前号でもお伝えした三重大学医学部附属病院を舞台にした贈収賄事件が、新たな展開を迎えている。津地検は製薬会社「小野薬品工業」(大阪市)が三重大学の口座に正規の手続きで振り込んだ現金を「賄賂」と認定したのだ。
現金を受け取った三重大の元教授と、小野薬品の社員は第三者供賄容疑で逮捕された。「表に出ているカネ」が賄賂とされるのは珍しく、製薬企業と医師の関係に対する捜査当局の目は厳しくなっていると言える。
事件は昨年9月、三重大病院の伊佐地秀司病院長の会見から始まった。同院臨床麻酔部の境倫宏准教授=懲戒解雇=が2018年4月〜20年3月、小野薬品が製造、販売する薬剤「ランジオロール塩酸塩(製品名・オノアクト)」を患者に投与したようにカルテを改ざんし、診療報酬を不正に請求していたと公表した。
津地検は境容疑者を公電磁的記録不正作出・同供用容疑等で逮捕した。境容疑者らにオノアクトを積極的に使うようにと指示を出していたのが臨床麻酔部の亀井政孝部長=退職=で、臨床麻酔部は小野薬品から奨学寄付金を受け取っていた。
三重・愛知の両県警合同捜査本部は今年1月、三重大病院の医療機器の納入に便宜を図った見返りとして業者に現金200万円を振り込ませたとして、第三者供賄の疑いで亀井政孝容疑者らを逮捕した。
更に津地検は、小野薬品からの奨学寄付金200万円が賄賂に当たるとして、第三者供賄容疑で亀井容疑者らを再逮捕したのである。寄付金は「正規の手続きで大学の口座に振り込まれており、亀井容疑者らが私的に使い込んだ形跡もなかった」(社会部記者)という。
今回の逮捕に、ある国立大医学部関係者は「製薬企業からの奨学寄附金は一般的であり、これがなくては学会参加や研究も成り立たない。それが立件された事に驚いている」と率直な感想を口にする。
調べでは、寄付金200万円は18年3月20日に振り込まれた。亀井容疑者は翌月、同大准教授から教授に、臨床麻酔部の副部長から部長になった。その直後から、臨床麻酔部では手術時のオノアクトの使用量が増加した。月間使用量の目標を記して「オノアクトを積極的に使おう」と呼び掛ける亀井容疑者の部下宛のメールも見つかっている。「オノアクトが他の同種薬剤より劣っていたのに使っていた等、患者に不利益がなかったかが知りたいところだ」と社会部記者。
前出の医学部関係者は「大学では業者からカネを取ってこられるかが出世の際の評価に繋がる。一方で、製薬企業は薬剤使用の権限を持つ医師に取り入り、販売促進を行う。両者は持ちつ持たれつの関係だ」と明かす。
また、関東地方の総合病院の医師も「企業だって何の見返りもなしに何百万円もの資金を提供しない。今回の事件をきっかけに、企業からの寄付金が減ってしまうのが心配だ」と危惧する。
同大臨床麻酔部では事件後、医師が大量退職した。その原因が亀井容疑者の後任に当たる60代医師の「パワハラ」だったとする報道も出ている。後任医師が麻酔科医らを一連の事件の「共犯者」扱いして高圧的な態度に出たのだという。
大学側も問題を認識しているというが、地域医療を守るためにも職場環境の改善は待ったなしだ。
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