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薬事審議会委員の5割に渡った「製薬マネー」の実態

薬事審議会委員の5割に渡った「製薬マネー」の実態
薬亊承認の議決権に制限生じる金額も過小に申告

製薬企業との金銭的利益相関が医師や研究者の意志決定に悪影響を及ぼさないように、利益相関には透明性が求められている。日本の医薬品規制制度は医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査の後、厚生労働省管轄の薬事・食品衛生審議会で審議を行い、外部の委員の意見を踏まえ、厚労省が医薬品承認の妥当性を決める。しかし、審議会委員と製薬企業の関係や委員に課せられ️ている利益相反に関するルールの遵守状況についてはほとんど調査・検証されてこなかった。

 そのような中、「製薬マネー」について研究している医師達のチームがこのほど、薬事・食品衛生審議会の委員に対する製薬企業からの支払いを調べた研究論文をClinical Pharmacology & Therapeutics誌に発表した(注)。医薬品承認の議決権に制限が生じる「1企業から50万円以上の受け取り」が過小に申告されているケースもあり、委員が定められたルールに反しながらも医薬品承認の議決権を得ていた可能性がある事が分かった。

1委員あたりの平均額は107万円

 論文を発表したのは、仙台市医療センター仙台オープン病院の澤野豊明医師らのチームだ。

 澤野医師らは各製薬企業が公表するデータに基づき、薬事・食品衛生審議会のうち、医薬品の承認に関わる医薬品第一部会、医薬品第二部会、再生医療等製品・生物由来技術部会、薬事分科会、薬事・食品衛生審議会総会の2017・18年度の委員に対し、製薬企業各社から16年度に提供された謝礼等の金額(日本製薬工業協会の透明性ガイドラインのC項目:原稿執筆料等)について、個人単位で解析した。主な研究概要は以下の通り。

●薬事・食品衛生審議会委員108人のうち、51人(47%)が️謝金などを受け取り、総額は1億1576万円だった。

●1委員当たりの受取金額の平均値は107万円だったが、32人(30%)が合計50万円以上を受け取っていた。

●500万円以上受け取っていた委員は8人(7%)で、全員が大学教授だった。

●8530件に及ぶ寄附金・契約金等の自己申告を解析したところ、少なくとsも409件(4・8%)が過小に申告されていた。そのうち112件(27・4%)では、医薬品承認の議決権に制限が生じる「1企業から50万円以上の受け取り」を過小に申告しており、定められたルールに反して委員が医薬品承認の議決権を得ていた可能性があった。

 論文では、審議会が独自に定めた基準に沿い、50万円以上、500万円以上の支払いを受けた個人の割合を算出。製薬企業1社から50万円以上、500万円未満の支払いを受けた委員は支払い企業に関連する特定の医薬品の承認の議決に参加する事が出来ず、500万円以上の支払いを受けた委員は支払い企業に関連する医薬品の審議が行われる会議全体に参加出来ない。

 澤野医師らのチームは各委員が審議前に提出した利益相反申告書の金額と各製薬企業が公表している支払い額を比較、製薬企業の支払い額を下回ったものを「過小申告」と定義、その割合を算出した。その結果、全申告の約5%が過小申告、そのうち4分の1が薬事承認に関する議決権を不正に得ていた可能性が分かった。

 澤野医師に委員別受け取り金額(表①)と製薬企業別支払い金額(表②)のランキングをそれぞれ出してもらった。委員別受け取り金額のトップは、現在、日本専門医機構理事長を務める寺本民生氏で約1086万円だった。また、製薬企業別支払い金額では第一三共がトップで約1097万円だった。

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 その他の特徴としては、全委員への支払い総額の67・3%(約7794万円)が講演料で、次いでコンサルティング料が20・8%(約2412万円)、執筆料が9・4%(約1083万円)だった。また、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬等、製薬企業に莫大な利益をもたらす医薬品の命運を握る医薬品第二部会(医師が占める割合は67%と最も高い)の委員への支払いが全体の57%を占めていた。

プロセス全体の見直しが急務

 澤野医師は「利益相反についてのガバナンスが厳格に監視・運用されていない場合、現状のルールでは不十分。医薬品の承認メカニズムと関係者の現状を徹底的に調査し、プロセス全体の包括的な見直しが急務だ。増え続ける医療費も減らせるかもしれない」と話す。

 16年度のデータを基にした調査だが、現在も同様の状況だろう。コロナ禍のあおりでボーナス無支給や給与カットの憂き目に遭う医療者がいる中、一部とはいえオイシイ思いをしている医師や製薬企業がいるようでは、医療全体に対する国民の不信を招きかねない。

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