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ばらまき政策でここまで不人気な「アベノマスク」

ばらまき政策でここまで不人気な「アベノマスク」
小さくて使いづらい、話すとずれる、洗うと縮む……

新型コロナウイルスの感染を防ごうと、国民全員にマスクを配布しようとした安倍晋三首相肝いりの政策が不評だ。通称「アベノマスク」と揶揄され、予防効果が乏しいとされる布製マスクだった事に加え、一部から髪の毛やゴミのような物が混入していたため、配布を中止して回収騒ぎに発展している。

 緊急事態宣言の当初期限だった5月6日までにほとんどの世帯に配↘布されないばかりか、市中には布製マスクよりも使い勝手が良い不織布マスクが出回り始め、「もはやアベノマスクは不要だ」との声も出始めている。

 アベノマスク配布事業は、総額466億円をかけ、6000万世帯に2枚ずつの布製マスクを配るというもの。予備費と補正予算で費用を捻出しており、半分に当たる233億円は随意契約で、マスク製造も手掛ける「興和」(本社・名古屋市)と縫製技術に長ける「伊藤忠商事」(本社・東京都)、縫製業者の「マツオカコーポレーション」(本社・広島県福山市)の3社が受注した。興和が54億8000万円、伊藤忠商事が28億5000万円、マツオカコーポレーションは7億6000万円だという。

 枚数等は「開示すればマスクの単価が計算出来るようになり、企業活動に影響を与える」として厚労省は明らかにしていない。

企業側も思い付き政策の〝被害者〟

 こうした中、4月23日には、興和と伊藤忠商事が布製マスクにカビや髪の毛の混入等の不良品が見つかったとして、未配布分を回収し、検品作業を改めて行うと発表した。不良品は全世帯向けに配るもの以外にも妊婦向け等でも見つかっており、再度点検したところこうした不良品↖が確認されたという。

 興和は「この度の事態を真摯に受け止め、未配布分につきましては全量回収の上、再度検品し、生産協力工場における検品体制への指導強化を行うとともに、国内での全量検品を行います」、伊藤忠商事も「輸出前の外部業者による検品、日本に輸入後も社員数十名の立ち会いのもと、専門業者による検品と三重の全量検品体制を敷き強化を図っております」とそれぞれコメントを発表したものの、企業側は政府の思い付きに付き合わされた「被害者」という側面もある。

 アベノマスクを配ると安倍首相が最初に表明したのが、4月1日の新型コロナウイルス感染症対策本部での事だ。安倍首相は「布マスクは使い捨てマスクではなく、洗剤を使って洗う事で再利用可能で、急激に拡大するマスク需要に対応する上で極めて有効だ。来月にかけてさらに1億枚を確保するめどが立ったため、全国の世帯全てを対象に日本郵政のシステムを活用し、1住所あたり2枚配布し、国民の不安解消に資するよう速やかに取り組む」と挨拶し、世間の知るところとなった。

 アベノマスクを進言したのは、経済産業省出身で首相に近い官邸官僚だとされる。具体的には、今井尚哉・首相補佐官子飼いの佐伯耕三・首相秘書官と目されている。44歳の佐伯氏は、灘高、東大を経て経産省に入省し、若くして首相秘書官という要職に抜てきされたスーパーエリート。

 ただ、官邸詰めの記者からは「偉そうで相当プライドが高い。不機嫌だと全然取材に応じてくれない」という意見もある。ある省庁の関係者は「妊婦や高齢者施設に配るという話は以前からあって準備して進めてきたが、全戸に配るというのはいきなり出てきた話だ。内部でも詳細に検討された形跡はなく、官邸主導の思い付きの政策だ」と明かす。

 思い付きで発信された一方、スピードも求められたのがアベノマスクの特徴だ。その結果が不良品の発見による回収騒ぎといえる。伊藤忠商事は「政府は国内マスクメーカーに生産を要請したものの、必要とする数量に対して十分な量を賄う事ができず、マスクメーカー以外の企業にも生産要請を行い、その一環として当社にも強い要請があった」と背景事情を説明する文章を自社のホームページで掲載している。

 世界的なマスク争奪戦の中、マスク製造を行う子会社があるものの、普段はマスク製造の実績に乏しい伊藤忠商事が今回の騒動に関わっているのは、こうした事情があるためだ。アベノマスクを実現するため、「経産省の職員が各企業に要請に歩いている」「早く納入するようせかされた」という話もある。

 厚生労働省には、アベノマスクの配布状況を示すホームページがあるが、感染者が多い東京は4月17日から先行して配っているものの、残りの特定警戒都道府県は「5月11日の週から配布開始予定」となっており、進捗の遅さが際立つ。東京でも「配布中となっているが、未だに手元に届かない」という声も多い。

 アベノマスクが届いた人でも「小さくて使いづらい。話すとずれるし、洗うとどんどん縮む。要らないからどこかに寄付したい」という意見も聞かれる。

着用する動きに乏しい閣僚達

 政権の足元を支える閣僚の中にもアベノマスクを着用する動きは乏しい。河野太郎・防衛相は迷彩柄のマスク、西村康稔・経済再生担当相も青い無地のマスクで、加藤勝信・厚生労働相も無地のマスクを利用する。首相肝いりのアベノマスクを活用する閣僚はほとんどおらず、「閣内不一致」が際立つ。着用しているのは、言い出した張本人の安倍晋三首相のみだ。

 5月中の配布完了を目指すアベノマスク配布だが、ネットでは感謝の声も一部であるものの、「このお金を医療体制維持のために使った方がいい」「使いづらいのに加え、もはや市中に使い捨てマスクが出回り始めたので要らない」といった批判的な意見が目立つ。

 先行配布が始まっている東京都内でもアベノマスクを着用した市民を見かける事はほとんどない。住所がない人には配られないため、ホームレス向けに不要となったアベノマスクを集めるNPO法人も出てきたほどだ。大手マスコミの世論調査では、今春のマスク配布を評価するとしたのは、わずか26%だからその不人気さ、不要さが分かる。

 国民から集めた血税を使い、466億円もの大金を投入した「ばらまき」政策で、ここまで不人気なのも珍しい。立憲民主党の逢坂誠二・政調会長は4月24日、記者団に対し、「あれほど国民の前で長い間使える、不足に対応出来ると声高に言って、自らマスク回収に入る。場当たり的な政策のつけとしか思えない」と切り捨て、今後も追及する姿勢をみせる。

 今回の新型コロナウイルスへの対応のまずさが原因で、政権の支持率も伸び悩む。中でも、アベノマスクがその主要因の1つになっている事は間違いない。やめられるなら、いっその事やめてしまいたい——こうした考えが安倍首相の脳裏をかすめている事だろう。

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