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未来の会

コロナ禍における「民間病院」の在り方

コロナ禍における「民間病院」の在り方
地域での役割分担を明確にし、  連携強化で乗り切る

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との闘いに明け暮れた2020年。今年1月に発出された2度目の「緊急事態宣言」は、1都3県でも延長の末にようやく解除に至り、東京五輪までカウントダウンの中で、新しいフェーズを迎える。

 1都3県が宣言の解除に踏み切った理由は、病床指標が改善の傾向を示している事だとされる。内閣官房集計による病床利用率は、3月に入って「ステージ3」の上限である50%を切って下限の20%へと近づいており、3度目の延長は見送られた。

 さて、「病床数が世界一」とされ、医療へのアクセスが良い日本で、しかも、欧米に比べて人口当たり感染者が桁違いに少ないという状況が起きた事に対し、国民からは少なからず疑問の声が挙がっている。日本の病院事情を振り返っておきたい。

 世界に冠たる国民皆保険制度を誇る日本。医療の特徴はいくつもあるが、その1つが、民間病院が多い事。自治体が直接管理出来ない病院が全体の8割を占めている。小規模な病院が多数点在し、全国どこに行っても一定水準の医療が提供出来る事は大きな強みだが、有事の備えや柔軟な対応が不十分だった事は、大きな反省点であろう。

コロナ患者を「広く薄く」受け入れて苦戦

 公的な大病院が多い欧米では、大規模な病院が数十床から100床の単位でコロナ患者を集中的に受け入れており、効率的な対応が取られている。これに対して、日本のコロナ医療が脆弱なのは、多くの病院がコロナ患者を“広く”“薄く”受け入れ、どこも苦戦を強いられて、疲弊してしまったからだとされる。

 時の人、澁澤栄一ではないが、明治以来、日本の近代的な医療体制を整備してきたのは、財源が乏しい国や地方自治体ではなく、主として民間資本であった。とりわけ、1961年の皆保険制度施行によって医療ニーズが急増すると、“保険あって医療なし”と言われる状態は避けなくてはならなかった。元は診療所だったところが病床を持つようになり(有床診療所)、更に20床を超えて病院を名乗るようになり、中小の民間病院が続々と生まれた。

 「病院」と言えば、欧米では基本的に入院施設であり、外来部門を持たない所も多い。これに対して、日本の病院は多くの標榜科を揃えた外来部門を持ち、自院の入院への窓口としてきたと言える。

 民間病院が中小規模に留まっているのは、資金的な理由もある。医療法によって、病院は非営利組織とされた事で、資金を調達する手段として、医療金融公庫はあったものの、基本的には民間資本の借り入れに頼らざるを得なかった。規模の拡大には制限があり、現在も300床未満の病院が全体の8割以上を占めている。

 人口構造や医療ニーズの変化に沿った形に改革するには、欧米のように公的な病院が主体であれば、国が強制力を持って改革出来るのだ。あの“自由の国”アメリカでさえ、公的病院と、民間でありながら公益的な非営利病院を合わせて、総病院の8割、病床数にして85%を占めている。

 1957年から四半世紀、日本医師会(日医)の会長を務めた武見太郎氏は、「プロフェッショナル・フリーダム」の原則を掲げて外部の干渉を嫌い、開業医の利益を重視したとされる。民間病院には「経営の自由」が保障され、競争原理に任せるがまま、介入が行われる事はなかった。

 人口が減少して余剰病床が問題になり、公立・公的病院に対して、民間病院との競合を避けるようにと、撤退を主張したのも、また日医だった。厚生労働省は2019年9月、全国424の病院実名を挙げて公表し、再編統合について調整を迫ったが、その対象は、公立病院と日本赤十字社等の公的病院に限定された。

 そして、未曾有のコロナ禍が襲った。民間病院には、民間病院の事情がある。

 まず、医師の不足だ。人口当たりの病床数は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でトップだが、人口当たりの医師数となると、極めて少ない。“広く”“薄く”配置されているのだ。加えて、ICU(集中治療室)の設置や集中治療専門医も分散している。

 国は、増加した病院の数を調整せず、一方で医療費を削減せざるを得ないため、診療報酬を抑制する時代が続いている。病院は効率を重視するために病床の稼働率を上げ、患者の受診回数を増やす事が、経営上の命題となった。病床の空きにも医師の数にも余裕がない状態が続いていた。病床機能を見れば、慢性期や回復期の病床が半分を占めており、コロナ患者受け入れ可能な急性期・高度急性期病床は全体の半分程度だ。

病院グループは内部の「人事融通」で対応

 民間でも、コロナ患者受け入れに前向きだった病院の例を見よう。

 例えば、埼玉医療生活協同組合羽生総合病院(埼玉県羽生市、311床)は2020年3月から、もう1年以上コロナ患者を受け入れており、4月にはコロナ患者受け入れのための埼玉県の重点医療機関にも指定された。2021年1月にコロナ専用の仮設病棟(80床)を開設した。同院では、コロナとの闘いが長期戦になる事をいち早く見抜いて、対応を取ったとされる。特に看護師が疲弊する事を恐れ、1人が1カ月以上コロナ病棟で勤務しない体制を取った。また、徳洲会グループの支援も見逃せない。県の要請で病棟28床を確保し、更に仮設病棟を増やすに当たっては、同じ徳洲会の別の病院から、看護師の派遣を仰いだ。

 徳洲会グループでは、湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)、千葉西総合病院(千葉県松戸市)でもコロナ専用の仮設病棟を開設。外来患者の減少で収入が落ち込む中、利益の回復が早いのは、むしろコロナ受け入れ病院だという。

 また、兵庫県を中心として、首都圏を含め10病院を運営する伯鳳会グループでは、5つの病院でコロナ患者を受け入れている。こちらもクラスターを出す事なく、収益が改善している。国から病床確保のため、重点医療機関では空床に1日7万円が支給されている事もあり、短期的にはむしろプラスになっている。

 このように、中小規模でもコロナ患者の受け入れは可能だが、グループ内で人材が融通出来るからこそであり、単独の民間病院では困難が伴うだろう。

   東京都杉並区には中規模の民間病院しかないが、民間病院が区立病院としての扱いを受ける事になり、区内の4病院(河北総合病院、荻窪病院、佼成病院、東京衛生病院)が新型コロナウイルス感染症に対応する事になった。うち、河北総合病院(331床)では、小児6床を含め82床をコロナ専用病床(実働は36床)とした。こちらは、自治体の英断が奏功している例である。

 医療の逼迫を避けるため、民間病院に対して、コロナ患者受け入れを進めるべきだという圧力の声が高まっているが、事はそう容易ではない。規模が小さい病院が、医療資源が十分でない状態でコロナ患者を受け入れる事は、病院経営にも患者にもリスクがある。民間病院は感染症指定病院とは異なり、設備面でも職員数でも不利である。クラスターを収束させるだけでも数カ月かかっている所もある。

 非常時と言いつつ、1年が過ぎた。地域において役割分担を明確にし、連携を強化して乗り切るしかないだろう。それを住民に分かってもらう努力も必要である。この1年で何が出来たか、きちんと総括しておくべきだろう。

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