けた2月でした。半年遅れているわけです。今は有事だからどんどん先手を打たなければ、という危機感が全く感じられません。

——東京都医師会はコロナ対策としてどのような事をしてきたのですか。

尾﨑 第1波の時はPCR検査がなかなか受けられませんでした。肺炎を発症している患者が、37.5℃以上の熱が4日続いてないからと、検査を受けられなかったりしたわけです。医師会の会員から、何とかしてほしいという声があり、それなら自分達でやろうという事で、東京都医師会が中心になってPCRセンターを作りました。今でもちゃんと動いています。これはよいという事で、厚生労働省がまねて全国展開させたわけです。それから、唾液でPCR検査が出来るようになってからは、これならクリニックでも出来るという事で、検査出来る施設を増やしていったわけです。現在、都内にある約3000のクリニックでPCR検査をやっています。感染の可能性がある人を拾い出すための検査体制は、もうしっかり整いました。これも国に任せていたら、いつになったか分かりません。

——ホテルでの宿泊療養も東京が最初に行いましたね。

尾﨑 第1波の時、3000人くらいが入院して医療が逼迫しました。新型コロナは2類相当とされたので、無症状者でも入院だったわけです。患者があふれる前に厚生労働省に伝えてもらって、このままでは無理だからホテルでの宿泊療養に移してもいいかと聞いたところ、一部の人はいいよと言ったわけです。ところが別の部署が駄目だと言い出して、1カ月駄目だと言っていました。その間に患者が3000人にも脹れてしまったわけです。結局、宿泊療養に移す事になりましたが、これも我々が最初に始めた事でした。

地域包括ケアシステムをコロナに転用

——現在、新しいアイデアはありますか。

尾﨑 日本の医療はどうしてこんなにコロナに弱いのかとか、民間病院が全然協力していないではないかと批判されたりしました。いろいろ理由はあるでしょうが、1つは日本の医療を超高齢社会に合わせてきた事が関係しています。2025年に全ての団塊の世代が75歳以上になるので、超高齢社会に対応出来る医療体制を作ろうという事で、2019年まではそれに取り組んできたわけです。急性期の病院が多過ぎるから、それをどんどん減らして、リハビリをやるような病院を増やせというのが国策だったわけです。今、誰もそれを批判していませんが、簡単に言えば、コロナの患者を診るような急性期の病床をどんどん減らしてきていたのです。私達もそれに協力して、地域包括ケアシステムを中心とした医療体制を作り上げてきました。ところが、コロナの時代になって、お前達、今まで何をやってきたのだと言われてしまう。

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