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国も本腰を入れ始めた「ヤングケアラー」対策

国も本腰を入れ始めた「ヤングケアラー」対策
介護で生活を犠牲にする若年層に支援を

学校や仕事に通いながら家族の介護や世話をする子ども「ヤングケアラー」が社会問題となっている。国は初めての調査を行う他、全国の自治体でも実態調査が進む。

 今夏、埼玉県が初めて行った調査では、県内の高校2年生の25人に1人がヤングケアラーである事が分かった。介護に時間が取られる事で勉強の時間が少なくなり、進路にも大きな影響を及ぼすヤングケアラー問題。家庭内の事と放置せずに、適切な支援を行う事が重要だ。

 「ヤングケアラーの存在は、ここ数年で大きくクローズアップされるようになった。だが、家庭内の事は表に出にくいため実態は分かっていない」(全国紙の社会部記者)。

 そもそも「ヤングケアラー」と言われても、ピンとこない人の方がまだ多いだろう。言葉通りにとれば、ヤングケアラーとは家族の介護や世話を担う若年層という意味であり、それ自体が問題というわけではない。

「介護には様々な内容がある。病気の親に代わって一時的に簡単な家事を引き受ける子どももヤングケアラーになる。昔からいたといえば、その通りだが……」(同)。

問題は介護や世話の程度と期間

 問題はその「介護」や「世話」の程度と期間にあると専門家は解説する。

 例えば、認知症の祖母を介護する片親の高校生。高校生の親は仕事で忙しく、家にあまり帰ってこない。必然的に自宅で祖母の介護をするのが高校生の役割になり、祖母の状態によっては学校にも通えない日もある。学業の遅れは深刻で、祖母の介護は進学や就職を妨げる大きな要因になっていたという。

 「一時的な家族の入院等であれば、世話を必要とする期間がある程度見えている事が多い。しかし、長期に渡る介護も多く、一度役割を引き受けてしまうと、途中で投げ出すのが難しくなる」と専門家は指摘する。

 例に挙げた高校生のように、家族の事情によって人生の重大な選択が左右されるのは大きな問題だ。「学校を休みがちになる事で、学校への足が遠のいたり勉強が遅れたりして、不登校になってしまう例もある」と専門家は危惧する。

 だが、ヤングケアラーの問題は顕在化しにくい。当事者が第三者に助けを求める事が少ないからだ。

 子どもの貧困問題に取り組む民間団体の代表は「行政に介護や金銭面について相談し、ケアプランを立てたり生活保護の申請をしたりする事は出来る。だが、子どもの場合、そうした相談窓口を知らなかったり、年齢の問題から行政側も対応してくれなかったりする」と明かす。

 更に、「家庭内の問題だからと、子ども自身が口を開かない場合も多い」(同)のだという。精神疾患の家族を介護する場合に多いのが、「恥ずかしい事だから、家族の話を外に出してはならないと考えている」ケースだ。

 近隣住民や親族と断絶している事も多いといい、実態が更に見えにくくなっている。

 「子どもにとって、自分の家庭は世界の全て。自身の介護や家事といった負担が重い事に気付かない事も多い。家族なのだから、やるのが当たり前という思いから、自分の生活を犠牲にしてしまう」と民間団体代表はヤングケアラーの孤立化を問題視する。誰かに助けを求める事自体を諦めている子どもも多いという。

 こうした現状をどうにかしようと、国や地方自治体も動き始めた。政府は今冬、全国の教育委員会や児童、生徒本人への聞き取りを行い、ヤングケアラー初の実態調査を行う予定だ。

 また、地方自治体では埼玉県が今年7〜9月、県内の高校2年生(5万5772人)を対象に初めての調査を実施した。その結果、回答した4万8261人のうち1969人(4・1%)が家族の介護や世話をしている実態が明らかになったのだ。

「比較する数値がないので、4%、すなわち25人に1人という数字が多いのか少ないのかは分からない。それより気になったのは、1969人がどんな介護をしているかという実態だ」と専門家は語る。

ケア開始時期は「中学生」が最多

 11月に公表された調査結果によると、ヤングケアラー達がケアを始めた時期は「中学生」からが688人(34・9%)と最多で、「小学4〜6年生」からも395人(20・1%)いた。ケアする相手は、祖父母や曾祖父母が806人と最も多く、続いて母が524人と続く。複数の家族をケアしている生徒もいた。

 ケアをするようになった理由(複数回答)では、「親が仕事で忙しい」が約29・7%、「親の病気や精神疾患、入院」が約20・7%で続いた。

 ケアの内容では、食事の準備や洗濯といった「家の中の家事」が1143人と突出。入浴やトイレの介助といった「身の回りのケア」にかかわっていた生徒も405人いた。買い物や金銭管理、見守りまで、幅広いケアを担っている事が明らかになった。

 注目すべきは、彼らがケアにどのくらいの時間をかけているかだ。学校等がある平日も含めて毎日ケアをしている生徒は696人(35・3%)と最多。平日のケア時間を見ると、約7割は2時間未満だったが、8時間以上と答えた生徒も30人(1・5%)いた。

 「平日2時間未満の家事であれば『お手伝い』の範疇と言えなくもないが、平日に数時間を費やすとなると、高2生としての日常生活に明らかに影響を及ぼすと考えられる」と社会部記者。

 調査では、「孤独を感じる」「ストレスを感じる」と答えた生徒はそれぞれ300人以上いた他、「勉強の時間が取れない」「自分の時間が取れない」と答えた生徒もそれぞれ約200人いた。

 また、自由記述には、介護のストレスで倒れた経験を明かしたり、就職や結婚といった将来への不安を打ち明けたりする生徒もいた。新型コロナウイルスの流行によって、負担が増えたとの声も。家族にコロナをうつしてはいけないと、学校に満足に通えないとの回答もあった。

 埼玉県によると、県は全国初となるケアラー支援条例を20年3月に制定。今年度中にヤングケアラーを支援する計画をまとめるという。今回の調査はこの計画に生かされる。

 「これまでの研究でも、ヤングケアラーは20人に1人くらいいるとされてきた。限られた地域の調査ではあるが、25人に1人という具体的数値が出た事で、教育現場もクラスに1人は家族のケアを担っている生徒がいるという認識で指導に当たってほしい」と専門家。

 ただでさえ、ヤングケアラーは声を上げる事をためらいがちだ。家族の状況も必要な支援も異なるが、「家族だから」という〝常識〟や〝押し付け〟の向こうに、必要以上の負担を抱えている子どもがいる事を意識していきたい。

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