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コロナ対策「リスクコミュニケーション」またも失敗

コロナ対策「リスクコミュニケーション」またも失敗
「政府が年末年始17連休を促す」との誤解を与える

新型コロナウイルス感染症対策を巡り、政府が打ち出した年末年始の休暇取得の発信のまずさが目立っている。

 帰省や初詣、旅行等、1年の疲れを癒やし、新たなスタートを迎える時期だけに、政府の唐突な方針の打ち出しに国民の間に困惑ムードが広がっている。

 政府・与党内では、年明け冒頭の解散を模索する動きもある事から、与党幹部が苦言を呈する場面もみられ、新型コロナ対策のリスクコミュニケーションの「拙さ」が改めて浮き彫りになった。

政界や経済界から「困惑」の声

 混乱の発端は、新型コロナ対策を所管する西村康稔・経済再生担当相の発言だ。

 10月21日に東京都内で開かれた新経済連盟との懇談会で、「例えば1月11日が休みになる。そこまでの連続休暇とか、あるいは休暇を少し分散させる。ぜひご検討いただければ」と口を滑らせたのだ。

 その時は大事にはならなかった。しかし、直後の10月23日に開かれた政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会で、本格的に年末年始の休暇が話し合われたが、ここでも西村氏は「12月25日ぐらいから1月11日まで休みを取るのも一案だという話もあった」と分科会の議論を「披歴」した。

 分科会で専門家は分散取得の提言をまとめたが、これをきっかけに西村氏の発言をテレビ番組等が拡大解釈し、「政府が年末年始に17連休を促している」というような「誤解」を与えてしまった。

 インターネットでは「17連休」がキーワードとなり、テレビ番組の街頭インタビューでは一般の人が「とてもじゃないけど、そんなに休めない」と困惑するコメントであふれ返った。

 もう少し正確に言うと、分科会では年末年始に人出が集中する機会を減らすため、休暇の分散化や旅行をするにしても「小規模分散型旅行」とするよう求めただけだった。

 分科会会長の尾身茂氏も会合後に記者会見をしているが、積極的に17連休の取得を促すような発言はしていない。

 西村氏の発言も全体を聞けば、これに沿っているものの、発言を切り取られて使われたのだ。

 政府関係者は「口の軽い西村さんらしい。良く言えばサービス精神が旺盛だが、悪く言えば軽率だ。いつもの事で気にしていない」と話す。

 とは言え、経済界からも困惑の声が上がったのは事実だ。

 ある大手メーカーの関係者は「工場のスケジュールは既に決まっており、簡単には動かせない。対応は難しい」と困惑する。通信大手の関係者も「年末年始を完全に休む事はない。ネットワークの保守や管理があるから。既に平日も休みも関係ない」と吐き捨てる。

 大手企業で働く管理職も「そんな簡単には休めない。17連休なんてそもそも想定していないし、部下から申請があれば1〜2カ月前なら対応出来なくもないが、そうした事態にはならないのではないか。ましてや分散休暇も、年末年始に勤務してもやる事はない」と手厳しい。

 商機を見出せると歓迎する声はなくもないが、一部の業界に止まり、全体的には困惑ムードが支配するのは事実だ。

 閣内不一致とも言うべきか、萩生田光一・文部科学相も「西村大臣から相談があった段階で、学校は無理ですよ、という事は予め申し上げておきました。今年はもう既に全国一斉休校を含め授業時間が足りないという事で、現時点において文科省から学校に対して休業の延長等を要請する事は考えていない」と記者会見で発言する等、西村氏は突き放されている。

年始の衆院解散を封じる発言

 こうした世間の批判的な雰囲気を敏感に感じ取ったのか、西村氏のトーンは落ち着いていく。

 10月27日の記者会見では、「(12月26日から)1月11日まで休む人や企業もあると思う。それは選択肢の1つで、『やってくれ』と推奨しているのではなく、正月三が日に集中しないよう分散をお願いする事が趣旨だ」と述べて、あくまでも当初から分散休暇の取得を求めていたと強調した。

 西村氏の「変節」には、自民党の二階俊博幹事長の発言も大きく影響している。

 二階幹事長は10月26日の記者会見で、「17連休」に関し、「西村君から聞いていない。そんなにゆとりのある政治日程を組んでいる訳ではない」と不快感を示したからだ。

 衆院議員の任期が来年10月までと残り1年を切る中、菅義偉首相や二階幹事長ら政府・与党内では、野党に衆院選で勝てるタイミングでの衆院解散の時期を常に探っている。

 年始も1つのタイミングとされているが、休みの間は通常国会の召集と衆院解散を実質的に封じられてしまうため、西村氏の発言は「邪魔」になるのだ。

 この二階幹事長の発言後、西村氏は二階幹事長に対し、発言の趣旨を改めて「説明」したという。

 事実、西村氏が発言を「修正」した後、下村博文・自民党政調会長は11月7日、北海道内の会合で講演し、「(衆院解散は)年内はないと思うが、年明け早々の可能性はある」と発言した。

 その前日には、公明党の石井啓一幹事長も報道番組で「来年1月の通常国会冒頭の可能性もある」と述べており、相次いで与党幹部が解散時期に言及し始めており、解散を巡る「神経戦」は繰り広げられている最中だ。

 新型コロナ対策を取材し続けるある大手紙記者はこう解説する。

 「西村氏は感染症対策に熱心なあまり、17連休にまで言及してしまったのだろう。しかし、菅首相は経済再生と衆院解散による政権持続しか頭にない。冬にかけて感染がどうなるかも衆院解散に大きな影響を与えるのは確かだが、西村氏は政治家であるにもかかわらず、首相のそうした思いに配慮せずに発言し、結果として出過ぎてしまった。年末年始の対策の焦点がぼやけてしまった感じは否めない。その点で西村氏の発言の罪は重いと言えるのではないだろうか」

 またもや露呈した新型コロナ対策における「リスクコミュニケーション」の失敗。

 今回は西村氏が主導した形になり、経済界や政界へも波及してしまったが、今後、リスコミが改善するのが先か、はたまた新型コロナが先に収束してしまうのか、見通せない状況が続きそうだ。

 西村氏の「メンツ」が潰れるのは仕方ない事としても、年末年始の感染症対策がおざなりになるのだけは避けてもらいたい。改めて政府や与党には、年末に向けて万全の対策を打ち出してもらうよう望みたいところだ。

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