診療報酬債権でブランド服……
医療法人を牛耳った悪妻
世に〝悪妻〟多しといえど、悪事が家庭内に留まらないとなれば、たまったものではない。
警視庁捜査2課は11月、業務上横領の疑いで、埼玉県さいたま市の「さいたま記念病院」を運営していた医療法人「一成会」(民事再生手続き中)の元理事、遠藤容子容疑者(63歳)ら3人を逮捕した。容疑は病院の経営に必要な資金を流用していたというものだが、その額は2016年4月以降で約10億円に上る。一体、何が起きていたのか。
社会部記者によると、遠藤容疑者は03年、心臓外科の第一人者で東京女子医大名誉教授である夫(78歳)が理事長となった医療法人「冠心会」の常務理事に就任。「冠心会」は05年、心臓カテーテル手術等心臓病治療に特化した病院「大崎病院東京ハートセンター」(88床)を東京都品川区に開設した。しかし、ビルの賃料や人件費、医療機器代等で「冠心会」の財務状況は悪化していったという。
16年3月頃、遠藤容疑者らは「さいたま記念病院」を買収し、夫は同院を運営する「一成会」の理事長に、自身は理事に就任した。この「一成会」の口座から理事会の承認を得ずに1億3000万円を着服した疑いが持たれており、着服金の多くは「冠心会」に流れたとみられる。
遠藤容疑者らの着服の手法の1つが、将来支払われる診療報酬を債権にして買い取ってもらう「ファクタリング」だ。遠藤容疑者は、一成会が運営する埼玉県川口市の介護施設の診療報酬債権や、さいたま記念病院の同債券を理事会に無断で売却。売却で得た現金は一成会の通常の口座とは違う口座に振り込まれ、一部が「冠心会」に流れた。逮捕容疑は1億3000万円だが、警視庁は約10億円を流用したとみている。
結局、冠心会は19年8月に経営破綻。一成会も同年4月に経営破綻しており、ハートセンターもさいたま記念病院も現在は別の経営陣によって運営されている。
新型コロナウイルスの流行で多くの医療機関の財務状況が悪化、廃業や倒産が出た事からも分かるように、日本の医療機関の多くは赤字体質。ハートセンターの赤字を救うために、さいたま記念病院や関連施設の診療報酬債権が使われたとすれば、やり方に問題はあれど、同情の余地がないわけではない。だが、「話はそんなに簡単ではない」(同記者)のだという。
今回逮捕されたのは、遠藤容疑者と知人のコンサルタント会社社長(53歳)、冠心会の元経理担当職員(47歳)の3人。遠藤容疑者の夫は、妻が手を染めていた流用について、一切知らなかったという。「取材に対して、夫は『医療法人の理事長は医師でないとなれないため、名義を貸しただけ』と経営にはノータッチだったと話している」(同記者)。
病院関係者によると、遠藤容疑者はシャネルやカルティエ等の高級ブランドの服に身を包み、フランス・パリを中心に海外旅行を繰り返すぜいたくな暮らしぶりだったという。警視庁はこうしたブランド品の購入にも流用資金が充てられ、「横領」は決して経営のためだけではなかったとみている。
病院では破綻前に医療機器の架空発注や職員の給与未払いが起きていたが、職員が理事長である夫に相談しても改善されなかった。
「理事長は15歳年下の妻の言いなりだった」と病院関係者。遠藤容疑者は「傾国の美女」ならぬ「傾病院の悪妻」だったという事か。
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