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未来の会

第137回 政治も経済も暮らしもコロナ次第の憂鬱

第137回 政治も経済も暮らしもコロナ次第の憂鬱

 中国・武漢に端を発した新型コロナウイルスは瞬く間に拡散し、2020年の世界の在りようを変え始めている。致死率こそ高くはないが、決定的な対処法が見つからない新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴う経済・社会の混乱はボーダーレス時代の危機管理の難しさを各所で浮き彫りにしている。

 東京五輪・パラリンピック開催の有無を含め、日本の動向は世界が注視しており、今後の政局の行方にも大きく影響しそうだ。

消えた日中関係改善のシンボル

 「日中双方が最大の課題である新型コロナウイルス感染症の拡大防止を最優先する必要がある。また、習近平・国家主席の国賓訪日を十分な成果が上がるものとするためには、両者でしっかり準備を行う必要があるとの認識で一致した」

 3月5日夕、菅義偉・官房長官は日中両国政府が4月上旬を念頭に準備を進めてきた中国の習主席の日本訪問の延期を発表した。東京五輪・パラリンピック終了後の秋以降で再調整するという。

 第2次政権発足後の安倍晋三首相にとって、対中外交は取り扱いの難しい問題となってきた。習主席の下で進められた覇権主義的な対外政策が安倍首相の日米基軸路線と相容れない事が根底にあるが、安倍首相や支持勢力の歴史認識に対する中国の反発等、思想的な問題も絡んで、問題が複雑化していたからだ。

 転機は、安全保障や貿易を巡る米中対立の激化だった。中国が日本との関係を改善し、米中衝突の緩衝材に利用しようと軟化路線に転じた事で、両国で関係改善の動きが加速化した。習主席の国賓訪日は、そのシンボル的なイベントになるはずだった。

 外交関係者によると、中国側が習主席の国賓訪日にかける熱意はかつてないほど高かったという。湖北省での新型コロナウイルスの発生に際し、初期対応の失態がつまびらかになり、習政権への批判がかつてないほど強まった事が背景にあるようだ。揺らいだ政権の信頼を回復するためにも国賓としての初訪日に期待するところが大きかったという。

 日中関係は、古くから「一衣帯水」の言葉で表現されてきた。近世以降は、ぎくしゃくした時期もあったが、狭い海域を隔てた隣国同士で、その交流は1300年余に及ぶ。両国政府が気まずい関係にあっても、経済や文化の交流、人の往来は盛んで、専門家の間では新型コロナウイルスの日本への飛び火は「時間の問題」とみられていた。

 問題は中国政府の初期対応の失敗を、日本政府まで繰り返してしまった事にある。医療に詳しい自民党中堅が悔いるように語る。

 「危機管理が甘かった。中国・武漢からチャーター便で帰国した全員を感染症対策の基本通り、2週間隔離しなかった事。中国での感染拡大が明らかになった後にも多くの中国人観光客の来日を認めてしまった事。最悪なのは、大型クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』の入港を認め、検疫名目で14日間留め置き、膨大な数の感染者を船内で発生させた事だ。これで、世界中から不信感を抱かれてしまった」

 強権的な対応がまかり通る中国と、人権が尊重される日本との比較はアンフェアなのだが、日本政府の対応が手ぬるい上、後手に回ったのは否めない。

 殊に、クルーズ船の留め置きは海外メディアから「日本は一番やってはいけない事をした」と手厳しく指弾された。

 クルーズ船に乗り込んだ日本の医療関係者からも「隔離が出来ていない」等と、杜撰な体制への批判が相次ぎ、日本政府の初期対応の失敗は明白となっている。

 「今そこにある危機」となった新型コロナウイルスへの対応のまずさは、国民の不信感を増大させ、内閣支持率の急降下を招いた。

 危機感を抱いた安倍首相は全ての小・中・高校を休校させる異例の要請に踏み切り、新型コロナウイルス克服の決意を示したが、これが新たな混乱をもたらした。

 説明不足を指摘された安倍首相は2月末に臨時の記者会見まで開いたが、これも「何ら新しい事がない」「やる意味あるのか」等とネット上でたたかれた。特に激しかったのがツイッターで、会見時間に合わせ、「#安倍やめろ」のハッシュタグに批判の声が噴き出し、ツイッターのトレンド入りした。ツイッター上で非常に高い関心が持たれたのだ。

地下でうごめく〝コロナ政局〟

 親中派の自民党若手が興奮気味に語る。

 「『#安倍やめろ』は2種類あった。1つは、従来からの左派勢力。もう1つが問題で、これは保守勢力からのものだった。全ての中国人の入国を拒否するべきだとの主張なんだ。理不尽で馬鹿げているのだが、習主席の国賓訪日を喜ばない人達が自民党内にいるのは確かだ。中国悪者論を喧伝したいのだろうが、愚かだ。今こそ、日中が手を携えて、危機を克服し、新たな連帯を生み出す好機なのに。恥を知れと言いたい」

 「中国悪者論」は米国からも飛び出した。FOXテレビの司会者が番組の中で中国への謝罪を求めたのだ。

 中国政府が「中国も被害者だ」と反発したのは言うまでもない。FOXテレビの司会者の発言は根拠の乏しいものだが、新型コロナウイルスに関し、世界が漠然と抱いている東アジア地域への不信感の現れでもある。

 感染者が東アジア地域に集中しているのは自明だ。その東アジア地域の日本では、東京五輪・パラリンピックの開催を間近に控えている。「戦争以外に中止はない」との近代五輪の考え方から、大会の延期・中止の可能性は低いとされるが、もし中止となれば日本国内だけで経済的損失は10数兆円に上るとの試算もある。

 予定通りの開催にこぎ着けたとしても、大会関係者や見物客から感染者が相次ぐようなら、日本の国際的な信用は失墜する。

 自民党長老が意味深長な物言いで語った。

 「ウイルスは目に見えないから、東日本大震災の時のような切迫感はないが、あの時と同じ国家的な危機なんだ。政府のやり方に問題なしとは言わないが、今、安倍首相がなすべきは1つ。ウイルスを封じ込め、東京五輪・パラリンピックを成功させる事だ。それが出来れば、安倍は最高の首相として歴史に刻まれ、日本は賞賛を浴びる。もちろん、その逆もあるがね……」

  〝コロナ政局〟が動き出しそうだ。

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