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菅政権の規制改革:医療界を襲ったハイブロー

菅政権の規制改革:医療界を襲ったハイブロー

 10月9日付の日経新聞から下記のような記事が出た。

 「政府は行政手続きや民間で書面や対面での対応を義務付けている規制に関し、デジタル化で代替できるものから撤廃する検討に入った。工程表をつくり(1)押印廃止(2)書面・対面の撤廃(3)常駐・専任義務の廃止(4)税・保険料払いのデジタル化——の4段階で順に取り組む」

「第3の矢」にフォーカスを置く菅政権

 そして、具体的には図のような順序だと言う。

 安倍政権は経済政策として当初、3本の矢を置いていた。後半にも新3本の矢を置いていた。前半のほうがわかりやすいし、やはり「アベノミクス」と呼ばれていたものなので、注目されていた。

 今更ながらであるが、第1の矢は金融政策、第2の矢は財政政策、第3の矢は規制改革であった。以前から、どうやって経済を活性化するかという点には議論があり、小泉改革などでは構造改革、すなわち第3の矢にかなりのフォーカスが置かれた。

 一方、安倍政権では、第1の矢、そして第2の矢にフォーカスが置かれていた。第3の矢は行うと言ってはいたものの、あまり明確ではなかった。

 更に2015年9月に出された新3本の矢では(1)希望を生み出す強い経済(2)夢をつむぐ子育て支援(3)安心につながる社会保障——の3項目が掲げられたが、構造改革には触れられていない。

 しかし、「仕事人内閣」とも言われる菅政権は、安倍政権であまりうまく行えなかった第3の矢にフォーカスを置くようだ。実際、会議体も規制改革会議を中心にすると明言している。

医療分野にインパクトのある規制改革

 そして、その第1段階として「押印の廃止」が挙げられた。これは日本の文化に対しての挑戦とも言え、非常にシンボリックな政策ではある。

 だが、失礼ながら、はんこ業界はさほど大きくないので、それほど産業界に影響があるとは思えない。

 しかし、工程表の第2段階から第4段階を見ると、驚くべきことがわかる。すなわち、医療分野にかなりのインパクトがある内容が3つ組み込まれているからである。

 逆に言えば、医療界以外に対しては、大きな変革につながる可能性はあるが、産業構造を変えるまでのインパクトがある内容ではない。

オンライン診療で「勝者総取り」に

 この改革が実施された場合に、医療界で何が起こるかを考えてみたい。

 まずオンライン診療である。

 オンライン診療については、筆者はすでにいくつかの論考を書いているので、詳しくはそちらを参考にされたいが、「初診を解禁する」ということが大きなポイントになろう。

 簡単に言えば、ウィナー・テイクス・オール(勝者総取り方式)で、患者が特定の医師に集中する可能性がある。

「自助」は「自己責任」に相当か

 もちろん、対面の診察や検査なしでの診療であるから、その信憑性に不安が伴うため、多くの患者が利用するかどうかはわからない。

 しかし、菅政権が言うように「自助、共助、公助」という順番で考えていけば、例えば都心のインテリ層などは「これは風邪だから大したことはない」といった自らの判断を確認するために、医師を利用する可能性がある。

 「自助」という視点を超えて、「自己責任」と言ってもよいだろう。選択の裏に責任が伴うのも、また道理である。

 オンライン診療に関しては、今後、日本医師会との間で丁々発止のやり取りが予想される。

「常駐廃止」で産業医・薬剤師が失職も

 驚いたのは第3段階に置かれている「常駐廃止」という項目である。

 このインパクトは非常に大きいと思われる。極めて狭く考えても、すなわち言葉通りのことが起こったとするだけでも、常勤である産業医や薬剤師は職を失う可能性があるわけだ。

専門職ゆえに業態転換が難しい

 さらに、ややこしいのは専門職であるがゆえに業態転換が難しい点だ。

 筆者は現在でも産業医は務めているが、臨床現場からは3年前に離れている。それは経営学関連に割く時間が増えたということでもあるのだが、最先端の医学の進歩についていくための時間を割けなくなってきたということもある。

 このように専門家というのは、通常思われているより、最先端の知識や技術へのキャッチアップのために手間がかかる。

 法科大学院ができた時に弁護士資格を取りに行った医師も多少現れたが、一般的には、業態転換の準備をして、すぐに他業種へ転職するというわけにもいかない。

 そういうことも含めて考えると、ただでさえコロナ対策現場で働いている人が多い医師や薬剤師を含め、医療界の不安はこのことによって相当増すであろう。

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