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精神保健指定医の取り消し処分は「後出しじゃんけん」

精神保健指定医の取り消し処分は「後出しじゃんけん」
東京高裁が判決で厚労行政を痛烈に批判

精神保健指定医の取消処分を違法として、高橋恵·北里大医学部准教授が国を訴えていた裁判で、東京高裁は1月27日、高橋氏を敗訴とした東京地裁の判決を破棄、取消処分を違法とした。国は2月10日、最高裁への上告を断念、判決が確定。判決では処分基準について「アンフェアな後出しじゃんけん」と批判。2月8日に会見した代理人弁護士の井上清成氏は「かなりきつい物言いをしてい↘る事で、厚労行政にくさびを打ち込んだ判決」と評した。

 この問題は、聖マリアンナ医科大病院で精神保健指定医の不正申請が明るみになった事をきっかけに厚労省が調査を行い、2016年に高橋氏ら89人が精神保健指定医の取消処分を受けたものだ。処分取消を求めた医師の裁判では、田沼龍太郎氏が昨年11月、最高裁で勝訴が確定したが、もう1人の医師は敗訴が確定。いずれも高橋氏が指導した申請医だった。

 2人は、チーム医療を行っていた症例を高橋氏の指導の下でケースレポートにしたが、カルテ記載が少ない事を理由に、自ら診断治療に関わっていない症例を不正申請したと認定され取消処分を受けた。しかし判決の中で、敗訴した申請医にも十分な関与が認定された事から、高橋氏は「厚労省には判決内容を踏まえ、処分を見直していただきたい」と述べた。

 井上弁護士によると、高裁判決のポイントは以下の通りだ。

 ①指定医事務取扱要領における「同一症例について、同時に複数の医師がケースレポートを作成することは、認められない」という規定は申請時期が異なる年度であれば、同一症例について複数の医師が申請可能とも読めるとの解釈を示し、チーム医療においては同一症例について、複数の医師が自ら担当として診断または治療に十分な関わ↖りを持つ事も通常であると認定した。

 ②厚労省が16年10月26日にプレスリリースした「精神保健指定医に対する行政処分等について(概要)」における記述のうち、「行政処分の対象者に関する考え方」を「処分基準」であると認定した。処分基準を予め決めていたのではなく、処分発表の当日のプレスリリースで公表した事を問題視、判決が「後出しじゃんけん」と批判した理由だ。

 また、担当として十分な関わりを持ったかどうかをカルテ記載の量と質のみで判断する事は、チーム医療による治療に関しては精神科医一般の認識と大きく異なっていたと指摘した。

 ③指導医に対する処分は結果責任を問われたものであると認定した上で、「指定医として著しく不適当と認められるとき」に当たるか否かは、好ましくない結果の具体的な内容や社会一般、公益に及ぼす好ましくなさの程度、そのような結果が発生した客観的な過程や客観的な原因、緊急の必要性の程度等を検討して、処分の適法性を判断するとした。

 ④本件病院精神科病棟のチーム医療体制において、カルテ記載担当者以外のチーム内の医師によるカルテ記載は少なくなる事から、カルテ記載担当者でない申請医が「自ら担当として診断または治療に十分な関わりを持った」かどうかの判断は、カルテ記載の量や質を重視するのではなく、チーム内における申請医の診断や治療への関与の態様を個別具体的に検討する他ないと判断した。

 ⑤仮に「指定医として著しく不適当」であるとしても、指定医の指定取消ではなく、指定医の職務停止処分とすべきだったと判断した。

 高裁判決はチーム医療の実態を細かく認定し、適正に行われたと判断、形式的なカルテ記載に基づく国の処分基準の理不尽さを指摘した。厚労省は、取消処分を受けた医師らに対し、謝罪による名誉回復と補償を行うべきではないだろうか。

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