SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

中国共産党創立100年の「脅威」に備えよ

中国共産党創立100年の「脅威」に備えよ
バイデン米政権は台湾・東沙諸島を守るか

 2021年7月、中国共産党が創立100年を迎える。習近平国家主席にとっては「中華民族の偉大な復興」を世界へ向けて高らかに謳い上げる節目の年だ。中国の脅威と対峙しなければならない周辺国にとっては、厳重警戒を要する新年である。

 中国共産党政権は昨年来、香港の民主化勢力を徹底的に弾圧し、民主主義諸国から批判を浴びている。政治を民主化せずとも「強国」になれる事を証明し、共産党独裁体制を正当化する事が習近平指導部の最優先目標なのだろう。その強硬姿勢には、党総書記2期目の任期が切れる22年以降も最高指導者の地位に君臨したい習主席の焦りも透ける。

台湾問題は日本の鬼門

 1997年の香港返還から50年間は1国2制度を維持する国際約束を反故にして、香港を共産党独裁体制に組み入れた。次のターゲットは台湾だが、民主化の進んだ台湾と民主主義を否定する中国との「統一」が民主的に実現出来るはずもない。今後、台湾の武力統合を探る動きを我々は警戒しなければならない。

 そこで注目されるのが南シナ海の北東部にある東沙諸島だ。台湾と中国・海南島の中間に位置し、台湾が実効支配する。中国が中台統一に動く場合、最初に軍事侵攻する可能性が指摘される要衝である。アジア太平洋地域の軍事情勢に詳しい海上自衛隊OBは「中国はバイデン政権の台湾政策をチェックするために東沙諸島に来るのではないか」とみる。

 米国のバイデン新大統領は、中国の軍事拡張主義には同盟国と連携して厳しく対峙する一方、気候変動対策や経済面では協力を模索する両面作戦の構えを取る。後者の協力を通じて自由・民主主義・市場経済を基調とする戦後国際秩序に中国を取り込めるならいいが、共産党独裁体制を正当化すべく民主主義秩序に挑戦しているのが習近平指導部だ。

 バイデン政権が下手に融和姿勢を取れば、中国がそこにつけ込んで台湾侵攻の機をうかがう恐れがあると、海自OBは警鐘を鳴らしているのだ。

 中国共産党政権がこれまで台湾に軍事侵攻しなかったのは「国際的な孤立」と「米国の軍事介入」を避けるためだ。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で欧米諸国の経済が甚大な打撃を受けたのに対し、早々にコロナ感染を抑え込んだ中国は経済面の独り勝ちで権威主義的な国家体制に自信を深めている。

 香港の民主化運動弾圧で明らかになった通り、習近平指導部は既に、国際的に孤立してでも国内向けに体制維持を優先させる方針に舵を切った。台湾の「統一」を躊躇する材料はいまや「米国との戦争になるかどうか」の一点に絞られた状況だ。

 南シナ海は現在、米中対立の最前線となっている。中国はベトナムやフィリピン等が領有権を主張する南沙(スプラトリー)諸島の軍事拠点化を強行。米国が周辺海域に艦船を派遣する「航行の自由」作戦で対抗し、軍事的な緊張状態が続く。

 ただ、東沙諸島の位置付けは微妙だ。中国と東南アジア諸国との間に領有権の争いはなく、台湾は中国の一部だとする中国共産党政権は、東沙諸島に侵攻する場合、「内政問題だ」と主張するだろう。「その時、米国が台湾関係法を発動出来るかどうか。中国はそこを試そうとするかもしれない」(海自OB)。

 台湾関係法とは、米国が中国共産党政権と国交を結んだ1979年、それまでの台湾(中華民国)との同盟関係を事実上継続するために米議会が制定した法律だ。米国はこれに基づき台湾に対中防衛用の武器を供与してきたほか、台湾人民への脅威に対抗するため「適切な行動」を取る事が同法には定められている。

 焦点は、いざ台湾有事となった際に米国が適切な行動、つまり米軍の派遣に踏み切るかどうか、という事になる。

 海自OBは「中国が東沙侵攻の準備を始めた段階で米軍が展開するしかない。中国が動く前に先手を取るのが最良のエスカレーション防止策なのだが、バイデン政権は下手したら様子見をしてしまうかもしれない」と危惧する。

 バイデン氏が次期国防長官に指名したロイド・オースティン元中央軍司令官は中東での部隊経験が豊富な元陸軍大将だが、アジア太平洋地域への知見を不安視する見方もある。米軍の内情に通じる陸上自衛隊OBは「米民主党内に気を使った内向きの人事」と分析し、「米国の政治・外交がそれだけ不安定な時期だからこそ、日本が明確な意志を示していくことが重要だ」と訴える。

 台湾問題は日本の鬼門だ。仮に中国が中台統一に動いて米中開戦に至れば、日本が米軍の前線基地となり、否応なく戦争に巻き込まれる。米軍の後方支援に自衛隊が動けば事実上の参戦だ。在日米軍基地が中国の攻撃目標となる恐れもある。

 では仮に米国が台湾を見捨てた場合はどうなるか。台湾を手中に収めた中国共産党政権が次に狙うのは、沖縄県の尖閣諸島だろう。

 バイデン氏は昨年11月、菅義偉首相との電話協議で、米国の日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条を尖閣諸島に適用する、と明言した。だが、中国の台湾侵攻に台湾関係法を発動しないということになれば、尖閣防衛に向けた言葉も怪しくなる。

「ボーっと生きてんじゃねーよ!」

 台湾有事は日本にとって退くも地獄、進むも地獄。未然に防ぐのが最良の策であり、そのためには海自OBが指摘する通り、米国に台湾防衛の決意を言葉と行動で事前に示してもらうしかない。

 日本はその働きかけをすべき当事者である事を菅政権がどこまで認識しているか。外交専門家は「安倍内閣は日米関係をマネージしていた。どういうメッセージを発信するかが外交の基本。しかし、菅内閣は首相も外相もそういうタイプではない」と懸念する。

 日本にとって難しいのは、中国の隣国として安全保障上の脅威を感じているにもかかわらず、コロナ不況を脱するために経済面の協力を求める対中外交の二面性だ。

 中国共産党政権が経済を武器に影響力拡大を図った「一帯一路」構想では、その恫喝的な外交姿勢が国際社会の反発を招き、中国は孤立を深めている。

 そうした中でなおも習近平指導部の反応を忖度し、中国に対して「脅威」という言葉の使用すら控える日本政府に対して外交・安保の専門家達から聞こえてくるのはチコちゃんばりの「ボーっと生きてんじゃねーよ!」という叱咤の声だ。

 習主席が来年の共産党大会で指導体制を固めれば、その先には2027年の人民解放軍創設100年、そして49年の中華人民共和国建国100年も視野に入ってくる。民主的な国際秩序への挑戦を強める中国に対して我々の出来る事は何か。

 「香港の民主化運動は絶望的な中にあるが、国際社会がしつこく徹底的に中国の人権問題を問い続け、対中制裁を厳しく実行していくしかない」と海自OBは説く。

 台湾、尖閣を守るためにも香港を諦めてはいけない。菅首相にはそのメッセージを国際社会に発してもらいたい。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top