政権が新型コロナウイルス感染症対策に四苦八苦する中、不死鳥のように蘇ったとして有名なのが、内閣官房の樽見英樹・新型コロナウイルス感染症対策推進室長だ。
厚生労働省医薬・生活衛生局長として今夏に官僚人生を終えるかと思われたが、事務次官級に昇任し、定年が2年延びた。
政権の枢要なポジションに「栄転」し、「局長時代よりも張り切っているようだ」(大手紙記者)と評判だ。
樽見氏は開成高校、東京大法学部を経て、1983年に旧厚生省へ入省。年金局企画課を振り出しに、大臣官房広報室長、社会保険庁総務部総務課長を経て、大臣官房人事課長、年金管理審議官を歴任した。
局長級では、官房長と保険局長、医薬・衛生局長の3ポストを経験した。特に官房畑が長く、官房系以外の本省課長を経験せずに出世した珍しい経歴の持ち主だ。
同期入省に鈴木俊彦・事務次官、木下賢志・内閣官房地方創生総括官、武田俊彦・元医政局長(退官)が揃い、事務次官級を3人も輩出した優秀な世代でもある。
同期の中でも鈴木氏や武田氏は「剛」だが、官房経験が長く調整型として知られる樽見氏は「柔」の人だ。鈴木氏との相性はあまり良くないとされる。
「気さくで飄々とした人柄」(中堅職員)で知られ、厚労省内では事務次官就任を期待する声も多かった。
しかし、主要局長を歴任した鈴木氏に先を越され、保険局長時代にも妊婦加算の見直しがスムーズに行かず、鈴木氏から不興を買い、医薬・生活衛生局長に「左遷」されていた。
1959年生まれの樽見氏は既に60歳を迎えており、定年が迫っていた。このまま官僚人生を終えるかと思われていた。
しかし、年初から新型コロナが流行し、政府が内閣官房機能を強化する中、医薬・生活衛生局長で健康・生活衛生担当の大臣官房審議官経験もある樽見氏に、室長就任の白羽の矢が立ったのだ。
3月25日に就任した樽見氏は「定年間近で室長就任となり、定年が延びたんです」と笑って話しているという。
土壇場に強いのが樽見氏だ。
年金管理審議官だった2015年、所管する日本年金機構の年金情報管理システムサーバーから個人情報が流出した問題が発覚した。厚労省や機構の初動が遅れ、情報流出の拡散を招いたと批判された。
誰もが責任者である樽見氏の更迭を予想したが、健康・生活衛生担当の大臣官房審議官として省内に残り、「樽見さんには不思議な力が働いている」と驚かれた。
実際は、当時の幹部の中に樽見氏を引き上げる「後見人」がいたとされる。
「人生万事塞翁が馬」——。新型コロナの感染はしばらく続く。当分の間は今のポジションで新型コロナ対策に尽力しそうだ。
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