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未来の会

コロナ禍が突き付ける病院の「再編・統合」

コロナ禍が突き付ける病院の「再編・統合」
私大間で学部を譲渡しやすくするため関連法令も改正

武漢の肺炎発症が国内で最初に報じられたのは、2019年の大晦日。新型コロナウイルスの蔓延と共に、医療機関の経営は坂を転げ落ちるように悪化した。医師の派遣元となる大学病院も例外ではない。

 一般社団法人全国医学部長病院長会議(AJMC)は11月、「新型コロナウイルス感染症に関する大学病院の経営状況調査(8月度)」を発表し、4月からの対前年度の累積損益は959億円に拡大していると報告した。患者数や手術件数は回復せず、病床稼働には改善が見られない。わずかながら医業費用は減少しており、それに伴って収支状況にはやや回復の兆しもあるという。

 冬季におけるCOVID-19の患者増に対応するため、大学病院では、自治体からの要請に応じた病床の確保や医療体制の充実等の対応を講じてきている。しかし、補正予算による緊急包括支援交付金の支給は、申請(要求)金額が決定したのは43%にとどまり、9月15日からの追加支援は進捗がほとんど見られない。

 COVID-19患者増加対応に対する経営的対応に支障が生じる可能性が高いとして、AJMCでは、早急な追加支援に係る申請受付と支援金の支給の実施を求めた。負荷が回復しないままで第3波に突入し、今後更に経営は逼迫する恐れがある。

慶大・東京歯科大合併の背景

 大学病院は深刻な経営難に直面しているが、経営主体である大学と法人の経営も厳しい環境にさらされている。少子化に加え、コロナ禍によって、留学生が激減した影響を大きく受けている。

 20年11月下旬、著名な大学同士の再編話が飛び出した。私学の雄である学校法人慶應義塾が、学校法人東京歯科大学の申し入れを受け、法人合併の協議を決定した事を発表した。2023年4月をめどとして合併を進め、慶應義塾大学は日本で初めて医療系4学部(医学部、看護医療学部、薬学部、歯学部)を揃えた総合大学になる。

 歴史的に両者には友好的な関係がある。東京歯科大学は日本の歯科大学の開祖で、創立130年を迎えた伝統校である。1890年に歯科医である高山紀齋が開いた高山歯科医学院を前身とする。高山は慶應義塾に学んでおり、1900年にその経営を引き継いだ血脇守之助も慶應義塾出身である。

 慶應義塾大は東京歯科大との統合及び法人合併によるメリットとして医歯連携、医理工連携の強化・発展、慶應義塾が有する先端的なテクノロジーの歯学への応用等により、総合大学としての研究力・教育力が向上する事を挙げている。また、医療系4学部を擁することで、学際的な研究・教育を推進し、健康長寿社会の実現に大きく貢献出来るという。更に、慶應義塾の一貫教育校の生徒にとって、進路選択の幅が広がるというメリットもある。

 歯科医院はコンビニエンスストアより多く、歯科医の過当競争が続く中、私大歯学部では、入学者が定員に満たないところも少なくない。歯学部の定員が減らない中で、歯科国家試験という“出口”が絞られ、2020年度の歯科医の国試合格率は65.6%(3211人受験し2107人合格)と、同時に発表された医師国家試験の92.1%に比べて著しく低い。それも“留年商法”と揶揄されるように、卒業者(受験者)を絞っての結果だ。私立大学の歯学部を6年間で卒業して歯科医になれる割合(6年ストレート合格率)が実に2割を切っているところもある。

 そのような中、東京歯科大は私大歯学部では最難関で、6年ストレート合格率(2019年度)も69.5%と私学トップである。附属の2病院を持ち、コロナ禍において安泰とは言えないはずだが、法人の財務内容に問題があるわけではない。それでも、将来を見据えながら、総合大学との間で連携か合併を探りつつ、かねてから関係の深い慶應義塾を合併相手として選んだのだ。歯科医余りの中で、慶應が歯学部を新設する事は出来ないが、合併であればそうした問題もない。

 慶應義塾大は2008年、やはり慶應義塾出身者が創設した共立薬科大(港区)と合併している。共立薬科大も東京歯科大も、その名前が消えてしまうので、事実上、慶應義塾に吸収される。当時の共立薬科大も経営状況に全く問題はなかったが、近隣である事、関係者のプラスになる事を考慮した上で、慶應義塾との合併(吸収)を決断したとされる。「慶應ブランド」となった薬学部は、私大薬学部では偏差値トップの難関となった。

分院展開で更にブランド力が向上

 さて、慶應義塾は東京歯科大を吸収する事で、市川総合病院(千葉県市川市、570床)と水道橋病院(千代田区、20床)も手に入れる事になる。前者は地域の中核医療機関となっている総合病院で、歯科・口腔外科以外は慶應義塾大出身者が多く、関連病院と位置付けられている。後者には内科と眼科があるが、こちらも慶應出身者で占められている。両大合併後は、どちらも慶應義塾大の附属病院になる。

 東京都内の私立大学医学部附属病院は、いずれも複数の分院を抱えている所が多い。順天堂大学の附属病院が本院(文京区)以外に都内、千葉、埼玉、静岡に各1院、東京慈恵会医科大学は本院(港区)以外に都内3院、千葉1院、日本医科大学は本院(文京区)以外に都内、神奈川、千葉に各1院といった具合だ。

 慶應義塾大学病院は本院(新宿区、946床)のみだが、2003年9月までは三重県伊勢市に分院を持っていた。1974年に個人病院を寄贈されたもので、慶應義塾は2003年に閉院を決めたが周辺住民約21万人の存続著名があったため、新たな医療法人の下で高齢者医療中心の病院に生まれ変わった。

 さて、今回の合併で、慶應義塾は首都圏である市川市という、東京23区に隣接する好立地の病院を傘下に入れる事になる。所属する医師達も、慶應義塾大の教授を名乗る事が出来るようになるはずだ。医師だけでなく、他の医療職にとっても、慶應ブランドによって優秀な職員集めもしやすくなると見込まれる。こうした分院によるチェーン展開は、更にブランド力を高め、収益性も向上させる事が期待されるだろう。

 経団連では2018年、大学の在り方について提言しており、経営が悪化した大学の早期撤退や再編を促す仕組みづくりや、私立大学の経営の自由度を高め、かつ経営合理化に向けた対応を取りやすくするため、学部・学科単位での合併・譲渡を可能にする事を求めている。これを受けて、文部科学省では、私立大学間の学部の譲渡をしやすくするため関連法令を改正した。大学経営は厳しさを増しており、私大の再編・統合を促そうというものだ。

 未曾有のコロナ禍が病院にも大学にも再編・統合という選択肢を突き付けているようだ。

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