民間企業の間で、従業員に確定拠出年金(DC)に加入するかどうかを選ばせる選択性DCの導入が広まっている。企業年金を創設する際、企業にとって負担減に繋がるという利点があるためだ。
しかし、選択制DCには「いんちきに近い」(東京都内の社会保険労務士)との指摘があるほどで、批判も絶えない。厚生労働省は2020年9月末、企業に「デメリットも含めた正確な説明」を求める通知を出した。
DCは掛け金の拠出額が決まっている一方、老後の給付額は従業員の運用結果次第という自己責任型の企業年金だ。01年に導入されるや、運用責任から逃れたい企業が次々導入し、20年10月時点で約3万7000社に達した。
DCには企業が掛け金(月額上限5万5000円)を拠出し、従業員が運用する「企業型」と、個人が任意に入る「個人型」(イデコ)がある。企業型は会社が従業員の給与に上乗せして掛け金を払うのが本来の姿だ。
ところが、最近は負担を嫌がる中小企業を中心に選択制が普及している。選択制は「給与切り出し型」とも呼ばれ、給与を減額してその分をそっくり掛け金に回す事が出来る。企業は負担なしにDCを導入出来る他、支払い給与総額が下がるため、厚生年金や医療保険等社会保険料が労使とも圧縮される。従業員は所得税や住民税が減る事もある。金融機関の売り込みもあり、近年導入されたDCの5割以上は選択制というデータもある。
だが、これまではメリットばかりが喧伝され、デメリットは説明されてこなかった。最大の不利益は労使の社会保険料が減る結果、将来受け取る厚生年金も減額される(保険料が頭打ちとなる、みなし月収65万円超の人は対象外)事だ。
標準的な会社員が選択性DCに月2万円の掛け金で20年加入すれば、老後の厚生年金は生涯、月額2万6000円程度カットされる。また、残業時の割り増し賃金や失業給付等、給与に連動した給付も減る。
選択制が登場し始めた頃、厚労省年金局の幹部は「給与の減額と引き換えの制度なのに、そこをごまかしている」と批判的だった。それでも普及を優先して黙認した結果、みるみる広まった。昨年末の社会保障審議会の関係部会で問題点が指摘され、厚労省はこの秋ようやく重い腰を上げて企業に正確な説明を求めるようにルールを変えた。
厚労省幹部は「宿題を1つこなした」と言う。それでも前出の社会保険労務士は「選択制は労働条件の不利益変更を伴う。本来なら労使の合意が必要だ。今回のルール変更で実態が変わるとは思えない」と話す。
22年10月から「企業型」加入者が原則加入出来るようになるイデコでも「説明不足」が指摘されている。イデコは受給開始時の手厚い税控除が利点の1つだ。ただ、自営業者と違い、会社員がイデコに加入すると、退職金の受け取りで控除枠を使い切ってしまい、イデコの受給時には課税される可能性が高い。にもかかわらず、イデコを節税商品としてのみ売り込む声はやまない。
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