浜本 隆二(はまもと・りゅうじ)1970年愛知県生まれ。2000年東大医科学研究所リサーチアソシエイト、助手を経て、2006年ケンブリッジ大学腫瘍学部でHonorary Visiting Fellow。2007年東大医科学研究所助教、2012年シカゴ大学医学部准教授。2016年国立がん研究センター研究所分野長。同年、戦略的創造研究推進事業CREST研究代表。2017年、理化学研究所革新知能統合研究センター・チームリーダー。
2018年5月に発足した一般社団法人日本メディカルAI学会(JMAI)の活動が活発化している。先ごろ開催された学術集会には1100人を超える来場者があった。医療関係者及び企業の医療AIに対する関心は高まっている。医療AIの社会実装に向け、どのような点に注意すべきだろうか。同学会代表理事の浜本隆二氏に聞く。
——今年初めに開催された「第2回日本メディカルAI学会学術集会」は盛況でした。
浜本 昨年の第1回の時も多くの来場者に驚きましたが、今年はそれ以上でした。新型コロナウイルスのニュースが増え始めた時期でしたが、1100人を超える来場者がありました。医療関係者は6割で、4割がIT系など企業の方々です。メディカルAIに対する関心と期待の高さを肌で感じています。企業にとっては、今後のビジネスチャンスという意識が強いのでしょう。
——JMAIを設立した背景と狙いは?
浜本 2018年、医療AIに注目する仲間とともに学会を立ち上げました。その根底には、人々により良い医療を届けたいという思いがあります。AIのポテンシャルに期待しつつも、解決すべき様々な課題があると考えたからです。
——具体的に、どのような課題がありますか。
浜本 まず、法規制を含めたルールづくりを進める必要があります。例えば、AIを活用する際の個人情報について。行政と医療のコミュニケーションが不十分な点もあり、機微に触れる医療データの扱い方についての明確な指針が整っていません。改正個人情報保護法はデータ活用の促進を目指していますが、医療AIの研究者にとっては個人情報の扱い方が必ずしも明確ではない。これが研究の進展を阻害する面もあります。法案の検討プロセスに積極的に参加するなど、医療実務者が要望や意見を行政や社会に対してもっと発信する必要があります。一方で、現場レベルの課題、足元にある多くの問題を取り除く必要があります。例えば、日々の診療を阻害せずに、品質の高いデータを集めるにはどうすべきか。AIで活用するデータ収集のために、医療現場が混乱したのでは本末転倒です。あるいは、集めたデータをどのように研究機関に届けるのか、誰がデータを構造化し、AIを活用出来るような状態にするのか。こうした課題を1つ1つ克服しなければなりません。
——医療に限らず、AIが「魔法の杖」のように語られる風潮もあります。
浜本 AIには夢がありますが、その夢が独り歩きしている感があります。「AIで何でも出来る」といった雰囲気は警戒しなければなりません。例えば、「AIで治る」といわんばかりの怪しげな療法が患者を惑わせる可能性もあるでしょう。日本で地に足をつけた医療AIを推進するためには、社会との適切なコミュニケーションとともに、実務レベルでの泥臭い取り組みが求められます。
——JMAIの活動はどのようなものですか。
浜本 いくつかの柱があります。まず、個人情報を含むデータの取り扱いに関するガイドラン策定です。例えば、内視鏡画像や皮膚腫瘍の写真、ゲノム情報など多様な形式のデータを、それぞれどのように扱うべきか。同じ皮膚腫瘍の写真でも、顔とそれ以外の部分では求められる慎重さの度合いが異なります。この種のことは、実際にやってみないと分からないところが多々あります。法律家に任せればいいという問題ではなく、医療実務者が積極的に関与すべきでしょう。JMAIは近く、データ取り扱いのガイドラインをまとめて公表する予定です。
認定資格を設けて教育にも注力
——他の研究機関などもガイドラインづくりを進めています。いずれは、日本標準のガイドラインができるのでしょうか。
浜本 率直にいって、難しいと思います。そもそも、医療機関や研究機関によって、データのとり方がかなり異なっているのが現状です。例えば、病理検査における検体の固定方法や染色時間などは統一されておらず、複数の作法があります。電子カルテについても、ベンダーによってデータのとり方が違います。統一基準のようなものではなく、各組織がデータを扱う際のガイドラインを策定するのが望ましいと思います。
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