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新型コロナ治療で注目される「日本発」4つの薬

新型コロナ治療で注目される「日本発」4つの薬
アビガンも治療薬候補から脱落したわけではない

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染に第2波の兆しが見える中、治療薬の開発は急務だ。7月15日時点で国内でCOVID-19への適応を承認されているのは、5月に特例で承認を受けたレムデシビル(商品名ベクルリー)のみだ。米国ギリアド・サイエンシズがエボラ出血熱の治療薬として開発を進めてきた薬である。世界中で治療薬の開発競争が進められるが、新薬を短期間で開発する事は難しい。そんな中、既存薬の中でCOVID-19への治療効果が期待されるとして、日本発の4つの薬も注目を集めている。

 軽症者向け治療薬の最有力候補として期待されるのが、安倍晋三首相も早くからアピールしていた富士フイルム富山化学(以下、富山化学)のインフルエンザ治療薬「アビガン(一般名ファビピラビル)」だ。アビガンは、動物試験で催奇形性が認められた事から、効能・効果を「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)」として、2014年に承認を受けており、国内で備蓄されていた。RNAポリメラーゼを抑制する作用があり、ヒト細胞内でRNAウイルス増殖を抑える効果が期待されている。

有意差出せない原因は症例数の少なさ

 現在、COVID-19患者を対象に企業治験が実施されている。当初、政府は5月中にも承認したい意向を示していたが、治験はなお継続中だ。一足早く、7月10日、藤田医科大学から、3月上旬から実施されていた多施設臨床試験の最終結果の暫定的な解析が報告された。対象は無症状ないし軽症の患者で、アビガン投与により、ウイルス消失や解熱に至りやすい傾向は確認されたものの、統計的有意差は出せず、明確な有効性は示されなかった。

 少し詳しく見てみよう。試験は、同大を代表機関として全国47医療機関で実施された非盲験試験で、3月上旬から5月中旬に、COVID-19患者計89人が参加した。うち44人がアビガンの通常投与群(1日目から内服)、45人が遅延投与群(6日目から内服)に無作為に割り付けられた。中途からの不参加者(1人)、参加時にウイルスが消失していたと判明した者(19人)を除き、通常投与群36人、遅延投与群33人について、ウイルス量が評価された。

 主要評価項目「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」は、通常投与群66.7%、遅延投与群56.1%だが、調整後ハザード比は1.42(95%信頼区間=0.76-2.62、P値=0.269)で有意差はない。

 一方、副次評価項目「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」は、通常投与群94.4%、遅延投与群78.8%で、調整後オッズ比は4.75(95%信頼区間=0.88-25.76、P値=0.071)。更に、探索的評価項目「37.5℃未満への解熱までの平均時間」は通常投与群2.1日、遅延投与群3.2日で、調整後ハザード比は1.88(95%信頼区間=0.81-4.35、P値=0.141)だった。これら2項目も有意差に達しなかったが、通常投与群で回復に至りやすい傾向が見られた。

 投与後の有害事象として、血中尿酸値上昇(84.1%)、血中トリグリセリド値の上昇(11.0%)、肝ALT上昇(8.5%)、肝AST上昇(4.9%)といった検査値異常が見られた。しかし、内服終了後(16日目または28日目)に採血した患者(38例)のほぼ全員で平常値まで回復。痛風発症者はおらず、その他重篤な有害事象も認められなかった。

 考察として、有意差を出せなかった原因として挙げられているのが、症例数の少なさだ。200人規模で試験を実施していたら、主要評価項目のウイルス消失率の割合が同程度でも、有意差はついていたはずだとされ、実施者は「有効である可能性がある」と評価している。

 症例数の少なさに加え、ウイルスの有無の評価をPCR検査で行った事にも疑問の声が出ている。PCR検査は死滅したウイルスもカウントしてしまうためだ。また、研究開始時点において、PCR検査を実施出来るのは、発症からともすると1週間以上かかるという状況があり、発症から10日までの患者をエントリーしていた。しかし、アビガンの抗ウイルス効果が、発症後どの時点まで発揮出来るかについては明確になっていない。

 この試験で有意差を出せなかった事は厳粛に受け止めるべきだが、アビガンが治療薬候補から脱落したわけではない。富山化学の治験は異なる目的や対象患者で実施されており、今後エビデンスが示されるかもしれない。治験は96人を対象に投薬後28日間観察するもので、最短でも7月完了とされている。治験病院のコロナ患者用病床が埋まっていた頃と比べると、入院者が減少しており遅れが懸念されている。結果に過度な期待を抱く事はせず、冷静に待ちたい。

薬の選択肢が増える可能性

 7月には、フサン(一般名ナファモスタットメシル酸塩)とアビガンを併用する多施設共同研究結果も、東京大学医学部附属病院から発表された。フサンは、鳥居薬品が開発したタンパク質分解酵素の阻害薬で、膵炎の急性症状の改善、播種性血管内凝固症候群(DIC)等について有用性が確認されている。東大医科学研究所が、SARS–CoV–2がヒト細胞へと侵入する過程を阻止する事を突き止めた。

 同院では、肺炎を発症してICUでの治療を必要としたCOVID-19患者(2020年4月6日〜21日に入院)を対象に、フサンとアビガンを併用して観察研究を行った。対象患者11人(中央値68歳、男性10人、女性1人)のうち、10人で臨床症状が軽快した。回復症例では人工呼吸器使用者が7人、うち3例がECMO(体外式膜型人工肺)を必要としたが、中央値16日で人工呼吸器が不要となった。症例数は少ないが、薬の選択肢が増える可能性がある事は朗報だ。

 また、中外製薬のアクテムラ(一般名トシリズマブ)は、インターロイキン-6(IL-6)という炎症性サイトカインの作用を抑制して、免疫抑制効果を示す抗体医薬(分子標的治療薬)であり、関節リウマチ等の治療に用いられている。COVID-19について無作為比較試験が実施されている。

 更に、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏(北里大学特別栄誉教授)によって創薬されたイベルメクチンにも、新型コロナウイルスの増殖抑制効果が見つかった。イベルメクチンは熱帯の寄生虫感染症である河川盲目症の特効薬で、日本でも疥癬等の治療薬(商品名ストロメクトール)として承認されている。こちらもCOVID-19を対象に治験が計画されている。

 SARS-CoV-2感染者の8割は無症状ないし軽症とされるが、2割は肺炎が悪化し、炎症反応が過剰に起こる事によって重症化していく。まずは、軽症者が重症化しない「抗ウイルス」が待望されており、重症化した場合はIL-6阻害薬やステロイドのような「抗炎症薬」を用いる事がコンセンサスとなりつつある。更に、血栓症予防のための抗凝固薬も用いられる。ワクチンと共に、有効で安全な治療薬の開発を見守りたい。

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