公立校は「平等」にこだわるあまり硬直した対応に
新型コロナウイルスの感染拡大で、全国各地の学校で休校が続いた。4月から新年度が始まるところに水を差された形だが、長引く休校で学習の遅れや生活の乱れも心配される。自宅勤務を余儀なくされる親にとっては、子どもの面倒に加えて「家庭学習」の支援も行わなければならず、大きな負担がのしかかる。こうした緊急事態にもかかわらず、なぜ日本では「オンライン授業(遠隔授業)」が進まないのだろうか。
「え? ずっと学校は休みなの? オンライン授業は? 子どもの勉強を、親がみるの? 信じられない!」
今年4月初め、米ロサンゼルスに住む友人とテレビ通話をしたという都内の40代の女性は、友人の驚きに逆に驚いたという。
新型コロナウイルスは、子ども達の世界も一変させてしまった。世界最多の死者数を出した米国の一部の州では、日本と同様に多くの学校が休校に。しかし、女性の友人が住むロサンゼルスでは「パソコンを使って遠隔授業が行われている。パソコンは新型コロナウイルスの問題があるよりも前に、学校から生徒1人ずつに配布されていた」というから、その先進性はさすがIT大国だ。
翻って、日本はというと……。
「2月27日に政府が突然、全国一斉休校を言い出した時は、仕事も休まないといけないし、学校もいきなり終業式が中止になってお互いあたふたしていた。でも、春休み期間中に少しは準備を整えてくれていたと思っていたので、新学期も授業がない状況が続いて子どもの学力が心配」(千葉県のシングルマザー)。この女性によると、学校からは課題のプリント等が送られてくるというが、「何時に解くと決まっているわけではないので、子どもはだらだらしてしまい、生活リズムは乱れる一方だ」と悩む。
不利益被る子に申し訳なくないのか
日本の教育制度に詳しい予備校関係者は「日本の公立小中高校では元々、各国に比べてICT化が遅れていると言われていた。背景にあるのは、同じ場所に集まり、同じ授業を受ける〝平等主義〟にこだわる考え方だ」と指摘する。
「平等主義」は教育現場でよく聞かれる言葉だ。確かに国民が等しく教育を受ける権利は憲法で保証されている。しかし、「そもそも同じ場所に集まる事が難しいこの状況下で、従来のやり方にこだわっていては、不利益を被る子ども達に申し訳ない」(予備校関係者)のではないか。
「平等」にこだわる教育現場では、「パソコン等の端末を持っていない、自宅にネット環境がないという子どもがいるので、遠隔授業は出来ないと言われてきた」(都内の公立校教諭)という。文部科学省は2023年度までに小中学校の児童、生徒に1人1台、学習端末を配備する計画を予定していたが、これを今年度中に前倒しした。しかし、自治体の準備が整わず、いつ実現するかは不明だ。
それでは高校はどうか。文科省の学校教育法施行規則では、通信制高校等を除き、高校がオンライン授業で取得出来る単位の上限は決まっており、そもそも全ての授業をオンラインで行う事は想定されていない。さらに、リアルタイムでない配信用等の遠隔授業に教科書等の「著作物」を許可なく使う事も、著作権法に違反するとされてきた(4月末に法改正)。
私立や予備校は早い段階で遠隔授業
公立の小中高校が「平等」にこだわるあまり硬直化する一方で、私立学校や予備校等は早い段階で遠隔授業を導入している。森上教育研究所(東京)が4月上旬に行った調査では、休校期間中にICTを活用した授業を行うと答えた首都圏の私立高校は64%に上った。予備校も早い段階で、授業を動画で配信する等の対応を取っている。一部の大学でも、授業をネット配信する取り組みが始まった。
ただ、こうしたオンラインでの授業を単位として認めるかについては対応が分かれる。「あくまで休校中の限定的な対応であり、改めて授業を行って習熟度を調べる必要は感じている」と首都圏の私立高校関係者は語る。
確かに、オンライン授業をこれまでの対面式授業と同様のものとするには、リアルタイムで、かつ双方向で行う必要がある。授業を動画配信し、見た後に学習内容を問う課題を与えたところで、動画を本当に見ていたかは確認出来ず、課題を行う際も〝カンニング〟が容易に出来るのだ。端末にカメラ機能を設置し、実際の授業と同じように会話を交わしながら進めていかないと、子ども達が内容を理解出来ているかは把握出来ない。しかし、学校と同じ時間割を組んで1日中オンラインで授業を行うシステムは、ハードの面からもソフトの面からも整っていない。
