再登板している田村憲久・厚生労働相が苦戦している。昨年9月に発足した菅義偉内閣で再び厚労省に舞い戻ったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収まらず、対策に忙殺されているからだ。「厚労行政に一番詳しい政治家」(大手紙記者)として知られた田村氏だが、未曾有の事態に改めて真価が問われる事態に陥っている。
田村氏は衆院三重1区(津市、松阪市)選出で当選8回のベテランだが、56歳と若く石破派所属ながら将来を嘱望されている政治家の1人だ。厚労政務官、文部科学政務官、副総務相を歴任し、安倍晋三前首相が第2次政権を発足させた2012年12月から14年9月まで厚労相を務めた。退任後は、厚労担当の政調代理を長く務め、直近は筆頭の政調代理として手腕をいかんなく発揮してきた。政策通ながら調整能力に劣る塩崎恭久氏や根元匠氏が厚労相の時代は、政調代理として官僚や業界団体との調整に駆け回り、「陰の厚労相」と呼ばれた。家業は三重県の大手ゼネコン「日本土建」で、地元の要望もあるため水産行政にも詳しい。伯父は元労働相で元衆院議長の田村元・元衆院議員、一人娘がTBSアナウンサーの真子氏というのは有名な話だ。
就任早々の10月26日に招集された臨時国会では、コロナワクチンを国民に無料で接種する事を可能とする予防接種法改正案の審議等に対応しつつ、官邸と厚労省を行き来しながらコロナ対応に追われた。「コロナを診る民間病院が増えないためベッドが足りず、医療崩壊に繋がりそうな状態に陥っているのではないか」との批判を受け、診療報酬や補助金を増やす等で取り組むが、すぐには改善しない。
コロナ対応と平行し、昨年末にかけて、75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に上げる所得層を決めるという「大仕事」をこなした。首相が「年収170万円以上」を対象にすべきとこだわり、より対象が少ない「年収240万円以上」を主張する公明や自民と衝突した。最後は、首相と公明党代表の直接会談で決着する異例の展開を辿った。当時、田村氏は与党寄りの考えだったが、首相から調整役に指名された。しかし、交渉は進展せず、本人は「首相から具体的な理由も譲歩する幅も聞かされず、交渉の余地が全くない」と周囲にぼやいていたという。
こうした疲労が蓄積された影響か、体調に異変を来している。ある厚労省職員は「しきりに目が見えない、文字が二重に見える、と言っています。加齢もあるでしょうが、ストレスや疲労によるものではないでしょうか」と明かす。幸い答弁ミス等はないものの、コロナ対応は長期戦になる見通しで、別の職員は「これからの事を考えると、心配のタネの1つだ」と話す。別の幹部は「相当疲労がたまっていたので、何もなければ夕方まで休んでもらったり、早めに切り上げてもらったりしている」と打ち明ける。
今後は冬本番を迎えるコロナ対応に加え、夏の骨太方針作成に向けて新たな負担増議論もくすぶる。自民党厚労族議員はベテランが多いが、調整力があって機動的に動けるのは主に田村氏に限られる。回復傾向にあるものの田村氏の「体調」はそうした政策の行方にも影響を及ぼすかもしれない。
LEAVE A REPLY