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未来の会

ドラッグストアの「越境」に調剤専業は戦々恐々

ドラッグストアの「越境」に調剤専業は戦々恐々
巨大再編のドラッグ大手の台頭に危機感は募れど……


病院の帰り道に薬を調剤薬局で受け取る。今では日常に溶け込んだその調剤業界をリードするのが専業調剤薬局チェーン大手だ。医薬分業の流れに乗り、2000年代以降、ずっと成長し続けてきた。

 しかし今、調剤専業大手の成長が曲がり角を迎え、一方で隣接するドラッグストア(DS)業界が調剤で台頭してきている。新旧2大勢力のバトルが勃発しているのだ。

 医師の処方に基づき薬剤師が処方薬を調剤し患者に渡すのが調剤薬局。一方、DSは同じ薬でも医師の処方がいらない風邪薬や胃腸薬等いわゆる市販薬を主に扱ってきた。もちろん、化粧品や日用雑貨、近年は生鮮を含めた食品の比重を増やし、多品種を扱うのもDS業界の特色。

DSの巨大統合は脅威

 このすみ分けが今崩れかけている。DS大手が調剤への「越境」を強めているのだ。

 毎日使う食品を安売りしコンビニやスーパーから客を奪い、その客に高粗利の市販薬や化粧品を販売し成長してきたのがDS。

 次に標的にされたのが調剤薬局だ。4割近い調剤の高粗利率は市販薬の医薬品、化粧品の両部門に匹敵する。DSにとって実に魅力的なわけだ。

 その中でも調剤に熱心で先頭を走るのがスギホールディングス(以下HD)とウエルシアHD。

 調剤で見ると、スギの売上910億円はDS2位。売上構成比19%、調剤併設店舗比率7割はDS首位だ。ウエルシアは取り扱い店舗数1284店、売上1298億円でともにDSトップ。調剤併設比率7割弱、売上構成比17%もDSで2位を誇る。

 調剤専業も含めた調剤売上順位はウエルシアがアインHD2450億円、日本調剤2086億円、クオールHD1341億円に次ぐ総合4位に既に食い込み、スギも調剤専業4位、総合5位の総合メディカルHD1063億円の次を狙う位置に付ける(ここまで前期実績)。

 今期も第3四半期まででウエルシアの売上が1140億円。通期では1500億円超過の勢いだ。専業大手3位クオールを抜く可能性有りだ。スギも同774億円に達し、通期で1000億円の大台乗せとなり専業4位総合メディカルに肉薄する。

 ウエルシアは今期9カ月で既に100店以上も調剤店舗を増やした。DS大手は新規出店力が強い上、既存店への併設が進められる。これは後述するように出店を増やすのに昨今苦しむ調剤専業大手にはない、DSの調剤事業の強みだ。

 さらに、調剤専業大手が内心真っ青になる大事件が勃発した。マツモトキヨシHD(マツキヨ)とココカラファイン(ココカラ)の合体だ。昨年の協議入り合意に続き、今年1月末には21年10月に経営統合すると発表した。

 現在首位のツルハHD(前期売上7824億円、店舗数2082)を凌駕する、売上約1兆円、店舗数約3000の巨大DSが登場する。

 この巨大統合は調剤の視点でみると、調剤取扱店舗数約600(両社合計、19年9月末現在)、売上1000億円強(同、前期実績)の調剤大国の出現を意味する。前期合計売上はスギを上回る。

 統合によるパワーアップが調剤部門に及ぶのは確実。

 しかも「まだDS大手同士の再編はあり得る」(DS大手首脳)となれば、隣接する調剤専業大手にとって脅威以外の何物でもないはずだ。

 一方、調剤専業の変調は顕著だ。象徴的事件は専業首位のアインが3月4日に発表した業績下方修正だ。

 営業利益は、従来予想から22億円下がり165億円に低下し、前期比でもわずか3%弱にとどまる。

 柱の調剤薬局部門は売上、利益とも減額だが、前期比ではまだそれぞれ約8%、16%増加する見通し。しかし、四半期ごとの売上の対前年同期比は第1四半期(1Q)13%増、2Q11%増、3Q5%増、4Q見込み2%増と伸びは低下し続ける。

専業に出店出来ぬ苦悩

 出店数は3Q末累計で14店、通期も20店(前期は134点)止まりの見通し。期初計画100店からの未達ぶりは尋常ではない。特にM&A(企業の合併・買収)は予定の75がわずか6になる有様。閉店は一方で63。前々期73、前期54に続く大量閉店となるため、期末店舗は1089へ1年間で43店減る見込み。

 極論すれば、M&Aも含めた新店の増加しか調剤専業の成長エンジンはない。今期は当てが外れた。これが一過性ならいいが、そうではないだろう。

 アインも言う通り「M&Aの案件数はある」が小型のものが多く採算が合わない。M&A不発の原因だ。

 18年度の調剤報酬の改定を受けM&A基準を厳格化したが、これでも採算面では合わない案件が増えている。競合激化や国の政策による継続的な調剤報酬の引き下げ等もあって、将来の調剤薬局の採算性がさらに悪化する見通しが強まっているからだ。昔のように安易にM&Aとはいかないのだ。こういう構造的要因が背景にあるとすれば、過去のアインの急成長をもたらした大量出店路線はもはや持続困難だ。

 3年間で190店の大量閉店も環境変化の凄まじさを物語る。過去のM&Aで得た店もそこには多く含まれるもよう。買収当時には想像出来ないほど採算悪化が早まっている。国の薬剤報酬カットの方向性を考えれば、採算低下圧力は長く続き、大量閉店は打ち止めと会社がいくら言っても懸念は払拭出来ない。

 トップ企業がこの有様。日本調剤、以下も今期の利益の戻りは皆弱い。

 柱の調剤薬局の苦境を前提に、専業大手各社は様々な動きに出ている。

 アインは2月に病院等で全国400以上の売店運営をするシダックスの子会社の買収を決めた。クオールは昨年8月に藤永製薬を傘下に収め医薬品製造に参入した。

 2月には総合メディカルが非公開会社化する決断を下し、ライバル各社を驚かせた。経営陣が投資ファンドの力を借りて株式公開買い付け(TOB)を行う。

 他の調剤専業ライバルが調剤以外の事業分野への参入や拡大に走るのと一見違う動きだが、柱の調剤事業の土台が揺らぎつつある事への危機感とその対処という点では共通すると見ていいだろう。

 問題はこれが本質的な解決策になり得るかだ。残念ながら答えはノーである。

 買収案件は全て小さい。藤永製薬は年商17億円、会社が目指す医薬品製造で300億円には程遠い。後発薬の製造事業の買収・参入で一定の規模拡大を果たしている日本調剤の「二番煎じ」「周回遅れ」という辛口の声が業界には強い。

 その先輩格の日本調剤も昨年は揺れた。創業者のワンマン社長がインサイダーを起こし急遽退場、息子が跡を継いだが、その経営手腕は未知数というところだ。

 調剤専業大手がかつての輝きを取り戻せるのか。DSの台頭がすさまじく早い事を考えれば、専業大手にとって競争優位を取り返すのに残された時間はそうないと覚悟した方がいい。

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