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未来の会

第147回 全てはコロナ次第、異例の政局始動

第147回 全てはコロナ次第、異例の政局始動

 国内で新型コロナウイルス感染が確認されてから1年が過ぎた。ワクチン投与が2月から始まる見通しだが、コロナ禍の終息は依然見通せない。11都府県に2回目の緊急事態宣言が出され、世相は陰鬱が続く。

 後手に回ったコロナ対策で、菅義偉政権は失速気味で、自民党内の一部では「菅降ろし」がうごめき始めた。年初の衆院解散を見送り、こつこつ実績を積み上げる「牛の我慢」を強調していた首相周辺でも、戦略の見直し機運が高まっている。

 「首相は私心なく一生懸命やっている。GoToトラベルの迷走も国民の苦境を知っているからこそだ。メディアは執拗に首相を叩くが、観光をあおった自らを省みない。安倍さんの時には何も出来なかったのに、菅さんをスケープゴートにしている」

 菅首相周辺の憤慨の声である。メディアはしばしば「溺れた犬は叩いて殺す」と言われる。批判そのものが目的化してしまう悪癖があるからだ。批判は改善、改良に結び付いてこそ生きる。そうでなければ悪口と変わらない。

 ただし、1国のリーダーが正当な批判を受けるのは当然であって、安倍晋三政権の異常さを比較に持ち出すのはいただけない。菅首相は安倍前首相のように「子どもの反論」でメディアを攻撃したりはしない。

 菅首相の心中を察するなら、ここは忍の一文字であるべきだろう。首相周辺の憤慨にも一理はある。GoTo実施の裏側には自殺者急増への憂慮があったからだ。

 日本は先進7カ国の中で最も自殺者の多い国だ。かつては年間3万人を超え、社会問題化した事もあった。

 

 警察庁の統計によると、自殺者は2003年に3万4427人と過去最悪を記録したが、その後、減少に転じ、19年まで10年連続で減っていた。

 ところが、昨年7月以降、これが上昇傾向に変わった。10月の1カ月間の自殺者は、10月時点でのコロナの死者の全国累計を上回る2158人に上った。

 海外メディアによって、その異様さが世界中に伝えられた。コロナの影響については、否定しようがなかった。

 「GoToによる感染拡大の可能性は排除出来なかったが、公共輸送企業の窮状打破と、地方経済の立て直しに即効力のある観光振興もまた避けて通れなかった」と首相周辺は苦しい胸の内を明かす。

安倍家のゴミバケツの蓋?

 GoTo迷走は自らの政治判断によるものだが、菅首相は安倍政権の「負の遺産」にもさいなまれている。

 桜を見る会の政治資金問題に顕著だが、日本学術会議の会員任命拒否問題も安倍政権からの継承事案だ。

 官房長官として安倍政権の右腕だったのだから、宿命と言えばそれまでなのだが、色をなして反論する安倍前首相とは異なり、菅首相は言葉に切れがない。いつも、もごもごしているから、「隠し事をしている」と勘ぐられやすいのだ。

 内閣支持率の低下と共に田中真紀子元外相が雑誌で発した「安倍家のゴミバケツの蓋」という言葉がネットで拡散した。安倍政権の「負の遺産」を覆い隠すのが菅内閣だという意味だ。

 品性は感じないが、言葉の切れ味という点では1級品だろう。

 「菅さんは庶民宰相なんだ。官房長官で毎日発言していたから言葉で勝負出来るような先入観を持たれたが、朴訥で誠実に仕事をするのが持ち味だ。その持ち味が伝わっていないのが悔しい」

 首相周辺はひとしきり嘆き節をぶってから、こう続けた。

 「党内の一部に『菅政権がこのままじり貧だと選挙の顔にはならない』との不穏な空気が漂っているのは知っている。コロナ対策と安倍政権の後処理だけをやらせて、後はポイって事なんだろうが、そんな都合のいい話は通用しない。菅さんは口下手ではあるが、判断力と実行力は一流なんだ。寝技も得意だし」

4月解散説とその思惑

 政局勘の確かさは長期政権の礎を築いた事で実証済みだ。寝技は党内の根回しの事。となれば、衆院の解散戦略がらみという事だろう。年初解散が消えた後、東京・永田町では「秋の解散」が本命視されてきた。しかし、ここに来て、早期解散論が再浮上してきた。

 タイミングはコロナ対策を盛り込んだ第3次補正予算案と新年度予算案を上げ、都道府県知事らから要望の強いコロナ特措法改正案を仕上げた後、最速の場合、4月初旬の衆院解散、4月25日投開票のスケジュールになる。

 自民党幹部が語る。

 「デジタル庁の設置等目玉政策の成果を待っていてはタイミングを逸するという事だろうな。4月25日投開票なら、補欠選挙等も吸収出来るし、安部前首相の桜疑惑も含めた〝みそぎ〟も早い方がいい。ずるずる問題を引きずっていては政権運営にも差し障りがあるからな」

 補欠選挙は在任中に鶏卵業者から計500万円を受け取った疑いがあるとして、収賄容疑がかけられ、病気を理由に議員辞職した𠮷川貴盛・元農水相=1月15日に略式起訴=の欠員に伴って4月25日に実施される。コロナに感染して亡くなった立憲民主党の羽田雄一郎・参院幹事長の欠員に伴う参院補選も予定されている。

 財政状況から補選を吸収してコスト低減を図るのは理にかなっている。

 みそぎの方は政局運営に支障が出そうな問題の早期処理という事のようだ。河井克行被告=元法相=が現職の衆院広島3区や、IR事件で法廷闘争中の秋元司被告が現職の衆院東京15区等がそれで、「選挙全体の中に埋もれ、個別ケースが注目されないうちに処理する」(自民選対関係者)というのが狙いだ。

 もちろん、衆院解散にはコロナの感染拡大がある程度収まる事が前提になる。うかつに解散風を吹かせれば、「こんな時に選挙するのか」と政権の信用を失う事にもなりかねない。

 菅首相は年頭会見で衆院解散の時期を問われ、「秋のどこかでは」と口を滑らして、後から「秋までのどこかで」と記者クラブに訂正を入れた。「秋解散」を言明したととられるのを避けるためだが、党内には「早期解散だな」との憶測も広がった。

 「世界中がそうであるように、万事はコロナ次第という事だ。今年の政局は不確定要素が多過ぎる。傑出した政治家であっても、個人の力でどうにか出来るような状況ではない。国民の気持ちになって、流れを見極める事が大事だ。菅さんに問われているのはその事だし、衆院選の帰趨、勝敗もそれで決まるだろう」

 「天命」。自民党長老はめったに口にしない2文字を挙げた。

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