14年に及ぶ「大学支配」で生じた歪みにメスが
北の大地が燃えている。週刊誌報道で表面化した旭川医科大学(北海道旭川市)の吉田晃敏学長のパワハラ疑惑が思わぬ広がりを見せているのだ。
学内やインターネットでは吉田氏の解職を求める署名活動が展開され、文部科学省も事の成り行きを注視している。北海道の長い冬は、いつ雪解けするのか。
「同大の問題が表面化したきっ↘かけになったのは、旭川市の慶友会吉田病院で昨年11月、新型コロナのクラスターが発生した事でした。患者の転院がうまくいかず状況が悪化した事を吉田病院の理事長が暴露し、その〝戦犯〟の1つに、旭川医科大学病院が挙げられたのです」(全国紙記者)。
吉田病院の理事長は同病院が患者の受け入れを拒否した事、クラスターが発生したと同時に派遣医師を一斉に引き上げた事をホームページで批判。その後はこの問題で取材に応じていないが、『週刊文春』の取材で、旭川医大病院が吉田病院の患者1人を受け入れる事になったものの、吉田学長が受け入れを拒否していた事が判明した。
吉田学長は、学内の会議で「吉田病院があるという事自体が、ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅとコロナを巻き散らかして」等と発言し、この録音も〝文春砲〟で明らかになった。
パワハラ被害訴えた病院長がクビに
文春の記事は、患者を受け入れるよう進言する古川博之病院長に対して、吉田学長が「患者を入院させるなら、病院長を辞めろ」と言い放った事も報道。これがパワハラに当たる可能性があるとして、文科省が調査に乗り出す事態となった。
その後も、吉田学長の暴走は止↖まらなかった。週刊誌に自身の音声が流れた事に激怒、音声を漏洩させたのは古川病院長だとして、1月25日に突然、古川病院長を解任したのである。
「発言が報じられた後、学長は一応謝罪をし、問題の幕引きを図ったつもりだった。しかし、古川病院長は患者受け入れ拒否の真相について、その後も複数の報道機関のインタビューを受けた。こうした古川氏の行動が〝謀反〟と受け取られたのだろう」(全国紙記者)。
関係者によると、大学は1月中旬、古川氏に聞き取り調査を行い、「音声を流出させたのは古川病院長だった」と認定し、病院長を辞めるよう迫った。
しかし、古川氏が従わなかった事から解任したとみられる。パワハラの疑惑を持たれている人間ではなく、パワハラの被害を訴えた人間がクビになるとは、とんでもない人事である。
旭川医大の1期生で、出身者として初めて学長となった〝本流〟の吉田氏に対して、古川病院長は神戸大出身の〝傍流〟。吉田学長が眼科医なのに対して、古川病院長は肝臓移植を手掛ける外科医だ。「新型コロナで吉田学長と古川病院長の対立は決定的になったが、古川氏を病院に連れてきたのは吉田学長なのに……」と同大関係者はため息をつく。
古川氏を招いて同病院では生体肝移植が行われるようになり、学長1期目だった吉田氏は更なる拡大を期待したという。ところが、思ったほど件数が伸びない事に不満を持っていたとも囁かれる。
一方的な処分によって解任された古川氏だが、当然黙ってはおらず、2月1日に大学側の言い分に反論する会見を開いた。録音データの漏洩を否定し、処分の取り消しを求めるとともに、改めてコロナ患者の受け入れを巡り、学長からパワハラを受けたと主張。漏洩の事実関係はどうであれ、対外的には病院のトップである病院長を一方的に解任する強権を発動する学長、並びに理事会のガバナンスは明らかに崩壊しているように見える。
当然、こうした大学の現状に一部の医師達は憤り、「旭川医科大学の正常化を求める会」を発足させた。発起人には、同大名誉教授の葛西眞一氏を始め、古川氏を含む現職の教授や准教授ら22人が名を連ねた(その後、発起人は増加)。同会は吉田氏に学長の辞職を求めるとともに、もし辞職をしない場合は、学長選考会議に対して、文部科学大臣に学長解任の申し出を行うよう求め、署名活動を始めた。
「署名は学内限定で2月末まで集められ、全教職員数(2083人)の過半数となる1106人の署名を集めた。会は3月1日、新学長が決まるまで吉田学長の学長職務を停止するよう学長選考会議に要請した事も明らかにした」(全国紙記者)。
古川病院長の例をみても分かる通り、「これまで吉田学長と対立したり不興を買ったりした職員は辞めさせられたり、医大を去ったりしており、名前を出して発起人になった医師達も、署名した職員達も、相当な覚悟を持って臨んだに違いない」と同大の元職員は同情する。
北海道の医療にも及ぼす悪影響
学内だけではない。「正常化を求める会」に先駆けて全国で署名活動を始めたのは、旭川医科大皮膚科学講座の元助教授で、同大1期生だった吉田氏を教えた水元俊裕医師が代表を務める「吉田晃敏旭川医科大学学長のリコールを求める全国有志の会」だ。
1月中旬にサイトを立ち上げ、インターネットの署名サイトも使って2月末までに全国から1万人以上の署名を集めたのだ。
水元医師は同大退職後も旭川市で長年、皮膚科医として勤務しており、同大のごたごたが道東を中心とした北海道の医療に悪影響を及ぼしている事も危惧している。
「吉田学長を始めとするほんの一握りの人間による愚行により、旭川医科大学の卒業生や在校生、旭川医科大学病院の職員等が理不尽な境遇に追いやられている現状に、もう黙って見ている訳にはいかないと立ち上がる事を決意した」と述べている。
水元医師が指摘する通り、吉田学長の長年にわたる「大学支配」は、地域医療にも深刻な影響を与えている。一連の問題が様々に報道される中で、吉田氏が滝川市立病院(北海道滝川市)とアドバイザー契約を結び、月額40万円の報酬を受け取っていた事が発覚した。
札幌市と旭川市のほぼ真ん中に位置する滝川市に大学病院はなく、医師不足が深刻だ。「同病院は旭川医大病院から医師の派遣を受けており、吉田氏のアドバイザーとしての仕事の実態が確認出来る記録が残っていない事からも、報酬は医師派遣に対する〝礼金〟と解釈するのが普通だ」と病院関係者は語る。
最長6年までの任期を無期限に変え、14年もの間、学長に居座っていた吉田氏は、地域医療にも絶大な力を持つようになっていたのである。
一方、病院長を解任された古川氏は3月で旭川医科大病院を退職する予定だ。息子が古川氏の肝移植手術を受けたという母親は「道北圏の肝臓移植は古川教授以外に頼れる先生はいない。旭川医科大学での高度医療、古川教授の治療を奪わないでください」と訴え、古川氏の解任撤回を求める署名活動を開始。約1カ月で1万5000筆を集め、大学に提出した。
同大関係者は「内部と外部が吉田学長を追い詰め、患者は古川氏の医療を求めている。これを逃したら二度と旭川医大の改革は出来ないだろう」と固唾を呑んで行方を見守っている。
LEAVE A REPLY