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未来の会

第157回 「病床確保計画の実効性」はワクチンの普及次第

第157回 「病床確保計画の実効性」はワクチンの普及次第

 厚生労働省は新型コロナウイルス感染症患者が再び急増する事を想定し、都道府県に病床確保計画の見直しを求める通知を出した。

 昨年の計画が「絵に描いた餅」に終わっているためで、新たな計画では実効性を重視し、緊急時の一般医療の制限にも踏み込んでいる。

 しかし、病床が逼迫する構造的要因に変化はなく、「ワクチンの普及をにらんだ綱渡り」(厚労省幹部)というのが実情だ。

 昨年夏、各都道府県は必要病床数の確保に着手。計画では、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)などを備えた重症用病床は全国で3600以上確保出来たはずだった。

 ところが、昨年11月以降の感染拡大「第3波」では、重症患者が全国で500人前後となった段階で病床が逼迫。入院出来ない高齢者の容体が急変して死亡する等の事態を招いた。ベッド数はともかく、人的体制を整える事が難しかったためだ。ECMO1台の操作でも、臨床工学技士等含め10人近いスタッフを要する。更に、感染症専門医は極めて少ない。

 こうした反省を踏まえ、新たな計画では個別の病院ごとに受け入れ可能な病床数を把握する事にした。大学病院には重症者を、公立・公的病院には中等症患者を受け入れてもらう等の割り振りを求める。確保する病床数は自治体と病院間で事前に合意を結ぶ。

 また、変異ウイルス拡大等の「緊急時」を想定した計画を別途、4月中に策定するよう要請。感染者が第3波のピーク時の2倍になる等した場合は、コロナ外の入院等を先送りしてコロナ用病床を確保する事等も求めた。

 田村憲久厚労相は3月23日の記者会見で第3波を振り返り、「(病床の確保が)追いつかなかった。あらかじめ医療機関と話しておいて対応する事が大事」と語った。

 それでも、国が感染症を軽視してきた弊害は大きい。1990年代以降、コストのかかる感染症病床は次々削除され、コロナに対応出来る第2種感染症指定医療機関は351に留まる。病床転換を迫られた医療機関は医療スタッフが少なくて済む療養型を選択し、効率よく利潤を上げられる態勢を整えてきた。

 厚労省幹部は「そうした病院には、補助金を積んでも『今さら感染症患者なんて受け入れられない』と言われますよね……」。

 日本の病院は民間が8割を占め、行政のコントロールが利きにくい問題も依然横たわっている。「医療体制整備は都道府県の役割」として、国は主体性を発揮してこなかった一方、都道府県側も「医療」を担う当事者意識は薄かった。2月の感染症法改正で知事が病院に病床確保を勧告し、従わなければ病院名を公表出来るようにはしたものの、要請ベースに変わりはなく実効性には疑問符が付く。

 日本全国には約153万の病床がある。ただ、コロナに対応しているのは2%未満、約3万床にすぎない。都内のある中規模民間病院は、コロナのPCR検査はしても入院患者は受け入れていない。

 空き病床率は5割程度というが、職員は「人も体制も整えられない上、コロナ対応をすれば赤字が拡大する。入院患者の受け入れは無理。中小民間病院はどこも同じでは」と話す。

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