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コロナ禍の大統領選を勝ち抜いた バイデン政権との「新日米関係」

コロナ禍の大統領選を勝ち抜いた バイデン政権との「新日米関係」
海野 素央(うんの・もとお)1960年静岡県生まれ。明治大学卒業。2007年より明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンD.C.)異文化マネジメント客員研究員。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年の米大統領選で研究の一環としてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選ではクリントン陣営に入る。20年民主党大統領候補指名争いでは、バイデン、サンダース両陣営で戸別訪問を実施。『オバマ再選の内幕』(同友館)等著書多数。
——アメリカ大統領選におけるバイデン氏の勝利は何が要因だったのでしょう?

海野 トランプさんの選挙モデルが機能しなかったという事です。トランプさんの選挙モデルというのは大規模集会、高い熱量、そして強いリーダー像のアピール。この3つがアメリカにおける黄金の選挙戦略で、まさにそれを展開していたわけです。通常なら勝利に繋がる選挙戦略なのですが、今回はそれが機能しなかったのです。私はこれまでに激戦州となった中西部のミシガン州、西部のアリゾナ州、東部のペンシルベニア州、南部のフロリダ州等で大規模集会の生トランプを見てきました。ものすごい熱量の盛り上がりで、フロリダの集会では朝の3時から17時間並びました。

——あの群衆の中に入ったのですか。

海野 そういう時は必ず日米のバッジを付けて行きます。トランプ支持者は中国嫌いですから、自分を守るためには、日本から来たという事をはっきりさせておく必要があるのです。それからトランプ支持者はメディア嫌いですから、ジャーナリストと思われてもいけないので、私はプロフェッサーですと、それだけは必ず言うようにしていました。トランプ支持者は、安倍前総理とトランプさんは仲が良い事を知っているので、日本人は結構歓迎してくれます。私が水しか持ってなかったら、近くにいた白人の労働者が、サンドイッチやコーラをくれたり、赤い帽子まで買ってくれたりしました。私は研究目的で行っていたわけで、トランプ支持者ではないので帽子には抵抗があったのですが、しっかり深くかぶれと言われました。

——集会は盛り上がっていましたね。

海野 熱狂的な盛り上がりです。アリゾナ州の集会は12時間並んでも2階席だったのですが、一緒にいた白人労働者は大興奮でした。彼らは「トランプは俺達の言葉で話してくれる」と言っていました。4年前は民主党の候補はヒラリーさんでしたが、弁護士で格調高い英語を話すヒラリーさんと違って、トランプさんの英語は簡単な単語を使って分かりやすいし、汚い言葉も使うんですよ。それが我々の言葉で話してくれる、自分達の事を本当に思ってくれている、という評価に繋がっているのです。言葉は重要ですね。

——それだけ盛り上がっていたのに負けたのは?

海野 11月3日の投票日の直前に全国紙が世論調査を行っているのですが、トランプの大規模集会を支持しますかという問いに、支持すると答えた人は35%しかいなかったのです。トランプさんの支持率は45%程度ですから、トランプ支持者の中でも大規模集会を支持していない人がかなりいた事になります。そして、支持しないと答えた人が60%いました。つまり、マスクもせず、ソーシャルディスタンスも取らずに大規模集会をやった事を、有権者達は冷ややかな目で見ていたわけです。同じく投票日直前に激戦州のウィスコンシン州で行われた世論調査では、強いリーダーはどちらかという質問に、バイデンさんという回答が52%あり、トランプさんは43%でした。

——意外な結果に思えますが。

海野 コロナ禍だった事もあり、バイデンさんは大規模集会を開かず、ドライブインでクラクションを鳴らす方式の小規模集会にしました。マスクをして、車から出たらソーシャルディスタンスをとる。そして、トランプさんのようにファイティンポーズをとるのではなく、共感のリーダーシップを示しました。多くの家庭の食卓に座る人のいない椅子がある、と選挙期間中繰り返し話していました。コロナで亡くなった人がいるという事です。かつて妻と娘を交通事故で失い、長男を脳腫瘍で亡くしているバイデンさんが、コロナで家族を失った人達に共感を示した。そうしたリーダーシップをアメリカ人は求めていたのでしょうね。つまり、バイデンさんの選挙モデルと共感のリーダーシップが、コロナ禍にマッチしたという事でしょう。コロナがなければ、従来の選挙モデルが機能していたのかもしれませんが。

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