新型コロナウイルス感染症が、世界の人々の健康、生活や仕事に甚大な影響を与えている。特に医療の分野で働く者にとっては、直接的、間接的な被害は計り知れない。
間接的な影響としては、感染リスクを恐れて“受診控え”をする人が増えており、収入が大幅に減少する医療機関が続出しているということだ。
「減っているのは初診の患者だけ」という意見もあるが、定期受診の患者は減らなくても長期処方を行うケースが増えれば結果的には減収につながる。
非常勤職員から寄せられる多数の相談
私は3月からコロナ関連の心の相談事業に関わっているが、そこにも医療機関に勤務していて、休院あるいは規模縮小のために突然、勤務日を削減されたという非常勤職員からの相談が数多く寄せられている。もちろん、職員にとっても感染リスクはあり、出勤を続けるのも不安ではあるのだが、休業補償もないまま「明日からしばらく来なくていいです」と申し渡されるのはもっと困る。
しかし、経営者としても好きこのんでそうしているわけではない。いや、経営者は人件費だけではなく、ビル開業の家賃や医療機器のローンなども抱え、もっと窮地に陥っているのかもしれない。
そして、直接的な被害は、もちろん医療従事者の感染である。既に中国、ヨーロッパ、そしてアメリカでは、多くの医師や看護師、放射線技師などが患者の治療を介して新型コロナウイルスに感染し、命を落とすケースも相次いでいる。PPE(個人防護具)を装着していても、感染のリスクはゼロにはできない。
また、眼科、耳鼻科、歯科など直接、感染疑いの患者を診ない科でも、後になって自分が診た患者が感染者だと判明し、医師らも感染するケースがある。
私も医療機関にいて感じるのは、まず事務職や看護助手、清掃担当者など、医療関連の有資格者以外が守られなければならない、ということだ。
百歩譲って、私達医師は日頃から感染の問題が常に頭にあり、ある程度のリスクも承知で診療に臨んでいるはずだ。
医師法は「医師の職にある者が診療行為を求められたときに、正当な理由が無い限りこれを拒んではならない」とする応召義務を定めている。これは東日本大震災などの災害の時も「危険が迫っていても医師には逃げる権利がないのか」と問題になった。応召義務に応じなかったからといって罰則があるわけではないが、基本的には多くの医師は「できるだけ診療を続けたい」と思っているだろう。
看護師、その他の有資格者も、個人差はあるとはいえ同様であると思う。
しかし、事務職や看護助手はその限りではない。例えば、医療事務の資格を取って病院に職を得て、保険点数を計算したり会計を担当したりしている人は、必ずしも「人の命を救う仕事がしたい」と思っているわけではない。
病室のリネンを取り替えたり食事の介助をしたりしている看護助手は、資格さえ必要としない仕事だ。志望動機としてやり甲斐や介護福祉士を取得するのに必要な実務経験を得るため、などを挙げる人もいるが、現実的にはなんと言っても生活のためであろう。
もちろん、医療現場で仕事をするからには、それなりの意識はあるはずとは言っても、有資格の医療職ほどの使命感はない。また、感染に関する知識もない。そういった価値観や知識は、就業の時に求められていないからである。
それでもこれまでの感染症であれば、直接、患者の血液などの体液に触れたり注射針の針刺し事故が起きたりする危険がない職種では、感染のリスクはそれほど高くなかった。受付や清掃担当者はそれぞれの持ち場で「唾液がかかった時などはすぐ洗って」「血液やし尿には素手で触れないように」といったオリエンテーションは受けるだろうから、それでまず事足りたのである。
各医療機関の感染対策の情報共有を
ところが、今回の新型コロナウイルスは感染力が桁外れに強い。
冒頭に述べた「ウエブ心の相談」にも、医療機関に勤めている非有資格者からは、「休業を命じられて経済苦に陥った」という相談がある一方で、「私も感染するのではと不安で仕方ない」という相談も寄せられているのである。
確かに、特に受付は来院者とファースト・コンタクトが行われる部門だ。クリニックでは現在、コロナ感染症疑いの熱発者は診察をせずに厚労省や保健所などの「帰国者・接触者相談センター」への相談を促しているところも少なくないが、それでも受付ではそれを来院者に説明し、相談窓口などをお伝えする、という業務が発生している。恐らく多くの病院では、それは受付のカウンター越しに対面して話す、というスタイルで行われているだろう。
私は自分が非常勤医師として診療をしている医療機関の上司と話し、受付のカウンターに小窓を開けた大きなアクリル板を設置してもらうようにした。来院者はいきなり設置されるアクリル板に違和感を覚えるかもしれないし、それでも受付を担当する事務職員の感染を完全には防げるとはいえないが、何もしないよりはよいだろう。
全国の医療機関の中には既にそういった措置をいろいろ講じているところもあるかもしれない。ぜひその情報を医師専用サイトなどで共有してもらいたいと思う。
そして、非有資格者の職員にも、というかその人達にこそ、新型コロナウイルスについての基本的な知識や正しい感染防御について、ぜひ医師達はレクチャーを行ってほしいと思う。
中には「マスクさえしていれば安全」と思っている人もいれば、逆に「既に感染したのでは」と必要以上に不安を抱えている人もいるのは、現場や先ほどの「心の相談」で確認済みだ。
もちろん医師や看護師、その他の医療従事者はそれ以上に高い感染リスクにさらされており、その対策が必要なのは言うまでもない。ただ、ぜひ「優先すべきは非有資格者」というのを忘れないようにしてもらいたい。それが私からのお願いである。
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