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社会福祉法人大磯恒道会「破産」の真相①

社会福祉法人大磯恒道会「破産」の真相①
破産管財人の仮面を被った危険な弁護士

 長い歴史を誇った社会福祉法人大磯恒道会(神奈川県大磯町)が2018年12月6日に破産した。または破産させられた。「仕組まれた偽装破産」という言葉が一番正確かもしれない。歴史の長さと反するように、実にあっけない結末だった。苦しい経営状況の中、大磯町や平塚市や地元の信用金庫等の厚い支援を受け経営を続けていたにもかかわらず、最後に乗り込んで来た理事ファミリーらに騙された。用意周到に仕組まれた破産劇であり、多くの闇が隠されている。これから闇の中で蠢く人々を連載でお伝えする。

 18年12月6日の昼、突然、大磯恒道会準破産申請への衝撃のニュースが職員の間を駆け巡った。幹部職員も知らされていなかった。その直後、大磯恒道会の実質的な理事長で、突然の破産を申請した張本人、山下純一(仮名)から「幹部は明日の13時に本部集合」と伝えられた。7日13時。不安な幹部を前に山下は「大磯恒道会は残念ながら破産をしたが、今後の経営は私が理事長をしている社会福祉法人豊友会(山口県下関市稗田町)が経営を引き受けました。よって皆さんの雇用は豊友会が2019年1月1日付で引き継ぎますので、安心してください」という説明が行われた。山下にとって念願だった社会福祉法人大磯恒道会を手に入れた瞬間でもあった。

 山下の隣には大磯恒道会の破産管財人に任命された上野保弁護士が立っていた。この男は破産管財人の仮面を被った危険人物なのだ。それらをこれから説明していく。

DDの意味を知らない破産管財人

 17年9月9日、弊社集中出版は大磯恒道会へ3000万円を貸し付けた。当時の大磯恒道会理事長、中井弘隆(仮名)からの要請だった。中井は弊社が社会福祉法人や医療法人の経営改善や再建支援を業務の1つとして行っている事を知り、資金調達の相談に来ていた。

 14年、東京都江東区の社会福祉法人あそか会の経営者一族による不正経理問題が朝日新聞の1面で報じられ、世論を騒がせていた。この時、東京都議会議員からの依頼もあり、弊社は元東京地検検事である弁護士らと共にあそか会の経営の立て直しを図った。当時、この話を聞き付けた中井は大磯恒道会の経営改善もお願いしたいと、あそか会に弊社代表・尾尻を訪ねて来た。窮状は理解したものの、同時に2つの社会福祉法人の支援は無理だと断った。

 それから3年が過ぎ、中井は17年夏に再び窮状を訴えて来た。中井は、弊社からの資金調達と同時に尾尻への理事長就任を要請してきた。その後、双方が合意した内容は、弊社が1億5000万円の資金提供を行う、そして尾尻が理事長職を受ける、この2つだった。当然ながらデューデリジェンス(財務・経理・法務等の調査、以下DD)を行い、瑕疵がなければという大前提で合意した。そして覚書を締結した。M&A(企業の合併・買収)では、このDDの結果を元に全てを判断する。DD次第では売買契約が不成立になったり、売買金額が大きく変わったりする事は常識だ。

 しかし、管財人の上野は驚く事にDDの意味を知らなかった。または知らない振りをして破産後に弊社に攻撃を仕掛けてきた。あえて「攻撃」という言葉を使った理由も後述するが、弊社は受けて立った。

 中井は弊社が行うDDに要する時間が待てないほど資金繰りが悪化していると強く訴え、弊社は覚書締結当日に3000万円を貸与した。これは弊社としても大磯恒道会を救済したいという強い思いがあったからだ。しかしDDの結果、覚書の実行は不可能となった。理由は過去の経営に弊社が看過出来ない金銭的な問題がある事が複数発覚したからだ。中井からこれらに関する事前説明はなかった。弊社は17年11月9日に中井へ覚書の解除を通知した。中井は覚書の破棄を承諾し、3000万円は可及的速やかに返済するという紳士協定を結んだ。この紳士協定も大磯恒道会を救済したいという弊社の意思表示だった。

 覚書の破棄直後に、中井は既に神奈川県庁へ尾尻新理事長決定の報告をしてしまっている事から、尾尻に理事長職だけは何としても引き受けてほしいと懇願した。これに応え尾尻は12月1日に理事長に就任した。

 しかし、大磯恒道会は引き続き新理事長候補者探しと資金調達に奔走しており、中井の頭の中には既に候補者がいた。山下純一だ。山下は過去に中井の下で大磯恒道会の理事を務めた時期もあった。「大磯恒道会の理事にしてくれれば、自分の資産を提供する」という裏付けのない話を、資金繰りの窮していた中井は信じ、山下を理事にした。しかし、約束した資金調達は架空話と分かり理事を辞めさせた。そんな問題ある男の再登場だった。中井は山下の言葉を再び信じ、後継者として迎え入れた。同時に、中井は山下の過去の不都合な行状を知る幹部を退職させた。ここから大磯恒道会の迷走が始まる。

仕組まれたマッチポンプの破産劇

 18年春以降、大磯恒道会は中井主導の下で山下新理事長体制に向けて動いていた。同年8月23日に開催された第52回大磯恒道会理事会の第1号議題は「理事長の選任」だ。理事会で話し合われる議題は理事会の招集通知に記載される事が義務付けられている。この理事会で山下が新理事長に就任する予定だった。

 しかし、理事会開催の30分前に突然、山下は理事長就任を来年1月1日に延期をしたいと言い出した。明確な理由は無く「待ってほしい」の一点張りだった。この日の理事会は1号議題が消えた事から流会となり、1カ月後の9月29日に改めて第53回理事会を開催。尾尻の理事長辞任と山下が19年1月1日付で新理事長に就任する事を承認した。

 翌日、「理事会議事録」は神奈川県保健福祉局に提出されたが、次期理事長となった山下は尾尻の理事長辞任の登記をする事は無かった。登記上の理事長は尾尻のまま、山下は理事長の実印を得た。これが重要だった事は後日に判明する。やはり詐欺師のような男と言われるだけの事はある。これは破産へ向けた第1幕だった。

 この日から大磯恒道会の理事長不在は3カ月に及んだ。驚く事に理事長不在は17年にも起きており、高齢者の命を預かる社会福祉法人でありながら、短期間で2度目となる理事長不在となった。

 不思議な事に県保健福祉局は、理事長不在の期間中「全ての責任と義務は辞任した前理事長が持つ」と山下らに伝えていた。ここに推理小説にあるような「空白の時間」が出現した。これが狙いだった。「全ての責任は前理事長にある」この盲点を熟知していたのが中井と山下だった。そして「空白の時間」を巧みに利用し、理事長印を使用し準破産の申請を行った。

 秘密裏に行われたこの作業に参加したのは、山下と破産管財人・上野と弁護士・加々美博久だ。「空白の時間」を利用したお陰で破産申請者名義は尾尻となった。そして、破産した大磯恒道会の引き受け手は山下が理事長である豊友会となった。素人でも分かるマッチポンプだ。これを詐欺と呼ばずに何と呼ぶか。

 山下は尾尻名義で作成した破産申請書にも理事長実印を捺印し提出。そして山下純一名義の社会福祉法人豊友会が受け皿となった。監督官庁の県保健福祉局は見抜けなかったのか、目を逸らしていたのか。

 しかし、用意周到ながらも胡散臭い話は必ず暴かれる。いずれ刑事事件になる話だ。次号でそれを暴く。
(敬称略)

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