より経済実態を反映する「隠れ倒産」も増加中
戦後の日本で、やがて迎えようとしている年の瀬が、これほど陰鬱に思えてくる例が他にあっただろうか。しかも年を越しても、その先に明るさが見通せるような気配は乏しい。
厚労省の発表では11月26日午前0時段階で、コロナに感染した重症者の数が1日だけで34人に増えて410人となり、4日連続で過去最多を更新した。同日だけでも、新たに↘確認された感染者は2505人。その5日前の21日は過去最高の2594人確認されており、4日連続の最多更新となって前途の不透明感を更に強めている。それに伴って日本経済は、以下の指標が示すように赤信号が点滅中だ。
●東京商工リサーチの発表によると、今年1月から8月にかけて休廃業・解散した企業は全国で3万5816件に達し、前年同月比で23・9%の増となった。このままのペースだと年末までに5万3000件を超える見込みで、調査を開始した2000年以降、最悪となるのは確実だ。
一方、10月の全国企業倒産件数(負債額1000万円以上)は624件で、前年度同月比で20%減っている。7月以降4カ月連続で前年を下回り、10月度の件数としては過去50年間で2番目に低い。20年度上半期では3858件で、前年同時期と比べると9・35%の減少だ。
潜在的失業者は既に約200万人
だが、これは明らかに「政府・自治体、金融機関の資金繰り支援策の効果」(東京商工リサーチ)と見られる。借金を残さず会社をたたむ「隠れ倒産」である休廃業・解散の方が、より経済の実態を反映していよう。
●厚労省の発表によると、11月13日までの集計で、解雇や雇い止めの↖予定がある勤労者は7万1121人に達した。9月の時点で潜在的失業者とされる休業者は197万人にも上っており、今後、失業者数を更に押し上げるのは間違いない。
また、総務省の発表によると、9月の完全失業者数は210万人で、前年同月比で42万人もの増となり、8カ月連続で増加を記録している。200万人の大台に乗ったのは8月からだが、これは3年3カ月ぶり。季節による変動要因を除いた完全失業率は前月に続き、2017年5月以来の3・0%まで上昇している。
●東京商工リサーチの発表では、10月29日の段階で上場企業の早期・希望退職者募集が72社に達し、既に昨年の通年の35社の2倍以上となった。年間で募集企業が70社を超えたのは、85社を記録したリーマンショック後の2010年以来10年ぶりとなる。この72社で総数が1万4095人となり、前年通年の1万1351人を上回っている。
以上の数字は、20年度予算の約102・6兆円という大規模な歳出に加え、コロナ対策を中心とした約160兆円もの2次にわたる補正予算によって、そこまでの水準に抑えられているのが現状だ。また補正予算では金融機関を通じ、実質無利子・無担保の貸し付けをさせる中小企業への金融支援も盛り込まれた。
年内にも、最大20兆円規模の第3次補正予算が成立しそうだが、特に金融支援に加え、国が中小業者に対し、従業員に支払う休業手当を補助する雇用調整助成金や、国がコロナの影響で売り上げが前年同月比50%以上減った業者に支給される持続化給付金等によって、何とか持ちこたえているという中小企業は多い。雇用調整助成金については来年1月以降も継続する方針で、1月半ばに期限が到来する持続化給付金についても延長が予定されている。
だが、財源の問題もあり、これらの支援措置がいつまで継続出来るか未知数だ。そのため、感染拡大にどこまで歯止めを掛けられるかが、経済回復のための最大のカギとなる。ところが、こうした認識がどこまで政府にあるのか疑わしい。
「人の移動指数」を政府が上げる愚
何しろ、人口100万人当たりのPCRによる検査数は世界219カ国中、日本は153位という低さ。政府は1日7万件の検査能力保持を唱えていたが、現実には最大で3万件ほどしかない。これでは「徹底検査と陽性者の隔離、濃厚接触者の追跡、治療」という基本的なコロナ対策を実行出来るはずがない。
ところがそうした現状を放置しながら、感染拡大と約3週間のタイムラグで連動する「人の移動指数」を、あろうことか政府自ら上げるという愚策を菅義偉首相が強行した。例の観光支援策の、GoToトラベルだ。
菅首相は11月25日に国会で、GoToトラベルを見直さないでコロナの感染を拡大させた責任について野党議員から追及された際、「GoToトラベルが感染拡大の主な原因だとのエビデンスが存在しない」等と答弁した。
だが、GoToトラベルに東京が加わって利用者が急増した10月以降、「第3波」と呼ばれるほど北海道等全国的に感染者が拡大したのは事実だ。だからこそ、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が11月9日、政府に異例の緊急提言をし、「(状況が悪化した場合)GoToトラベルは当然停止だ。今が最後のチャンスだ」と警告したのではなかったか。
それでも、一時は「見直し」を口にした菅首相はその後、対象旅行地の一部除外等、運用の「見直し」拡大について「地域経済の下支えになっている」との理由で否定的となった。同分科会内の専門家から「首相には危機感がない」という批判が公然化しているのも、当然だろう。
このGoToトラベルは、飲食店支援事業GoToイートを含め、第1次補正予算分だけでキャンペーンの総事業費が1兆6794億円に達している。菅首相の名目は「感染拡大防止と社会経済活動の両立」だが、実際は「経済」重視だ。「感染拡大防止」が現状のようにおざなりだと、いつまで経っても「経済」は上昇しないばかりか、財政の更なる破局的悪化と医療崩壊が目前に迫っている。
既に指摘されているように、この種のキャンペーンは一部大手観光業者が最も潤い、地方への波及効果も疑問視されている。しかも、政府が最も関心を向けるべきは、今時の旅行を楽しめる層ではなく、今日の食費と明日の家賃も賄えない困窮者やハローワークに溢れる失業者、事業継続が困難になっている中小零細企業主、倒産の恐怖に怯える自営業者といった人々への支援策だろう。
そのためには、雇用調整助成金や持続化給付金といった制度の拡充と継続、失業給付や生活保護等の仕組みを総動員した経営と生活の瓦解の食い止めが求められている。「社会経済活動」というなら、コロナ禍に最も打撃を受けている弱者を置いて、何をするというのか。一律10万円を給付した特別定額給付金を、困窮者に限定して再度給付するのも急務だ。
米国の一部の州やフランス、ドイツでは収まらないコロナ禍のため、制限措置を一段と強化したが、日本ではこれと真逆のやり方を選んだ。
仮に後世の歴史家が2020年を振り返ったら、日本のリーダーの愚かさに絶句しても、おかしくはあるまい。 (敬称略)
LEAVE A REPLY