都内の高校教諭は「今の子ども達はスマホの扱いには長けているが、パソコンとなると触った事のない子も多い。端末を配布したところで、すぐに授業が始められるわけではない」と語る。「教室に集められれば嫌でも集中する事を求められるが、家庭では他の事に気が行って集中させるのが難しい」として、学習環境が「平等」でない事も妨げになると話す。教師もこれまでのように毎日出勤する事が難しい中で、自宅からリモート授業を行い何かあった時に、誰がどう対応するか等、課題は多い。
さらに教師を悩ませるのが、休校が2月末〜新年度にかけて続いた事である。4月から新1年生を担当する事になっている都内の小学校教諭は「ほぼ顔を合わせた事のない児童の家に週1〜2回、電話をかけて、どんな生活を送っているか等、聞き取りを行っている」と言う。この教諭は「子ども達との関係づくりが出来ないまま5月になってしまった。小学校入学という環境が大きく変わる経験が先延ばしになり家庭での時間が増えた事で、学校が再開しても環境に馴染めない子が多くなるのでは」と危惧する。
休校期間が長くなれば、夏休みや冬休み期間をなくす等しても追い付くのは難しくなる。教育問題を担当する全国紙記者は「これを機に9月入学への移行が検討されているが、2012年に秋入学を検討しながら導入を見送った東大の例を挙げる根強い反対がある。しかし、この非常事態下で他に方法はないのではないか」と語る。「全てがうまくいく方法等ないし、日本人は目標が決まればそこへ向かって着実に動く。大きな変革であっても、決定すれば学校も家庭も準備を整える事が出来る」
そもそも、「平等」にこだわるのであれば、全てを家庭任せの現状は非常に危険だ。外出が難しい不自由な生活で、DVや虐待リスクは高まっていると言われている。給食に頼る貧困家庭の子どもの食生活も心配だ。「そうしたリスクを低減させるためにも、リアルタイムの双方向授業で生活リズムを整え、子どもの様子を動画で把握する事は非常に大切」(全国紙記者)である事は論を待たないが、このままだとオンライン授業の準備が整う前に学校が再開されそうである。
新型コロナウイルスの感染拡大で、全国各地の学校で休校が続いた。4月から新年度が始まるところに水を差された形だが、長引く休校で学習の遅れや生活の乱れも心配される。自宅勤務を余儀なくされる親にとっては、子どもの面倒に加えて「家庭学習」の支援も行わなければならず、大きな負担がのしかかる。こうした緊急事態にもかかわらず、なぜ日本では「オンライン授↘業(遠隔授業)」が進まないのだろうか。
「え? ずっと学校は休みなの? オンライン授業は? 子どもの勉強を、親がみるの? 信じられない!」
今年4月初め、米ロサンゼルスに住む友人とテレビ通話をしたという都内の40代の女性は、友人の驚きに逆に驚いたという。
新型コロナウイルスは、子ども達の世界も一変させてしまった。世界最多の死者数を出した米国の一部の州では、日本と同様に多くの学校が休校に。しかし、女性の友人が住むロサンゼルスでは「パソコンを使って遠隔授業が行われている。パソコンは新型コロナウイルスの問題があるよりも前に、学校から生徒1人ずつに配布されていた」というから、その先進性はさすがIT大国だ。
翻って、日本はというと……。
「2月27日に政府が突然、全国一斉休校を言い出した時は、仕事も休まないといけないし、学校もいきなり終業式が中止になってお互いあたふたしていた。でも、春休み期間中に少しは準備を整えてくれていたと思っていたので、新学期も授業がない状況が続いて子どもの学力が心配」(千葉県のシングルマザー)。この女性によると、学校からは課題のプリント等が送られてくるというが、「何時に解くと決まっているわけ↖ではないので、子どもはだらだらしてしまい、生活リズムは乱れる一方だ」と悩む。
不利益被る子に申し訳なくないのか
日本の教育制度に詳しい予備校関係者は「日本の公立小中高校では元々、各国に比べてICT化が遅れていると言われていた。背景にあるのは、同じ場所に集まり、同じ授業を受ける〝平等主義〟にこだわる考え方だ」と指摘する。
「平等主義」は教育現場でよく聞かれる言葉だ。確かに国民が等しく教育を受ける権利は憲法で保証されている。しかし、「そもそも同じ場所に集まる事が難しいこの状況下で、従来のやり方にこだわっていては、不利益を被る子ども達に申し訳ない」(予備校関係者)のではないか。
