卸選別、希望退職等構造改革の荒波も強まる
新型コロナウイルスの感染拡大は、医薬品業界にも暗い影を落としている。最も打撃を受けているのは医薬品卸だ。メディパルホールディングスの今年4〜9月期(中間期)は、前年同期比4%減収、営業利益が35%減の180億円だった。柱となる医薬品卸業界2位メディセオの営業利益が7割減の35億円に沈んだからだ。
メディパルHDの今通期の営業利益見通しも同時に4割減の320億円に下方修正されたが、うちメディセオ事業の営業利益は前期の260億円から50億円に急落する。
医薬品卸が特に苦しいのは新型コロナに伴う患者の受診控えで経営が悪化する病院等の医療機関、薬局から販売する薬の価格引き下げ要求が強まっているためだ。4〜6月の最悪期は脱したが、この下期も厳しい環境はまだ続くと、メディパルはみている。
卸の〝オウンゴール〟も痛い。昨年11月に発覚した医薬品卸大手4社の地域医療機能推進機構(JCHO)の入札談合だ。今年10月に東京地方検察庁の捜索も入った。これが価格交渉の立場を悪くさせている。
更に背筋を寒くするのが、製薬企業の医薬品卸選別の動きだ。昨春のノボノルディスクファーマに続き、今年10月にもグラクソ・スミスクライン(GSK)による「メディセオ切り」が表面化した。GSKとの年520億円の取引が消えるのは、メディセオにとって大痛手だ。
卸は苦難の時期に
なぜ標的がメディセオだったのかは藪の中だが、日本政府の薬価抑制策で国内市場環境の一段の悪化を目聡い外資が見越し、流通コスト削減のため、これまでにない動きに出ている可能性は高い。
この動きが広がる事への警戒感は強い。メディパルHDの依田俊英・専務取締役も「外資系等からこうした動きが今後も続くだろう」と言う。メディセオ以外の大手卸にとっても他人事ではない。
武田薬品工業等製薬大手では、新型コロナのインパクトは表面的には限定的だ。影響を大きく見る第一三共でも通期売り上げへのマイナスは2〜4%と試算する。
製薬大手なら海外事業や新薬等の伸びで売り上げを補える。医薬情報担当者(MR)等の対面活動が制限され経費が減り利益面ではむしろプラスになる面もある点は卸と違う。
ただ、準大手以下では多少様相が異なる。例えば塩野義製薬だ。中間期決算の国内医薬品売り上げは計画比11%強の減、前年同期比8%減となった。感染症薬等が新型コロナの影響を受けた。通期の同部門の売り上げ予想も減額、資産売却を除くコア営業利益見通しも少し引き下げた。
久光製薬は更にきつい。訪日外国人需要の蒸発で市販薬「サロンパス」の国内売上が激減、医療用の消炎鎮痛剤も受診控え等で2桁減の結果、中間期は17%減収、46%営業減益になった。
準大手以下の製薬企業では海外事業が小さくリカバリーが利かず、国内での新型コロナの悪影響がそのまま収益を直撃する事も多い。
典型は中堅後発薬メーカーの日本ケミファだ。今中間期は8%減収、営業損益は2億円弱の赤字(前中間期は6億円の黒字)に転落した。通期の営業利益見通しも下がり2億円になる。7月にはMRの希望退職募集を発表、9月には想定30人を上回る42人が応募した。構造改革をしないと、赤字転落する苦境にあるのだ。
製薬大手にも荒波
実は、製薬大手も安泰ではない。新型コロナは乗り越えられても、医薬品市場を揺るがす大波が押し寄せているからだ。毎年薬価改定だ。
卸と病院等との交渉で決まる薬の販売価格(実勢価格)と病院等が診療で使った薬を公的保険に請求する公定価格(薬価)との差を秋に調査し、それを翌年の薬価引き下げに反映させるのが薬価改定だ。2年に1回だった薬価の引き下げを従来行わない中間年にも実施、毎年にする事が毎年薬価改定だ。これは確実かつ永続的に医薬品卸、製薬企業の収益を圧迫する、実に厄介な制度改正だ。
医薬品業界は新型コロナ下の混乱を理由に挙げて、来年4月の開始を見送るように要望してきたが、菅義偉首相は聞く耳を持たない。
製薬・卸にすれば病院等に対する値引きを抑え今年の実勢価格を高く維持して来春の改定幅を極力抑えたかったが、実際は前述した通り想定外の新型コロナもあり値引きが拡大し完全にシナリオは狂った。
「(病院等も含めた)医療業界は変革期に入った。我慢すれば、従来のように来期には収益改善となる事はもはやない」(先述の依田氏)と大手卸からは、激変期入りにも半ば腹をくくったかの発言も飛び出す。
メディパルHDは物流効率化や新規事業育成を進めるが、これで済む荒波ではない。ついに45歳以上、勤続10年以上の医薬品卸部門社員から希望退職を募る荒療治を、10月30日の中間決算と同時に発表した。
思えば、これまでも2年に1回の薬価改定や、売り上げが一定額に到達したら薬価を大幅に引き下げる市場拡大再算定等、欧米では見ない独自制度を使って、政府は遮二無二薬価ダウンを図ってきた。そこへ今度は毎年薬価改定が襲うのだ。
こうして日本の医薬品市場は先進国でもまれなマイナス成長が今後も見込まれる。大手といえども構造改革に踏み込まなければ、沈没してしまう危機感は増すばかりだ。
ここ数年、エーザイ、中外製薬、協和キリン等大手勝ち組が率先して希望退職を募る動きが相次ぐ。ここにシャイアーを巨額買収しメガファーマとなった武田が加わる。公に謳う早期退職としては同社初の募集を国内MR中心にかけた。募集枠は設けずと会社は言うが、勤続3年以上、30歳以上という募集門戸の異例の広さから、武田が大幅なMR数削減を狙っていると関係者は見る。
常連組の米ファイザーに続き、米イーライ・リリーが日本国内では初の希望退職者募集に乗り出す。外資系製薬大手も日本市場の将来展望を楽観視していない事の証左だろう。
外資系製薬企業の卸選別の陰に隠れた形だが、製薬企業全般の苦しい台所事情を示す、潜行した動きも表面化しつつある。製薬企業が医薬品卸に売る薬の価格の引き上げだ。
メディパルHDは決算説明会で採算悪化の要因として、病院等への販売価格の低下と同時に、メーカーからの仕入れ値の「継続的な上昇」を挙げた。
製薬企業は卸に対する仕切り値を下げれば、それが卸の値引き原資に使われ、自社薬剤の薬価引き下げ拡大に繋がると懸念している。ただ継続的に値上げするのは、特許期間がまだ残る新薬までも視野に入れた政府の薬価圧縮強化で国内製薬事業の収益が一段低下する事が背景にあるのも間違いないだろう。
しかし、4社寡占状態の大手卸が完全に疲弊すれば、いずれ製薬企業に跳ね返らない保証はない。この中間期はまだ入り口。仮に中間年の薬価改定で業界が恐れる全品目が対象になれば、来春の本決算発表時、業界は大揺れになるだろう。
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