「ピンチはチャンス」と捉えられる現場だけが生き残る
厳しい経営環境は、なお続いている。医業利益率を見ると、4月、5月は前年に比べて著しく悪化した所が多かったが、6月から少し持ち直してきた傾向が見える。第2次補正予算においては、事態長期化や次なる流行の波に対応するため、医療関連の支援策が盛り込まれているので、利用出来る場合には、是非とも活用した方がいい。そして、補助金はコロナ対策の消耗品に使うだけでなく、新たな投資をする事を検討すべきである。
コロナ禍にあって落ち込みの激しいのは外来医療だが、人口構造の変化もあって、多くの地域では外来は需要のピークを迎えている。5年前と比べて減少しているからと言って、全てがコロナのせいばかりとは言えない事は肝に銘じておかなくてはならない。
医療・福祉の世界では、「2025年問題」を見据えて、着々と手を打ってきたはずだ。団塊の世代が後期高齢者入りする2025年までは、高齢者人口は漸増する。そこから先、2040年を展望すると、高齢者人口はもはや増えず、逆に生産年齢である現役世代の急減という新たな局面を迎える。高齢化率が高まる中で、どのような課題に対応していくか。想定外のコロナ禍が起こった事で、更に出生数が減り、人口減が進む事は心しておかなくてはならない。
コロナと非コロナを分けて医療提供体制を構築
さて、厚生労働省社会保障審議会では2040年の医療提供体制を見据えた改革の議論が始まっており、3つの大きな改革の方向が打ち出されている。
1つ目は、「医療施設の最適配置の実現と連携」だ。ここでは、全ての公立・公的医療機関等における具体的対応方針の合意形成が求められる。また、具体的な対応方針の検証と地域医療構想の実現に向けた更なる取り組みも必要になってくる。
2つ目は、2020年度の診療報酬改定でも最大の目玉とされた「医師・医療従事者の働き方改革」だ。2024年度から、医師の時間外労働の上限規制がスタートする。その中で、医療機関においては、労働時間管理を適正化して、マネジメント改革を進めていく。また、上手な医療のかかり方の普及・啓発を行い、患者・家族に向けた支援を行っていく。
3つ目は、「実効性のある医師偏在対策」で、偏在是正の目標年は2036年と定められた。地域及び診療科による偏在の対策を行う。また、総合診療医の確保等、プライマリケアへの対応も必要になってくる。
これら3つの改革に、コロナ対策が加わってくる。これらを一体的に推進しいてく事で、総合的な医療提供体制改革を実施していかなくてはならず、今後の診療報酬改定は、こうした改革を支える方向で進んでいくはずだ。
まず、第1の地域医療構想は、言うまでもないが、需要に対して病院・病床の数が供給過多な状態であった事を受けて、各病院が地域内で役割分担をする体制の構築を前提として、病院の機能転換を含む地域内再編の流れを進めていくものだ。2014年に「医療介護総合確保推進法」が成立し、地域医療構想が制度化された。
2025年に向けて、必要となる病床数(病床の必要量)を4つの医療機能ごとに推計し、地域の医療関係者の協議を通じて病床の機能分化と連携を進めて、効率的な医療提供体制を実現する事を目指している。
もっとも、コロナ禍で病床が足りないという声が挙がった事で、その方向も少し変化を受けるかもしれない。
8月24日に開催された社会保障審議会医療部会では、新型コロナウイルス感染症に対応した医療提供体制の在り方についての意見交換がなされた。委員からは、地域医療構想は感染症のパンデミックへの対応を想定した内容に修正すべき、都道府県の医療計画に新興感染症対策を盛り込むべき、といった意見が出された。新型コロナに対応しつつも、通常の医療は維持していかなくてはならない。コロナとコロナ以外の医療提供体制を明確に分けて構築していく事になりそうだ。
厚労省は8月31日に都道府県に宛てた通知で、地域医療構想の実現に向け、公立・公的医療機関の再編統合を伴う場合、「具体的対応方針」の再検証の期限を2020年秋頃までとしていたものを、改めて提示する事を決定した事を伝えた。
コロナ禍が図らずも働き方改革を加速
次の働き方改革への対応も待ったなしだが、こちらもコロナ対策の影響を受ける。コロナ対策では、感染防止への対策はもちろんの事、セルフケアを伸展させるような呼び掛けもなされている。また、対面だけでなくオンラインを併用した診療も進んでいる。面会や会議・セミナー等もオンラインで実施され、一部にはテレワークも導入されている。また、在宅医療等の場合には、直行直帰で実施している所もある他、現場における業務効率を高め、医療従事者の負担を軽減する方向に進んでいる。コロナ対策は、図らずも働き方改革への取り組みを加速させている。
また、医師の偏在対策だが、8月31日に開催された「医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会」では、2022年度の医学部臨時定員について、新型コロナウイルス感染症の流行で十分に議論を行う時間が取れなかった事から、2021年度までとされていた臨時の定員増の方針を継続する事が決まった。「地域枠」と並ぶ偏在解消策とされる「新専門医制度」は、実効性を挙げているとは言い難いようだ。高齢者がとりわけ多い過疎地域において、医療施設へのアクセスの利便性解消にも、遠隔の問診の仕組みに加えて、高精細な手術映像等大容量データの双方向通信により、緊急手術等で熟練医が不在の状況で遠隔から手術支援をするための実証実験も進められている。
さて、2040年の日本。2018年時点で、全就業者6664 万人のうち、823 万人が医療・福祉従事者であるが、このまま単純に推計すると、2040 年時点では1000 万人以上が医療・福祉を担わなくてはならなくなる。医療・福祉へ就業者の総数を増加させるような施策を期待したい。それと並行して、より少ない人数でも回す事の出来る現場の構築こそが、医療機関自身が取り組む事が出来る課題である。
2020年の年初に突然見舞ったコロナ禍は、戦後最大の社会システムの危機であり、医療・福祉業界もまた深刻な状況に陥れたが、未来が前倒しに来たと考えるべきである。
ICT等の情報通信サービスをフルに活用してテレワーク等を推進し、現場の負担を最大限に減らすように努力する。ケアに関わるスタッフが本来業務に集中出来、事務作業等に時間を割かなくてもいいようにする。“ピンチはチャンス”と捉えられる現場だけが、生き残る事が出来るのではないか。
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