自見参院議員の不倫騒動で日医連弱体化に拍車も
8月4日朝、東京・永田町の衆院第1議員会館の大会議室には自民党の国会議員が続々と集まっていた。党内で最大級の議員連盟「国民医療を守る議員の会」の総会が開かれたからだ。議連は2013年11月、社会保障財源の確保に向け、永田町と日本医師会(日医)等、業界団体の関係強化を目的に設置された。
総会には、日医から政治団体の日本医師連盟(日医連)の委員長を兼務する中川俊男会長が、就任以来初めて出席。中川氏は安倍晋三首相と親密だった横倉義武・前会長とは異なり、政治との関係について「どんな圧力にも決して負けない」として一定の距離を取る考えを示しており、その発言が注目されていた。
総会の冒頭、議連の会長代行の鴨下一郎・元環境相から「日本医師会が新会長の体制になったので、新会長からどういうお考えなのか今日ご披露いただく」と紹介されたマスク姿の中川氏だったが、「去る6月27日の定例代議員会において、私中川俊男が第20代の会長に選ばれた。よろしくお願いします」と頭を下げると、議員側から大きな拍手が送られた。続いて間髪を入れず「まず改めて申し上げる。日本医師会と日本医師連盟は次回国政選挙においても今まで以上に自由民主党を応援する」と強調すると、更に盛大な拍手が湧き起こった。
その後は、新執行部の所信や新型コロナウイルス感染症対策に関する要望等を資料に基づき10分以上にわたり事細かく説明。持ち前の政策通ぶりをいかんなくアピールする場となった。
騒動奇貨に横倉色強い自見議員外し
ただ、約1時間の総会を無事終えて会場を出てきた中川氏の表情はさえなかった。直前に日医連の組織内候補である厚生労働政務官の自見英子・参院議員に副大臣の橋本岳・衆院議員との不倫スキャンダルが発覚したからだった。新型コロナ対応で全国の医師が苦労を強いられている中、妻子持ちの橋本氏とデートまがいの会食をしていた事等に対し、日医内から「医療界の代表として脇が甘い」といった批判の声が中川氏のもとにも相次いでいた。
そもそも中川氏は自見氏に対して複雑な感情を抱いているという。新型コロナ対応等、熱心な仕事ぶりは評価している一方、自見氏は国民新党代表を務めた自見庄三郎・元郵政相の次女。父親は07年の参院選を巡り、現職だった武見敬三氏と日医連の組織内候補のポストを争い、敗れた後は当時の反主流派だった茨城県医師連盟等の支援を受けて国民新党の比例代表候補として当選を果たした。その一方で、組織内候補の武見氏は自民党の比例代表で個人票を集める事が出来ず、次点で落選の憂き目をみた(12年11月に繰り上げ当選)。中川氏としても、そんな人物の娘を手放しで応援は出来ないというのだ。
更に、自見氏は16年参院選に向けた日医連の組織内候補の選考で、30代の勤務医で医師会活動でもさしたる実績がない中、事実上、横倉氏のイチ押しで選ばれたという経緯がある。自見氏は〝横倉色〟の強い人間とみて、今回の日医会長選で会を二分する戦いをした反対勢力の影響力を弱めたい中川氏は「可能ならば自見氏を次の22年参院選の組織内候補から外そうと考えている」(地方医師会幹部)という。
こうした中、日医連内で気になる動きも出てきている。テレビ会議方式で行われた7月21日の執行委員会で、次期参院選の組織内候補の公募を決定したのだが、出席者によると、横倉系の委員が「現職で自見氏がおり、公募は不要ではないか」と訴えたのに対し、中川系は「現職がいても原則は公募だ」と主張。最終的に中川氏が公募で押し切ったというのだ。8月3日が公募の締め切りとされた直後にタイミングよく自見氏の醜聞が表面化したため、日医内では「中川氏が候補差し替えを狙ってリークしたのではないか」(中堅職員)という声も上がった。
ただ、締め切りまで間がなく、結局公募に応募したのは自見氏のみ。翌4日の執行委員会のテレビ会議で、次期組織内候補に自見氏が内定した。
ここで一計を案じた中川氏。正式決定は後日に中川氏が発表した際として、その発表のタイミングは中川氏に一任されたのだ。こうしておけば、自見氏に新たなスキャンダルが発覚する等、今後トラブルを理由に候補差し替えが可能になる。横倉系への牽制になる上、正式決定までの間に差し替え候補を準備する時間も確保出来るという計算だ。表の定例記者会見等は失言をしないよう事前に用意した紙を読み上げる事が多い中川氏だが、裏では念入りに横倉色の一掃に力を注いでいる。
自民党は日医連の票とカネに期待
そんな中川氏が率いる日医連の動きを自民党側は冷静に見ている。安倍—横倉ラインという属人的に親密な関係がなくなった今、日医連に期待されるのは、他の業界団体と同様、票とカネとなる。特に集票力については、新型コロナ対応への評価で支持率が低下傾向にある自民党にとって大きな下支えとなるものだ。議連に厚労族以外の議員も多く詰め掛けて中川氏を歓迎したのも、そういった思惑がある。
しかし、日医連の集票力を端的に表す参院選比例代表での組織内候補の得票数は、ここのところ右肩下がりとなっている。第2次安倍政権発足直後の13年参院選で、日医副会長から転じて立候補した羽生田俊氏は、自民党の比例代表候補の中で6位となる約25万票を獲得したが、16年の自見氏は9位の約21万票に減少。2回目の挑戦となった19年の羽生田氏は、業界団体候補の乱立で票が分散した事もあり、自民党比例代表19人の当選者のうち16位(特定枠の2人を含む)の15万票と大きく票を減らした。日医連内では「羽生田氏は70歳を超え、動きも悪かった」(幹部)という見方が強いが、対外的には集票力の低下を印象付けるものだった。
ただ、自民党としては「業界全体で自民党票を掘り起こしてくれればいい」(選対筋)とのスタンスで、日医連が参院選比例代表で業界団体何位の票を獲得したかはあまり気にしていないという。大量得票で発言力を増されると、社会保障費に制約がある中、日医連の要求を何でも聞かなければいけなくなる。「微妙な得票数に見合う〝お返し〟で我慢してもらい、カネだけ出してもらう形が好都合」(同)なのだ。
中川氏は8月7日、厚労省を訪問し、議連の前会長でもある加藤勝信・厚労相にPCR等検査体制の拡充を要望した。中川氏は会談後に「かなり突っ込んだ議論をした」と明かしたが、前任の横倉体制では水面下の事前調整でスムーズに話が進む事も多かった。自民党と日医連は是々非々で対応する大人の関係になったとも言える。そのためにも〝強い日医〟の構築は急務だが、「中川氏は裏で一致団結とは逆の事ばかりしている」(ベテラン職員)との評価が固まりつつある。
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