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第151回 省令改正は要介護者を市区町村の総合事業に移す「懐柔策」

第151回 省令改正は要介護者を市区町村の総合事業に移す「懐柔策」

 厚生労働省は10月に見直す「介護保険法施行規則の一部を改正する省令案」に、介護の必要度が比較的低い「要支援」の人が重度化して「要介護」に移行しても、市区町村の訪問・通所サービス「介護予防・生活支援サービス事業」(総合事業)を引き続き利用出来るとする内容を盛り込んだ。来年4月から始める。総合事業は要支援者を対象とした制度で、同省は「利用者の選択肢を広げる」としている。しかし、「要介護度が少し進んだくらいでは国の介護サービスは使わせない」という狙いも見え隠れする。

 要介護認定は状態が軽い方から順に「要支援」1〜2と「要介護」1〜5の7段階で行われる。しかし2015年度の介護保険法改正により、18年度以降、要支援の人は訪問・通所サービスについて、介護保険から給付される全国一律のサービスを使う事が出来なくなった。

 その受け皿として用意されたのが市区町村による「総合事業」だ。財源には介護保険料も一部充当されるものの、市区町村の裁量で人員基準や報酬を変更出来、サービスを提供する側にはボランティアらも関わる。逼迫する介護保険財政の立て直しを意図したものだ。ただ、市区町村の財政力によってサービスに差が生じる等しており、「軽度の人の介護保険外し」と批判されてきた。

 今回の省令改正について、厚労省老健局は「要介護になっても、地域で受けていた運動等のサービスを続けたい、という希望があったからだ」と説明し、「希望すれば総合事業のサービスと介護保険サービスは併用出来る」と言う。

 ただ、介護保険関係の団体等からは「要介護になっても、総合事業のサービスで我慢させる思惑があるのでは」といった批判が続出。認知症の人と家族の会は緊急声明を出し、「利用者の自由な選択が十分尊重されるのか懸念される」「要介護者の保険外しに道をひらく」等と訴えた。国会審議が不要の省令改正で進めようとしている事に対し、共産党の小池晃・書記局長は「要介護者の受給権に関わる重大な改定。作業は一旦止めて、国会に諮るべきだ」と指摘している。

 現時点で、「選択肢を広げる」という厚労省の言い分は嘘ではなさそうだ。それでも、21年度の介護保険法見直しで同省は、要介護1・2の人が使う訪問・通所介護サービスを総合事業へ移行させる事を目指した。これは一旦断念したが、次期24年度の同法見直しに向け、社会保障審議会の介護保険部会では同じ案を検討課題に含めている。同省幹部は「大きな流れに変化はない。今回の省令改正もそれに逆行するものではない」と言う。

 17年度厚労省介護サービス施設・事業所調査によると、介護保険の通所サービスを利用する要介護1の人の割合は36・1%で、要介護2は30・6%。一方、総合事業の方は人手不足に追われ、十分なサービスを提供出来ていない自治体もある。総合事業側の受け皿不足は明らかで、要介護1・2の人が移行すればパンクしかねない。今回の省令改正は、要介護1・2の人を総合事業に徐々に移す事を狙った懐柔策、とも読み取れる。

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