「医療機能の分化と連携」問題先送りのツケが露呈
欧米に比べて病床が過剰なのに、なぜ病床が逼迫するのか——。コロナ禍が「医療機能の分化と連携」の停滞ぶりを改めて浮き彫りにしている。
82大学の医学部長・附属病院長等で構成する全国医学部長病院長会議が1月19日に公表した「新型コロナウイルス感染症患者の受入れ状況調査結果(1月6日午前0時現在)」によると、全大学病院(1216床)の「中等症・軽症病床」における「無症状患者」の比率は27・3%を占め、緊急事態宣言下の4都県の21病院(494床)では33%にも上る事が分かった。
「後方施設の整備状況」については、回答のあった67病院のうち記載のあった65病院の集計結果によると、「整えられている」と回答した病院はわずか16病院(25%)。つまり、回復後も持病等で入院が必要な患者は転院先の後方支援病院がないため、高度医療機関である大学病院にそのまま残る事になる。そのためベッドが空かず、重症患者が入院出来ない状態を招いている。大学病院は診療報酬が優遇される特定機能病院でもある。医療資源の非効率な利用と言える。
一方、日本医師会、四病院団体協議会の日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、そして全国自治体病院協議会の計6団体は1月20日、「新型コロナウイルス感染症患者受入病床確保対策会議」を設置し、コロナ感染者の受け入れ病床を確保するための協議を始めた。
日医の中川俊男会長は同日の記者会見で、中小病院にはコロナから回復後も入院が必要な患者を受け入れる役割が期待されると具体例案を述べた。このような案が出るという事は、前述の大学病院に関する調査結果と合わせると、現状は大学病院と中小病院との連携が出来ていない事が窺われる。
厚生労働省が公表した設立主体別のコロナ患者受け入れ状況では「公立病院71%、公的病院83%、民間病院21%」となっている。全病院数の7割が民間病院ということもあり、民間病院の受け入れ率の低さが批判されがちだ。しかし、民間病院の病床数は全体の半分強で、経営の体力も人材調達力も脆弱な病院が多い。院内感染が起きて休院して赤字になっても、誰も補填してくれない。
医療ビッグデータの分析に基づき情報発信しているグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの調査によると、コロナ感染者に対応出来る医療資源が比較的整っている中規模(200床)以上の民間病院は1割にも満たない事が分かった。政府は高額な支援金を用意したり、コロナ患者受け入れを拒否する病院名を公表する措置を感染症法改正で検討したりしているが、民間病院側としては受け入れようにも受け入れられない状況にある。
日本は欧米に比べて病院数と病床数が多過ぎて、医師や看護師等の医療資源が分散している。OECD(経済協力開発機構)加盟国で比較すると、ドイツは1人の医師が2床、アメリカは1床、イギリスは0・8床を診ているのに対し、日本は5床と突出して多い。
病床が逼迫する中、医療資源の充足状況に応じた病院間の役割分担の明確化と連携が必要だ。先送りしてきた「医療機能の分化と連携」を、コロナ禍の緊急事態下で改めて指摘しなければいけない状況が情けない。
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