抗リン脂質抗体症候群(APS)に直接型経口抗凝固剤(DOAC)を使用すると動脈系を中心に血栓症がワルファリンの7〜12倍できやすいことがランダム化比較試験や観察研究で報告されている。薬のチェックNo921)で、その発症機序を薬理学的な面から検討したのでその概要を紹介する。
抗凝固剤の作用点
キサバン剤(Xa阻害剤)はトロンビン生成を促進するXa因子のみを阻害し、ダビガトランはトロンビンそのものを阻害する。一方、ワルファリンは、IIとⅩ(共通系)、VII(外因系)、IX(内因系)、および抗凝固系のかなめプロテインC系を広く阻害する。
薬物作用の選択性とフィードバック機能
ある物質が生体内で受容体に作用する場合は通常、主作用が強く働きすぎないよう、別のサブタイプの受容体が抑制する。興奮系に選択的な阻害剤や作動剤は、抑制系の受容体に働かないため、作用のバランスが崩れ、害が大きくなることが多い。
凝固系・抗凝固系における正・負のフィードバック
血液は、凝固を促進する凝固系(興奮系)と、抗凝固系(抑制系)が必要時にバランスよく働き正常に止血する。出血初期には、主にトロンビンがⅧ因子などを活性化して凝固を促進する正のフィードバックが働く。凝固が進むと、トロンビンは抗凝固系のプロテインC系を活性化させ、Ⅷ因子を抑制し、Ⅷ因子で活性化される血小板の凝集を抑制する(負のフィードバック)。正のフィードバックで凝固させ、負のフィードバックで凝固を終了させている。
トロンビンやXa因子を阻害すると
DOACは外因系や内因系を抑制しないが、トロンビンを阻害するため共通系までの凝固は抑制される。しかし、トロンビン抑制でプロテインC系が活性化されないためⅧ因子が抑制されず、血小板凝集が抑制されない。DOACがAPSなど血栓素因の有無にかかわらず血栓を増やす理由になる。
DOACは血小板を強く凝集
正常なマウスを用い、ダビガトランとワルファリン、対照の3者を比較した実験で、ワルファリンは対照と差がなく、ダビガトランは血小板凝集、動脈血栓形成を増強した。DOACが血栓素因の有無にかかわらず血小板の凝集を増強しうるという仮説を支持する。
一方、ワルファリンは、最初にも記したように凝固の外因系、内因系、共通系、さらに抗凝固系をバランスよく阻害し、血小板の凝集をも抑制する。その結果、過剰な血栓形成を免れていると考えられる。
非弁膜症性心房細動一般でも血栓リスクが
一般人口中15.1%の人に、何らかの抗リン脂質抗体が検出されている。高齢者ほど、また心疾患があれば高頻度なので、血栓未発症の非弁膜症性心房細動の患者でも、潜在的な抗リン脂質抗体陽性者は相当多いはず。APSの有無にかかわらず、DOAC使用は血栓症を形成しやすいと考えるべきだ。
実地診療では
APSはもちろん、非APS患者に対してもDOACではなく、ワルファリンを至適INRとして1.5〜2.2を目標にコントロールすべきである。
参考文献
1) 薬のチェック2020:20(No92):134 -135
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