「第3波」見据え政府や労組に非正規対策は待ったなし
新型コロナウイルスの本格的な「第3波」の到来を控える中、春先の休業で事前に勤務日程を定めずに働くアルバイトやパート労働者に休業手当が支払われないケースが相次いでいた事が、密かに注目されている。
労働組合にも同様の相談が徐々に増えつつあり、支援団体の1人は「非正規労働者でこうした働き方の人は多く、支援が必要だ」と訴える。厚生労働省は重い腰を上げて、ようやく対応に乗り出したが、「不十分だ」と指摘する声は多い。
労働基準法は、会社の都合で労働者を休業させたら、平均賃金の60%以上の休業手当を支払うよう定めている。
しかし、事前に勤務日を定めない勤務形態で働くアルバイトやパートには、「シフトを組んでいない」等と企業に主張されると、休業を認めてもらえず、休業日として特定出来ないため、休業手当が支払われない。
影響が大きい飲食店やイベント業
緊急事態宣言で春先に勤め先が休業を余儀なくされ、働けなくなった非正規労働者が、休業手当の支払いを求めたが、会社側は支払いを拒否するケースが続出している。
ある非正規労働者の男性は数年前から継続的にある企業で働いていたにもかかわらず、休業手当がもらえなかった。労働基準監督署が動いたケースもあるが、事態は変わらなかったとみられる。
生活費が得られない状況に突然陥った男性は「それまで貯めていた蓄えを切り崩して生活していた」という。別の男性も「休業手当が支払われず、アルバイトは企業からも国からも見捨てられている感じがある」と訴える。
影響が大きいのは、飲食店やイベント業等で働くアルバイト達だ。こうした業界で働く人達は30〜40代が多く、一時的な仕事ではなく、継続的に働いているケースが多い。特に、いわゆる氷河期世代(大卒でおおむね38〜49歳、高卒でおおむね34〜45歳)が多いのが特徴だ。
約4300人を対象とした労働政策研究・研修機構が8月に実施した調査では、休業を命じられたパートやアルバイトら226人のうち、「休業手当が全くない」と回答したのは38・5%に上り、「一部しか払われなかった」のが25・2%いたのだ。
国から直接、休業手当の給付を受ける「休業支援金・給付金制度」もあるが、対象は中小企業に勤める人だけで、会社の指示で休んだ事を会社側に認めてもらう必要がある。
特段、企業側に支払い義務が生じる訳ではないが、義務が生じると「誤解」しているとみられ、企業側が協力を拒否するケースが相次いでいるという。
この制度も結局、この会社側の意向確認という部分がネックとなり、制度の利用が思うように進んでいなかったのだ。実際、予算は5442億円を計上しているものの、10月末現在で300億円程度しか執行されていない。
こうした状況を受け、立憲民主党や社民党、国民民主党、共産党は10月30日に休業支援金の対象を拡充させる法案を国会に提出した。
法案は、①現行の休業支援金・給付金の企業規模要件を廃止し、大企業の非正規労働者も受給可能とする②シフト制、日々雇用の労働者など事業主に雇用されることを常態としていた労働者が休業支援金・給付金を受け取るための措置を義務付ける③事業主に対して、支給を申し出た労働者に対する不利益取扱いの禁止——という内容だ。
法案提出に際し、立憲民主党の長妻昭・政務調査会厚労部会長は「非正規雇用が4割を占め、企業救済してもその枠組みに入らない問題がある。休業支援金・給付金のスキームも、経営者の誤解や制度の不備で行き渡っていない人もいて、不公正、不公平が発生している」と法案の意義を述べている。
大企業では早期・希望退職が加速
こうした野党の「突き上げ」もあって、厚労省はようやく受給に向けて指針の作成に取りかかり、10月30日に公表した指針で要件を明確化したのだった。
それによると、休業前に6カ月以上にわたって月4回以上の勤務が確認出来、新型コロナの影響がなければ、同様の勤務を続けさせていたと会社が認めた場合や、労働条件通知書に週当たりの勤務日数が書かれていれば、支給対象とするように明記した。
ただ、新型コロナの影響がなければ同様の勤務を続けさせていたとする企業側の意向確認が必要で、支給対象も中小企業のみのまま。労組関係者からは「企業側の意向確認を求める部分があるため、今回の指針で申請が格段に増えるとは考えにくい」とみる向きが多い。
対象の企業規模要件が変わらない点について、ある厚労省幹部は「企業は休業手当を支払うのが基本で、資本力に劣る中小企業向けには支援金制度を創設したが、大企業は自力で何とかしてほしい」と解説する。雇用保険財政等から捻出しているが、財源が無限にあるわけではなく、制度の持続可能性を考慮した結果とも言える。
しかし、新型コロナの「第3波」が到来。既に北海道では感染が拡大し、札幌市内での外出自粛要請や道内他地域との往来自粛要請が出されている。全国的には感染者数は第2波のピークを超える状況だ。
春先のように働けなくなってくるアルバイトやパート従業員は今後も出てくると見込まれる。
厚労省指針のような「弥縫策」では、生活に困るアルバイト達が今後多数出てくる事が予想され、「生活費に充てられる貯金はもうない」(あるアルバイト男性)という悲鳴も聞こえる。
春先の対応では、若者向けの独立系の労働組合による支援の動きには素早いものがあったが、連合のような大きな労働組合の支援はパッとしないのも問題だ。
こうしたアルバイトの窮状に加え、一部の大企業では早期・希望退職が加速し、非正規労働者の雇い止めは収束する気配がまだみられない。春先には内定の取り消しや新規採用の抑制もみられた。
リーマンショック時のような年越し派遣村のような仕事を失った非正規労働者が路頭に迷う事態が起きかねない。
政府のみならず、影響力を持った連合のような団体も含め、「第3波」を見据えた非正規雇用対策は待ったなしと言える。
政府の雇用対策が不十分であれば、巷間言われている氷河期の再来と、ひいては全世代に雇用悪化を及ぼす事態を指す「コロナ氷河期」が到来しかねない。第3波の影響については不透明な部分が多いが、日本の雇用情勢は正念場を迎えている。
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