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未来の会

「AIによる問診」は業務効率化に貢献

「AIによる問診」は業務効率化に貢献
「スタッフの働き方改革」と「医療の質」の二兎を追える

かつてのITブームに続き、世の中はAI(人工知能)ブームに沸いている。医療分野も含めて、多くの生活インフラやサービスが、AIによって世界規模で革新されていく事が期待されている。一昔前、AIと言えば、技術の特性からも理解し難しい部分が多かったが、今や患者サービスやデスクトップにまで入り込んでいる。

 デスクトップAIの代表と言えば、AI問診システムだろう。例えば、株式会社(東京都中央区)が開発したシステムは、大手の公立病院を含む全国150以上の病院で、導入あるいは導入準備中だとされる。その実力はいかほどのものだろうか。

疑わしい診断名を電子カルテに記載

 「Ubie」は、タブレット端末を介して患者が問診表を入力すると、AIが推論した疑わしい診断名を電子カルテに記載までしてくれるというシステム。

 同社は、システムエンジニアと医師によって、2017年に創業されたベンチャーである。東大大学院で医師の思考シミュレーションを研究していた久保恒太氏は、高校の同級生で東大医学部に在籍していた阿部吉倫氏に相談を持ち掛けた。阿部氏は、これを機にデータサイエンスにのめり込んだ。医師になって臨床研修中、事務作業に時間を取られ、患者に向き合う時間が十分でないと感じた事も大きな原動力にとなったとされる。Ubie疾患予測エンジン及び質問選定アルゴリズムを開発し、共同代表者として同社を起業した。

 このシステムを導入した医療機関では、予約のない初診患者が来院すると、通常の紙の問診票の代わりに、Ubieを搭載した端末を手渡される。患者は、端末の設定に沿った形で、年齢や症状の有無をチェックしていく。

 例えば、「頭が痛い」を選択すると、痛みの程度や表れ方へと進み、AIが病名を推測しながら病状を絞り込んでいき、用意した15〜20の質問を次々に表示していく。解答は選択式で画面をタップするが、「はい」「いいえ」に加えて、「わからない」も選択出来る。何を選んだかによって次の質問が変わる「対話形式」になっている。文字入力には、金融機関の現金自動預け払い機(ATM)に採用されている50音表が表示されるため、キーボードにみのない人でも入力しやすい。1人では入力が難しい高齢者もいるが、そうした場合は、大抵家族らが付き添っているので、問題なく使えるという。

 解答にかかる時間は3分から10分程度。全ての質問に回答すると、問診は終了し、暗号化された通信によりUbie社に送られる。これをAIが文章化して、そのまま電子カルテの情報として閲覧出来るようになる。

 導入した病院では、入力に際して特段バリアは生じておらず、概ね好評を得ているという。紙の問診票を手書きで記入するのに比べて、患者の手間もむしろ軽減される。対面の質問よりも、本音を訴えやすいという利点もある。待合の時間を含めて、院内の滞在時間は大幅に短縮されるという。

 一方、病院側は、医師を含むスタッフの事務作業が省力化され、効率化がもたらされるというメリットは大きい。従来の紙の問診票であれば、例えば、スキャナーで取り込んだ後、医師や補助者が文章化して電子カルテに掲載する等している病院が多かった。Ubieであれば、カルテに適した文章で自動的に入力されるので、手作業は不要になる。

タスク・シフト効果で本来の医療行為に専念

 予約のない初診患者は、午前中に集中しがちだ。問診のために、待合室に聞き取りをする看護師を配置している病院もある。例えばある総合病院では、Ubie導入により、待合室に3人配置していた看護師を2人に減らす事が出来、いわゆるタスク・シフト(業務移管)によって、本来の医療行為に専念出来る時間が増えるといった効果が得られている。また、待合室の看護師は、再診患者や緊急性のある初診患者の対応に力を注ぐ事が出来る。

 診察に際しては、医師が電子カルテで問診内容を読み込み、候補として挙げられた病名を前提にしながら、診察を進めていく。情報量が多いため、身体の診察等患者と向き合う時間に余裕が出てくる。診察しながら電子カルテを修正し、追記していく。Ubieには、「お薬手帳」をスキャンすると、使用中の薬を電子カルテに取り込んでくれる機能もある。このシステムに登録されている質問は約3500種類で、患者の訴える自然な主訴の98%を網羅する汎用性の高さを実現している。これらは、主として国内外のレジストリやシステマティックレビューに関する約5万本の文献をベースとして設定されたものだという。

 気になる導入費用だが、5台で毎月約8万円のライセンス費が必要であるという。運用のために、端末を渡したり操作方法を伝えたりする職員を1人常駐させていたとしても、省力化がもたらすメリットを考え合わせれば、十分コストに見合ったものになるだろう。

 問診システムでは、株式会社(東京都新宿区)が、問診票作成サービス「メルプWEB問診」を開発し、運営しており、200余りの診療所に採用されているという。これは、従来型のエキスパートシステムによるサービスで、人工知能が自動的に質問を選ぶのではなく、医師の知見によって予め決められたルールに従って必要な質問を展開していく仕組みになっている。個々の医師は自由に問診内容をカスタマイズする事が出来る。AIの判定ルールを自分で決められる点が、ユニークな特長となっている。

 AIによる早期インフルエンザの簡便な診断法を開発中のベンチャーもある。従来の迅速診断キットは、発症から24時間以上経たないと十分な精度が得られず、偽陰性となると感染が拡大するリスクが生じる。2017年に創業したアイリス株式会社(東京都千代田区)が着目したのは、インフルエンザウイルスへの感染で咽頭に発生する濾胞で、これを視診で見分ける臨床医の診断技術をAI画像解析と組み合わせた診断機器を開発中である。

 医療分野におけるAIは主として画像診断で先行していたが、どんどんとデスクトップに入り込む日もすぐそこまで来ている。更なる普及には、運用先のフィードバックに基づく、一層の精度向上が鍵となるだろう。

 高齢者は情報端末を使いこなせないといった先入観があると、そこから先は進めない。しかし情報端末は高齢者を含む全ての人に、バリアフリーな情報と利便性をもたらしている。スタッフの働き方改革と医療の質といった二兎を追う。病院も意識改革が求められている。

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