「平等」にこだわる教育現場では、「パソコン等の端末を持っていない、自宅にネット環境がないという子どもがいるので、遠隔授業は出来ないと言われてきた」(都内の公立校教諭)という。文部科学省は2023年度までに小中学校の児童、生徒に1人1台、学習端末を配備する計画を予定していたが、これを今年度中に前倒しした。しかし、自治体の準備が整わず、いつ実現するかは不明だ。
それでは高校はどうか。文科省の学校教育法施行規則では、通信制高校等を除き、高校がオンライン授業で取得出来る単位の上限は決まっており、そもそも全ての授業をオンラインで行う事は想定されていない。さらに、リアルタイムでない配信用等の遠隔授業に教科書等の「著作物」を許可なく使う事も、著作権法に違反するとされてきた(4月末に法改正)。
私立や予備校は早い段階で遠隔授業
公立の小中高校が「平等」にこだわるあまり硬直化する一方で、私立学校や予備校等は早い段階で遠隔授業を導入している。森上教育研究所(東京)が4月上旬に行った調査では、休校期間中にICTを活用した授業を行うと答えた首都圏の私立高校は64%に上った。予備校も早い段階で、授業を動画で配信する等の対応を取っている。一部の大学でも、授業をネット配信する取り組みが始まった。
ただ、こうしたオンラインでの授業を単位として認めるかについては対応が分かれる。「あくまで休校中の限定的な対応であり、改めて授業を行って習熟度を調べる必要は感じている」と首都圏の私立高校関係者は語る。
確かに、オンライン授業をこれまでの対面式授業と同様のものとするには、リアルタイムで、かつ双方向で行う必要がある。授業を動画配信し、見た後に学習内容を問う課題を与えたところで、動画を本当に見ていたかは確認出来ず、課題を行う際も〝カンニング〟が容易に出来るのだ。端末にカメラ機能を設置し、実際の授業と同じように会話を交わしながら進めていかないと、子ども達が内容を理解出来ているかは把握出来ない。しかし、学校と同じ時間割を組んで1日中オンラインで授業を行うシステムは、ハードの面からもソフトの面からも整っていない。
都内の高校教諭は「今の子ども達はスマホの扱いには長けているが、パソコンとなると触った事のない子も多い。端末を配布したところで、すぐに授業が始められるわけではない」と語る。「教室に集められれば嫌でも集中する事を求められるが、家庭では他の事に気が行って集中させるのが難しい」として、学習環境が「平等」でない事も妨げになると話す。教師もこれまでのように毎日出勤する事が難しい中で、自宅からリモート授業を行い何かあった時に、誰がどう対応するか等、課題は多い。
さらに教師を悩ませるのが、休校が2月末〜新年度にかけて続いた事である。4月から新1年生を担当する事になっている都内の小学校教諭は「ほぼ顔を合わせた事のない児童の家に週1〜2回、電話をかけて、どんな生活を送っているか等、聞き取りを行っている」と言う。この教諭は「子ども達との関係づくりが出来ないまま5月になってしまった。小学校入学という環境が大きく変わる経験が先延ばしになり家庭での時間が増えた事で、学校が再開しても環境に馴染めない子が多くなるのでは」と危惧する。
休校期間が長くなれば、夏休みや冬休み期間をなくす等しても追い付くのは難しくなる。教育問題を担当する全国紙記者は「これを機に9月入学への移行が検討されているが、2012年に秋入学を検討しながら導入を見送った東大の例を挙げる根強い反対がある。しかし、この非常事態下で他に方法はないのではないか」と語る。「全てがうまくいく方法等ないし、日本人は目標が決まればそこへ向かって着実に動く。大きな変革であっても、決定すれば学校も家庭も準備を整える事が出来る」
そもそも、「平等」にこだわるのであれば、全てを家庭任せの現状は非常に危険だ。外出が難しい不自由な生活で、DVや虐待リスクは高まっていると言われている。給食に頼る貧困家庭の子どもの食生活も心配だ。「そうしたリスクを低減させるためにも、リアルタイムの双方向授業で生活リズムを整え、子どもの様子を動画で把握する事は非常に大切」(全国紙記者)である事は論を待たないが、このままだとオンライン授業の準備が整う前に学校が再開されそうである。
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