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未来の会

第67回 日本での医療オンライン化の難しさ②

第67回 日本での医療オンライン化の難しさ②
医療ICTの逆説

 筆者は医療 ICT(情報通信技術)の逆説と呼んでいるが、変化は必要があるところから起きる、というのがこの逆説の理由である。すなわち日本のように開業医や病院が身近にあり、少なくとも僻地や離島でなければ、30分圏内に医療機関があることが多い国ではどうか。

 その意味では日本は身近さ、すなわち便利さという意味での医療 ICT の恩恵を最も受けにくい国である。ただ、ICT のメリットは身近さや便利さだけではなく、データが統合されるという点がある。

 実は日本の厚生労働省は、ICTによるデータ統合の意味をよく理解しており、数年前からナショナルデータベース(NDB)やNational clinical databaseといった形で、いろいろな医療情報を集約しようという努力がなされている。

 この動きとオンライン診療解禁の動きは、同じIT化であっても必ずしもイコールではないが、厚労省はデータ化・統合化を積極的に進めているように見える。この差は厚労省のそもそものスタンス、あるいは日本国のスタンス故とも思われる。すなわち自分の健康を自分で管理しようという意識が、日本人には少ない。いや正確にはその必要がなかったと言った方がいいかもしれない。

 日本の優れた医療制度である国民皆保険により、あまりお金の事を気にせず、すぐに医療機関を受診できる仕組み、そして民間医療機関が多いために、いわゆる公務員的な対応ではなく、お客様として患者さんを扱う姿勢がある。

face to face医療の転換期か

 ただ世の中は変わる。一番大きな変化は IT 化の進展、中でもスマホの発達であろう。ほんの小さなスマートフォンが、かつてのスーパーコンピューター並みの性能を発揮し様々な問題解決をしてくれる。

 もちろん、スマホではヒューマン対ヒューマンの解決策は提案されず、機械的であるという問題はある。しかし、ここにコロナ禍という変化が起きてしまった。コロナ禍によって、むしろ人と人との距離を置くということが重視されるようになった。

 これは日本の医療にとって大きな衝撃である。例えばスウェーデンとかアメリカのように人口密度の低い国であれば face to faceの医療はそもそも、全国的には起きにくかった。しかし、日本のようにface to faceの医療が常に行われるような国においては、それに適した医療提供体制が作り込まれている。

 次回に譲るが、ある方向に最適化した制度を変えるのは難しい。また、制度を変えても生活者(国民)の行動が変わるかどうかは分からない。

スペイン:カタルーニャ州

 カタルーニャ州の州都バルセルロナにあるサン・パウ病院は世界遺産にもなっている。歴史や伝統も引き継いでいる一方で、同州の医療機関の電子カルテ事情は非常に進んでいる。病院は92%、開業医は100%導入している。

 このように普及していった理由には、TIC Salutという組織の存在がある。この組織は2006年にカタルーニャ州政府によって作られた。その後、州の人口756万人に対して、電子カルテの統一の努力がなされた。現在は政府の外郭の会社で電子カルテが統一されている。そのため患者は医師とメールやチャットでやり取りすることもできる。

 予約に関しても電話・インターネットで可能で、人手を介さなくても自動的に医師の電子カルテ画面に入力されていくという。直接訪問して予約することもできる。

 病院に関しては、開業医ほど電子カルテの統一は簡単ではなかったという。病院では電子処方箋が07年に導入され、10年に完成した。また、画像も08年に導入され、11年に完成した。

 その後、病院同士でやり取りできるように電子カルテが改良され、公的病院では現在それが可能になっている。さらに徐々に皮膚科や眼科を中心にテレメディスンが導入されてきている。

 今後の目標としては、モバイルヘルスということで、様々なアプリケーションを電子カルテに組み込んでいくと言われている。

 患者ポータルの画面からは、医師とのチャットやメールのやり取り、病院や診療所の予約が行える。さらに、健康的な生活を送るためのアプリケーションもいくつか導入され、それらが今後、医師と共有化される方向である。また、このサイトに生前遺書を記入し、医師に管理してもらうことも可能になっている。

日本の医療ICTが遅れている理由

 日本で医療ICTの進歩や普及が遅れている理由を筆者なりに考えてみると、

①日本が医師や医療機関にアクセスしやすい国であり、ICTの助けがあまり必要ではない。

②制度の経済学の視点で言えば、今までICTを使用しない環境が長く続いており、そこからの離脱に時間がかかる。

③医療に限らず、その他のインフラも整っており、国土もさほど広くないので、ICTの優位性が相対的に少ない。

 といったことが考えられる。

 あくまで仮説であるが、読者の皆様の参考になればと思い、提示させていただいた。

 次いで、医療ICTの逆説の典型例として中国の事情を紹介したい。

中国

 中国の医療状況は、日本やアメリカに追い付け追い越せと急速な経済発展を遂げている。 ただ、やはり新興国なので、病院数や医師数が不足している。そのため、すぐに病院や医師を受診することができない。

 かつての日本のように、病院外来には長蛇の列ができている。そこには、中国にはそもそも、日本のようにかかりつけ医という存在がないことも拍車をかけている。

 その問題を解決するため、中国は外資系企業の病院を誘致し、富裕層や外国人が対象ではあるが、病院不足をなんとか解消しようとしてきた。

 そういった動きをとらないと、国営医療で公定価格が決まっているため、賄賂が横行するのである。しかし、病院数や医師数を増やそうという政策の途中でIT 化が進んだ。コロナ以前からではあるが、IT技術を医療に使っている。そして、コロナ禍を見ても分かるように、中国の場合、 ITを非常にうまく活用している。

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