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第124回 レムデシビル:効力の根拠なし

第124回 レムデシビル:効力の根拠なし

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)の重症化例に対するレムデシビルの使用が5月7日、申請からわずか3日という速さで厚生労働省(厚労省)により特例承認された。

 今回は、「副作用」には該当しないが、今日的な課題として重要なレムデシビルのCOVID-19に対する使用の妥当性を検討した薬のチェック速報版No1881)を要約して紹介する。

レムデシビルはエボラ感染症には無効

 レムデシビルは、代謝された活性体(ATPの類似物質)が、ウイルスRNAの複製の際に必要な天然ATPと競合することでウイルスRNAの複製を阻害し、in vitroで抗ウイルス活性が認められている。感染動物実験では、SARS-CoV-2やエボラウイルスを接種後、症状発現前の投与なら有効だが、症状発症後の投与による効果の証明はまだない。また、感染症の専門家の中にもレムデシビルを「エボラ治療薬」という人がいるが間違いだ。ランダム化比較試験(RCT)の結果、2種類のモノクローナル抗体よりも死亡率が2倍超高く(p<0.001)、無効であった。

詳細不明の情報で特例承認

 査読論文として公表されたレムデシビルのプラセボ対照RCTが4月29日Lancet誌に掲載されたが、その結果は無効であった。同日、米国NIHが別のプラセボ対照試験(NIAID試験)で有効であったと結論だけ掲載した。また同日、ギリアド社はレムデシビルの2群(5日使用と10日使用)を比較したSIMPLE試験(非遮蔽)で差がなかったとプレスリリースした。

 2日後の5月1日、米国規制当局FDAはギリアド
社に対してCOVID-19への緊急使用許可(EUA:emergency use authorization)を与えた。ただし、これは正規の承認ではない。

 ギリアド社は日本で5月4日に承認申請を行い、7日に厚労省が特例承認した。世界初である。未公表の米国の2つのRCTと観察報告のみを承認の根拠とし、査読済み論文を厚労省は無視した。

矛盾するデータ

 Lancet誌掲載のRCTでは、有意差はないものの、2段階以上症状が軽減した人は、レムデシビル群に多い傾向があったが、死亡に差はなかった。ところが、有害事象で試験を中断した人が多かった。特に、COVID-19の主要な症状である急性呼吸障害や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)による試験中断例が多い傾向を示した。これは、症状軽減例がレムデシビル群に多い傾向があることと、矛盾している。

 ウイルスの消失は、1週間目までほとんど同じだが、その後徐々にレムデシビル群でウイルス消失が遅くなり、特に生存例で4週間後にはプラセボ群に比較して約9%消失例が少なかった。このデータも、症状軽減と矛盾する。

 SIMPLE試験では、回復患者の割合は、5日使用群よりも10日使用群が少なかった(70%対59%、p=0.021)。効果のある薬剤なら、用量-反応関係がなければならないが、結果は逆であった。これもNIAID試験の結果と矛盾する。

結論

 現時点の情報では、レムデシビルが、COVID-19に対して「安全」で「症状改善」や「死亡減少」の効果がある、とは言えない。


参考文献
1) 薬のチェック、速報版No188
https://www.npojip.org/sokuho/200514.html

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