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未来の会

100年の伝統を踏まえた新時代への挑戦  ~高度な医療を提供し、次世代の医療を創造する~

100年の伝統を踏まえた新時代への挑戦  ~高度な医療を提供し、次世代の医療を創造する~
北川 雄光(きたがわ・ゆうこう)1960年東京都生まれ。86年慶應義塾大学医学部卒業。同年同大学病院研修医(外科)。93年カナダ・ブリティッシュコロンビア大学留学(〜96年)。96年川崎市立川崎病院外科副医長。97年慶大医学部外科学助手。05年同大専任講師。07年同大教授。09年慶大病院腫瘍センター長。11年同病院副病院長。17年同病院病院長、慶應義塾理事。18年国立がん研究センター理事(がん対策)兼任。第120回日本外科学会会頭、日本消化器外科学会理事長、日本内視鏡外科学会理事、日本食道学会理事等。

慶應義塾大学病院は今年、開院100年を迎える。2年前には、神宮外苑と新宿御苑に連なる「慶應の杜」をイメージした明るい新病院棟がオープンした。この病院では、国がリードするAI(人工知能)ホスピタル計画のプロジェクトが進行し、ゲノム医療でも最先端の研究が進められている。病院長の北川雄光氏に、新しい医療を開発する事、そのための人材を育成する事の重要性等について話を聞いた。


——病院長になられて3年ほどですが、病院の運営方針について教えてください。

北川 当院の使命は、標準治療を安全にそれも高いレベルで提供する事はもちろんですが、大学病院として、新たな医学研究成果に立脚して、次の時代の医療を創出する事です。また、新しい医学・医療を創り出す事の出来る人材を育成するという使命も重要です。

——歴史ある名門病院ならではの大変さは?

北川 医学部は2017年が開設100年でしたが、大学病院は今年が開院100年です。慶應義塾の創立者である福澤諭吉の残した、「社会の先導者たれ」という言葉があります。福澤諭吉は、新しい概念を日本の社会に持ち込んで世の中を変えようとした人ですから、私は「これまでの伝統を変える事こそ慶應の伝統である」と認識しています。何かを守るだけでなく、大きく変える事に躊躇しないという伝統は、しっかり受け継いでいきたいと思っています。

——2018年に新病院棟が完成しました。

北川 私が病院長になって翌年にオープンしました。医学部100年の記念事業の一環として、医学部だけでなく慶應義塾社中の多くの皆様から、多大なご支援をいただいて完成したものです。大きな特長が、クラスター診療と呼んでいますが、関連する診療科が縦糸と横糸のように連携して診療しやすい形になっている事です。例えば、外来は診療科ごとではなく、「1A」「2B」といったブロックに分けられていて、そこをある時はある診療科が使い、ある時は複数の診療科が合同で使います。エリアを固定せず、共用するという方針です。病棟も大まかなエリア分けはしていますが、原則としてどこにどんな疾患の患者さんが入院しても、適切に診療出来るような体制を取っています。セクショナリズムを排して、人も場所も共有し、連携する事を目指しています。

「杜」をイメージした診療空間

——病棟の構造も新鮮ですね。

北川 スタッフエリアが中央にまとまり、その周囲に病棟がある形なので、複数の病棟のスタッフが連携して仕事をしやすいのが特長です。スタッフエリアには、学生が勉強したり、スタッフがくつろいだり出来るスペースも取ってあります。慶應義塾には医学部以外に看護医療学部や薬学部といった医療系学部もあるので、これらの学部の学生も実習に来ています。医師、看護師、薬剤師、その他の医療職が、育成段階から交流出来る場を作る事も重視しました。また、手術室や血管造影室といった高度急性期病院の心臓部も、一層充実しました。手術室は現在25室が稼働していて、28室までは増室する事が可能です。手術室と内視鏡センターがワンフロアで隣接し、従来から低侵襲治療の開発・普及を先導してきた病院として、今後もそうした機能は一層強化して参ります。

——内装の美しさも目を引きます。

北川 当院は神宮外苑と新宿御苑に囲まれた都内でも圧倒的に緑の多いエリアに位置しています。そこで、「慶應の杜」というコンセプトで内装を統一しました。森林、樹木のイメージをふんだんに取り入れた病院にしました。各フロアの壁も森をイメージしていて、植物や鳥のモチーフが使われています。外来エリアの木漏れ日のような間接照明も好評です。森の木々に包まれてリラックス出来る環境作りを目指しました。

——あまり高い建物は建てられないそうですね。

北川 景観条例があるので、10階建てになっています。そのためフロアを広く取っているので、ワンフロアに4看護単位が入っています。縦に高いより横に広い方が、スタッフが連携しやすいし、医療安全上もメリットがあると感じています。

AI活用でゆとりを持ち患者と接する時間を創出

——AIホスピタル構想に力を入れていますが、具体的にどのような事をしているのですか。

北川 慶應義塾大学全体として以前からAIの医療への応用に着手していました。2017年に慶應メディカルAIセンターを立ち上げ、理工学部や環境情報学部等、関連学部の方々にも参画していただいて進めてきました。その体制があった上に、各診療科でも企業と連携してそれぞれの取り組みを開始していました。そうした背景もあって、2018年に内閣府からAIホスピタルモデル病院の募集があった時に、全国で4つのモデル病院の1つに選んでいただけたのだと思っています。医療従事者の負担を軽減し、医療者がゆとりをもって患者さんと接する本当の医療のための時間を生みだそうというのが基本コンセプトです。医療安全、医療の質を上げながら、医療者の負担を減らし、患者さんへの直接的なサービスを増やしていく事を目指しています。例えば、医師と患者さんの会話を自然言語処理によって、電子カルテに自動入力していくシステムを、モデル病院といくつかの企業と一緒になって開発しています。

——病院独自にやっている事もありますか。

北川 新病院棟はフロアが広いので、薬剤の搬送も、患者さんの移動も、動線が長くなってしまいます。そこで、薬を自動で搬送するロボットや、ご高齢の患者さんを自動で適切な場所に送り届ける電動車椅子を試験的に運用しています。将来的には、自動的にエレベーターにも乗れて、病院内の適切な場所に安全に患者さんをお連れ出来るものを目指します。ロボットに関しては、例えば放射線管理区域等、なるべく人が入らない方が良いエリアで使っていこうという試みもあります。

——いろいろな開発が進められているのですね。

北川 アバター(分身)を使った遠隔診療の試みもあります。医療者が遠隔操作できるアバターのスクリーンに医療者の顔が映し出され、医療者がそこにいるかのような分身を使って診察を行うのです。当院にはセカンドオピニオンのために遠方からいらっしゃる患者さんも多いので、そのような方にまず遠隔相談を受けていただき、実際の受診を相談する最初のステップで使うといいかもしれません。その他、慢性疾患で患者さんの日々の変化をモニターしたい場合に役立つシステムの開発も進んでいます。皮膚疾患で皮膚の状態を毎日モニターしたいとか、関節リウマチで関節の状態をモニターしたいといった時に、スマートフォンのような機器に記録してもらい、その情報を蓄積して外来診療を行うのです。いろいろなセンシングシステムの開発も進めています。病室にいる患者さんの心拍数や呼吸数の他、活動状況等もモニター出来るセンサーのシステム開発も進めています。特殊なシャツを着るだけで多くのバイタルサインが取れるセンシングシステム等、多岐にわたる開発に関わっています。

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