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未来の会

PCR検査は感染症法ではなく 新型インフル特措法の活用によって拡充すべき

PCR検査は感染症法ではなく 新型インフル特措法の活用によって拡充すべき
1. PCR検査の拡充は現行法の活用で

 この8月5日、日本医師会の中川俊男会長が、現在の枠組みでは検査能力の向上は限界だとして、新型コロナウイルスのPCR検査などの体制強化につき、7項目の緊急提言を行った。体制整備として、いずれも適切な技術的提言だと思う。

 本来ならば、それと共に体制整備を支える法律も、この際に一括して整備してしまいたいところであろう。ただ、法律改正には時間が要るので、当面は、現行の法律を柔軟に活用して、緊急にできる限りPCR検査の拡充を行うのがよい。

2. 感染症法ではなく新型インフル特措法で

 法律の側面だけから話をすれば、今までPCR検査の数がさほど増えなかった原因は、感染症法に頼っていたからである。

 感染症法は、その第1条に明記されているとおり、もっぱら「公衆衛生」の向上及び増進を図る法律だと言ってよい。「公衆衛生」の観点から、例えば同法第14条では定点調査について規定し、同法第15条では積極的疫学調査について規定している。同法第15条に基づき、クラスター対策は積極的疫学調査の一環として行われ、また、PCR検査は行政検査の一つとして行われてきた。

 PCR検査数を国際的に比較すると、我が国は各国よりも低水準であるとよく言われるが、感染症法に定める公衆衛生の観点からする積極的疫学調査の一環として行われている以上、当然の帰結とも言えよう。国立感染症研究所や保健所などといった人的・物的に限られた資源の下で行われる以上、積極的疫学調査の観点からの必要かつ効果的な範囲に絞り込まれるのも、行政の立場からすると、しかるべきである。

 つまり、PCR検査を拡充するためには、感染症法の系列には頼らず、それとは全く別のシステムで行われねばならない。すなわち、そうしないと拡充できないのが、現状である。そして今、新型コロナ感染症に即して課題を解決して行こうというのであるからして、全く別のシステムとは、新型コロナに対して全面的に適用されている新型インフルエンザ等対策特別措置法の系列のシステムを意味することとなろう。

3. 特措法によって新型コロナ検診を実施

 例えば、同法第7条や第8条に基づき都道府県や市町村が行動計画を定めるが、その際に、一定の基準・範囲の住民や事業者・職員にPCR検査を広く実施することと定めたとしたならば、今度は第24条第9項によって広く「公私の団体又は個人」に対して「実施に関し必要な協力の要請」をすることができる。

 また、同法第45条第2項には、一般によく知られている都道府県知事の劇場・百貨店・キャバレーなどへの「休業要請」が規定されているが、その他には何もできないわけではない。その他にも、「政令で定める措置」を要請できることとされていて、手指の消毒・施設の消毒・マスクの着用などが(政令たる)新型インフル特措法施行令第12条で定められている。

 そこにもう一つ、事業者や入場者などへのPCR検査を「感染の防止のために必要な措置として厚生労働大臣が定めて公示」して、付け加えればよい。なお、この第45条第2項の定めは緊急事態宣言下に適用が限定されてはいるのであるが、それとてもあくまでも行政指導に過ぎないので、解釈変更によって、緊急事態宣言が出る前であっても「措置要請」を可能としてもよいであろう。

 以上の法律の定めを基礎として、対策型検診として、いわば新型コロナ検診を行えばよいのである。その対象集団は、65歳以上の高齢者としたり、東京で言えば新宿・渋谷・港区(六本木や赤坂)という地域の住民としたり、ナイトクラブなどのある繁華街の事業者・従業員としたり、というようにきめ細かく柔軟に設定すればよいことであろう。なお、病院職員と入院患者、介護施設職員と入所者、それらの同居の家族にも、弾力的に適宜実施していくのは当然である。

4. 保険診療の一環としてPCR検査を実施

 3月4日付で、厚労省健康局結核感染症課長通知(新型コロナウイルス核酸検出の保険適用に伴う行政検査の取扱いについて)が発出され、3月6日よりPCR検査に保険適用が認められた。点数は、PCR検査料1800点(又は1350点)、検体検査判断料のうち微生物学的検査判断料150点の合計1950点(又は1500点)である。

 しかしながら、このPCR検査もあくまでも「行政検査」にすぎない。そのため、保険適用のためには「帰国者・接触者外来と同様の機能を有する医療機関として都道府県等が認めた医療機関」でなければならないことになってしまっているのである。

 そもそもPCR検査の拡充のためには、行政検査では足りない。そうすると、保険診療の一環としてできるようにしなければならない。この点、新型コロナ特措法は、その第31条第1項において、「都道府県知事は、患者等に対する医療の提供を行うため必要があると認めるときは、医療関係者に対し、その場所及び期間その他の必要な事項を示して、当該患者等に対する医療を行うよう要請することができる」と定めている。

 従って、この「医療」については、自由診療や公費医療のみならず、通常の一部負担金のある保険診療もこの「要請」に含めると共に、その保険診療の一環として、PCR検査も積極的に行うべきことを「要請」すべきであろう。

 このようにすると、行政検査としての保険適用と、保険診療としての保険適用とでは、同じPCR検査であっても、全く別個のものとなるのである。そこで、別個のPCR検査なのだから、それぞれのPCR検査に応じてそれらの診療報酬点数の要件を書き分けるのが当然である。この点を明確に区分するために、今度は保険局医療課長通知をもう一本、発出することが望ましい。

 保険診療の一環としてのPCR検査が確立されれば、保険医療機関及び保険医療養担当規則第20条第一号ホに定めるとおりに、PCR「検査は、(〔筆者挿入〕保険医によって)診療上必要と認められる場合に行う」ことができるようになることであろう。

5. 感染症法と特措法とで別々にPCR検査を

 以上のとおり、PCR検査の拡充は、従来からの感染症法による行政検査の拡大ではなく、新型インフルエンザ等対策特別措置法を柔軟に解釈・運用していくことにより、別個のものとして実現していくのがよいと考えられる。

 しかも、特措法第24条第9項と第45条第2項の活用によって対策型検診としてのいわば新型コロナ検診を推進すると同時に、特措法第31条第1項の活用によって純然たる保険診療におけるPCR検査の道も開かれていくべきであると思う。

 

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