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オンライン診療トップ・メドレー豊田氏の「不覚」

オンライン診療トップ・メドレー豊田氏の「不覚」
「文春砲」不倫報道で失った社会的信頼と16億円

CLINICS(クリニクス)」というスマホアプリを開発し、オンライン診療をいち早く手掛ける事で市場を席巻した医療ベンチャーの「メドレー」。菅義偉首相が本格的にオンライン診療の普及を進めようとした矢先、〝時代の寵児〟ともてはやされた共同代表の1人で代表取締役医師だった豊田剛一郎氏(36歳)の不倫が週刊文春で報じられた。豊田氏が早期に辞任す↘る事で、業績への影響を最小限にとどめたが、一代でベンチャーを創業したと誤解されがちな豊田氏とはどんな人物だったのか——。

 まずは、豊田氏の経歴を簡単に振り返ろう。豊田氏は元衆院議員で元大蔵官僚の潤多郎氏を父に持ち、開成中高を経て2009年に東京大医学部を卒業した。聖隷浜松病院やNTT東日本関東病院で脳外科医として勤務した後、アメリカに留学。その際、アメリカの医師免許も取得している。13年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに転じ、ヘルスケア業界の戦略コンサルティング等に携わった。

 一方、メドレーは09年に事業を開始している。医療・ヘルスケア分野の課題解決に取り組む医療ベンチャーとして立ち上がったが、手始めに医療介護の人手不足解決策として医療介護の求人サイトを始めた。創業したのは、開成中の同級生だった瀧口浩平氏(代表取締役社長)だ。

 豊田氏がメドレーに入社したのは15年2月だ。豊田氏は入社のきっかけについて、毎日新聞のオンラインインタビューで「臨床現場にいる医師として医療制度のひずみがどんどん大きくなっていくのを感じていました」と動機を明かしている。そこで豊田氏は、少子高齢化で社会保障費は増大する一方、医療資源の効↖率な利用が進んでいない現状を嘆き、自身の問題意識に言及している。

オンライン診療普及推進の「広告塔」

 豊田氏はこのインタビューで「入社して半年後の15年8月に、厚生労働省がオンライン診療を事実上、全国で実施可能とした通知を出しました。この通知は医療分野に大きな変化を与えるんじゃないかと思いました」と振り返り、オンライン診療の分野に進出するきっかけを述べている。メドレーがクリニクスを開発して販売を始めたのが16年2月の事だ。

 同様のインタビューはネットにあふれており、こうした記事を読めば、改革に燃えた若き医師が旧態依然とした医療業界に一石を投じようと医療ベンチャーに身を投じた、という美談に仕上がる。こうしたイメージ戦略をうまく活用し、オンライン診療という最先端の医療技術を駆使した分野に参入したベンチャー経営者として、一躍時代の寵児へと駆け上がったのだ。

 メドレーの業績が右肩上がりになるとともに、豊田氏の交友関係も派手になる。実業家の堀江貴文氏やタレントの西野亮廣氏らと対談を重ねて露出を高めた他、東京大学医学部の先輩に当たる迫井正深・厚生労働省医政局長や日本医師会の横倉義武会長(当時)ら「官界」や「医療業界」の実力者ともパイプを持った。更に、安倍晋三首相(当時)や官房長官時代から菅首相とも面会し、オンライン診療の普及を訴える等、そのロビー活動は次第に幅を広げていった。

 その結果、昨年11月14日には菅首相と午後2時から30分ほど会談し、新聞の「首相動静」に掲載されたり、厚労省の実証実験事業に参画したりする等、その信用度を高めていったのだ。その若さと甘いルックスに加え、「東京大医学部卒業」「大手コンサル出身」という抜群の経歴を引っ提げ、「広告塔」としての役割を十二分に果たした。

 しかも、オンライン診療では医師会が嫌がる対面原則に配慮し、「あくまでオンライン診療は補完だ」と言い回り、敵を作らないようにする立ち回りのうまさを見せつけた。

 こうした広告効果が現れたのか、折しも新型コロナウイルスが感染拡大し、日本全体が停滞する中、菅首相がオンライン診療を推進する事を発表する等、メドレーは業績の好調ぶりに拍車を掛けていった。

 特に2月12日に公表した20年12月期の決算で、その勢いをみせつけた形になった。売り上げは前年比43%増の約68億円を記録し、営業利益は2・6倍となる約4億円の増収増益に。売り上げの8割は人材プラットフォーム「Job Medley」だったが、5614医療機関が導入しているクリニクスは、2倍の約10億円を売り上げた。来季の売り上げ予想は全体で100億円と強気の姿勢を崩さない。

妻は才色兼備の小川彩佳アナ

 しかし、こうしたメドレーの好調ぶりとは裏腹に、この直前の2月3日、思いも寄らぬ「文春砲」が豊田氏を襲った。小川彩佳(36歳)という誰しもがうらやむ才色兼備のアナウンサーを妻に持ちながら、年明けの緊急事態宣言の最中に妻と同い年の愛人と密会を重ねていたと報道されたのだ。しかも、その関係は結婚前後から続いていたとされ、第1子が産まれた後も変わらなかったというのだから救えない。

 成功者としての名声をほしいままにしていた豊田氏だが、「身から出た錆」という格言そのままにここから転落の一途を辿る。豊田氏をよく知る人物は「昔から女好きで有名だった。特に結婚後も妻が深夜のニュース番組に出ているのを良い事に、合コン三昧だったようだ。女性問題が明らかになるのも時間の問題だった」と明かす。

 こうした「裏の顔」が明らかになると、これまで築き上げてきた「広告塔」としての価値を失うのは早かった。

 問題発覚を受け、メドレーは代表取締役を解任し、常勤の取締役に「降格」させた。豊田氏は信用回復のため21年12月期に発生する役員報酬を返上し、保有するストックオプションの未行使分(32万株)の放棄を余儀なくされた。32万株は2月3日の終値5060円と換算すると16億円相当に上り、巨額の資産を失う羽目になったのだ。

 先の人物は「メドレーにとって豊田氏は単なる広告塔。経営にもあまりタッチはしてこなかった。こうした問題が起きれば、切る判断も早かった」と明らかにする。

 メドレーが豊田騒動に見舞われる中、ライバル会社の「インテグリティ・ヘルスケア」や「MICIN」は着々と地歩を固める。

 ある業界紙記者は「メドレーの瀧口氏は表に出てこない事で有名。実際の経営は瀧口氏がこなし、見た目がよくしゃべりのうまい豊田氏を広告塔としてうまく使ってきたが、豊田氏の後任がいないのか、ここのところロビー活動は衰えてきた印象が強い。ライバルの2社はそこにうまく付け入って活動を広げている」と業界の勢力図が変わる可能性を示唆する。

 影響は最小限にとどめたメドレーだが、今後の広報戦略は見えてこない。一方、豊田氏は一度失った世間の信用を取り戻すのはそう簡単ではない。「オンライン診療で、患者と医療との向き合い方を変えたい」という理想を語るのが口癖だった豊田氏。医療分野への改革の志は本物だったのか。単なる「メッキ」だとすれば、剥がれるのは意外にあっという間だった。

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