SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

株価暴落でGPIF「年金運用資産」に巨額損失

株価暴落でGPIF「年金運用資産」に巨額損失
運用益が株式市場の動向に左右される構造が仇に
4月1日付でGPIF理事長に就いた宮園雅敬氏(企業年金連合会前理事長)に早くも御難が

日本のみならず世界は新型コロナウイルスの蔓延によって、これまで経験した事がなく、終息時期も見通せない未知の危機領域に日々深くはまり込みつつある。

 米国では当初、2008年のリーマンショック後と比較する言説が目立ったが、当時の新規失業保険申請件数は66・5万人。現在は4月4日までの1週間で660万人を超える事態になっている。

 この危機は経済システムや金融から派生したのではなく、人々が感染を避けるため工場や事務所、店舗といった就業の場に出勤する事自体がままならなくなることから発生したものだ。経済活動が停止しかねないのに、いくら各国政府が「経済対策」を強化しようが相手がパンデミックである以上、まず感染を止めない限り効果は限られている。

 しかも日本の場合、健康面を別にして直接的なダメージは経済だけに留まらず、社会保障にも及びかねない。なぜなら厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を担当する独立行政法人の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、株式市場の暴落のために巨額の含み損を抱える結果になったからだ。

20兆〜25兆円もの損失の疑い

 運用資産168兆9897億円(19年末段階)を誇るGPIFのこの1〜3月期の運用実績は、6月末以降にならないと正確な数字が発表されないが、既に20兆円から25兆円もの損失を出しているのは疑いない。

 過去にもGPIFは、株安や為替変動のために多額の運用損を出している。15年7〜9月期に7兆8899億円、16年4〜6月期に5兆2342億円、18年9〜12月期に14兆8038億円といった具合だが、今回はそれらをはるかに上回る。

 首相の安倍晋三が自分の人気取り目的で株価高を演出しようと、基本ポートフォリオ(具体的な運用商品の組み合わせ比率)を大幅に変更したのは14年10月の事。現在の年金支給に対する国民の不安を高めかねない事態は全てここから出発している。

 当初運用にあたって国内株は12%であったが、25%までに倍化。外国株式も12%を25%に引き上げて計50%とした反面、国内債券は60%から35%に大幅に引き下げられ、外国債券は11%から15%と微増になった。更に、20年度からは国内債券を25%に引き下げる一方、外国債券を25%に引き上げた。

 この結果、GPIFの運用益は株式市場の動向に大きく左右されるようになり、市場も「官製相場」へと変質。国民が拠出した公的年金資産という性格上、「最小限のリスク」というそれまでの運用上の原則が壊され、リターン優先で株価高の演出用に使われるようになった。

 以降、15年を除きGPIFが何とか毎年収益を上げてこられたのは、格別に運用手腕が長けていたからではない。ポートフォリオの変更から19年11月末までを見ると、日経平均が41・9%上昇した事の結果であって、NYダウも61・3%という数字を記録している。 

 無論、国家予算の1・6倍もある運用資産を誇るGPIFが株式市場に参入し、おまけに安倍のお気に入りである日銀総裁の黒田東彦も「異次元の金融緩和」と称して、何の必要性あってか毎年6兆円も投じて「日経平均連動型ETF(指数連動型上場投資信託受益権)」を買い込み、株価吊り上げに懸命とあっては、むしろ平均株価が下がる方が考えにくかっただろう。

 だが、公的機関が日本最大の株主になるという、およそ他の先進国ではあり得ない「社会主義国家」並みの変質によって市場が歪められた結果、「コロナ大恐慌」によってその弊害が一挙に噴出した形だ。

 日経平均は3月19日に1万6358円という年初来の最安値を記録し、NYダウも史上初めて5日連続で1日の騰落幅が1000㌦を超えるという異常事態。両国とも、新型コロナウイルスの感染者や死者の激増が軽減される見込みはたっていない。

 週末となった4月3日の段階で日経平均株価は前日比1円47銭高の1万7820円19銭で終えたが、コロナ危機のために今後の株価続落の可能性は排除されず、現在の20兆〜25兆円とされるGPIFの運用損失もその水準で収まる保証はない。それどころか、例のない大損失が記録されてもおかしくないだろう。

 確かに、年金給付は現役世代の年金保険料と税金で賄われているため、こうした損失によって即影響を受けるものではない。

 だが、景気が「穏やかに回復している」等という安倍の大嘘に反し、3月9日に内閣府が発表した19年10〜12月期の国内総生産(GDP)は、速報値のマイナス6・3%から大幅に下方修正されて年率でマイナス7・1%の落ち込みとなった。無論、消費税の増税のためだが、今年1〜3月期、あるいはそれ以降GDPがどこまで落ち込むのか想像するだけで恐ろしくなる。

GPIF資産取り崩しの事態も

 しかも、既に「外出自粛」によってホテルや観光、飲食、エンターテインメントといった各業界はゴールデンウィーク前後に売り上げ激減に見舞われ、中国からの部品輸入が途絶えている中小企業をはじめとした製造業も青息吐息だ。

 このまま企業倒産や給料削減が相次げば、財源である年金保険料と税金が必要額を下回って確保困難になる。そうなると、GPIFの資産が取り崩される事態が目の前だ。

 当然、換金のため保有株式の売却が避けられないが、もし売却が予想される5兆円規模となったら、株式市場に1兆2500億円もの売物が出る計算だ。もう、日経平均1万6000円台どころの話ではなくなる。

 その場合、既に新型コロナウイルス騒ぎのために3兆円前後もの含み損失を出しているとされる黒田日銀はどうするのか。3月から1回のETFの買い入れを700億円から1000億に増額して株価を何とか維持したいようだが、その一方でGPIFが「売り」に走るという実に奇怪至極な光景が出現しかねない。

 全ては安倍が自分の政治的打算のためだけに、国民が老後に備えて貯めてきた年金の基金に手を突っ込んだ結果だ。しかも、一向に新型コロナウイルスによる危機の終息時期が見えてこない現状では、GPIFが取り崩した時点で、果たして目減りした資産がいくら残っているのか予測するのは困難だ。

 安倍は16年2月15日の衆議院予算委員会で「年金積立金を運用しているわけで、想定の利益が出ないということになれば当然、年金の支払いに影響してくる」等と他人事のように答弁しているが、年金の運用に新たに必要以上のリスクを課した責任者が吐く言葉なのか。このままだと国民は、生命の危機にさらされながら経済の崩壊状況に直面させられるだけではなく、将来の老後の生活設計まで絶望に突き落とされかねない。

 これも「コロナ対策」として「お肉券」だの「お魚券」だの珍案が浮かんでは消えた挙句、「全世帯布マスク2枚配布」といった愚策に落ち着いた「戦後最長政権」に高支持率を与えてきた国民の報いだろう。だが、あまりに大き過ぎる代償ではないのか。(敬称略)

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top