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未来の会

第136回 立憲・国民の合流頓挫と政界の行方

第136回 立憲・国民の合流頓挫と政界の行方

 新型コロナウイルスの感染拡大、イギリスの欧州連合(EU)離脱とビッグニュースが続く中、日本の政界は停滞が続いている。

 昨年末から本格化した立憲民主党と国民民主党との合流話は破談となり、国会論戦での野党の追及も迫力不足が否めない。「募集」と「募る」は別だと言わんばかりの安倍晋三首相の〝珍答弁〟も飛び出し、国民をうんざりさせるような体たらくぶりだ。

〝解散風〟止んで、機運高まらず

 「立憲民主と国民民主は通常国会の冒頭解散があると思って、慌てて合流話を進めたんだろうが、IR汚職などで早期解散論は吹っ飛んでしまった。ゴールがなくなったのだから、シュートも出来なくなったという事だな」

 自民党幹部は立憲民主と国民民主の合流はさらに難しくなったとの見通しを示して、次のように付け加えた。

 「国会議員なら誰しも選挙が怖い。だから、解散風が吹けば、確かに政党の離合集散は起こりやすいし、進めやすい。ただ、それだと選挙という利害に依存する事になる。立憲民主と国民民主は選挙という利害で分離した。それを、またぞろ、利害だけでくっつけるというのは難しかろう。たとえ出来たとしても、分離の種を抱える事になる。今回の騒ぎは両党の溝を浮き彫りにしただけの徒労だったな」 

 「安倍1強体制」のほころびが目立ってきた政界で、政権交代可能な政治勢力の結集は大きな課題の1つだ。

 ただし、前回の衆院選を巡る対立で分かれた立憲民主と国民民主の再合流には冷ややかな目線が付きまとってきた。自民党幹部が指摘するように、選挙の利害で分かれた政治勢力が、その利害を超えて再結集するのには障害が多いからだ。いったんは敵対した両党議員の公認調整が最も難しいのだが、憲法や原発政策等の基本政策の食い違いを埋めるのも至難の業となるからだ。

 国民民主幹部が語る。

 「立憲民主と国民民主の再結集が政党の身勝手であり、打算だといわれればそのとおりかもしれない。しかし、政権交代の受け皿を作るという大義を全うするための現実的な手段は、これを置いて他にない。解散風に慌てたとの批判も受けるが、過去の政党再編はいずれも解散風を受けてのものだ。風がなければ帆船が進まないのと同じだ。今回は、残念な結果に終わったが、協議は続ける。それが国民の声に応える唯一の道だ」

 両党は当面、合流協議を棚上げし、昨年秋に結成した統一会派を基盤にして、安倍政権への追及を強め、改めて合流への環境を整備する方向だという。

 しかし、通常国会冒頭でのつまずきで、立憲民主の枝野幸男代表、国民民主の玉木雄一郎代表の代表質問は迫力を欠く印象となった。「桜を見る会」の疑惑やIR汚職が国会論戦の主なテーマとなっているいため、外見上、野党側が攻め込んでいるように見えるが、内実はそうではない。

 「桜を見る会」を巡る1月28日の衆院予算委員会の安倍首相の答弁からその実態が窺える。質問者は共産党の宮本徹議員だ。宮本議員は同会を含む観光ツアーへの参加を募る文書が安倍首相の地元有権者に送られていた問題を取り上げ、文書を示しながら安倍首相が「桜を見る会」を個人的利益のために使っていたのではないかと追及した。安倍首相が「(文書を)見た事はない」と答弁した後の遣り取りが珍妙だった。

 宮本議員「文書を見た事がなくても、募集していることはいつから知っていたのか」

 安倍首相「私は、幅広く募っているという認識だった。募集しているという認識ではなかった」

 宮本議員「私は日本語を48年間使ってきたが、『募る』というのは『募集する』というのと同じですよ。募集の『募』は『募る』という字なんですよ」

 安倍首相「ふさわしい方という事でいわば募っているという認識があった。例えば新聞などに広告を出してどうぞという事ではないんだろう」

 「迷答弁」に議場が騒然となったのは言うまでもない。メディアは「苦し紛れの珍答弁」等と、安倍首相をくさす論評を掲載したが、安倍首相はケロッとしている。論戦の様子を見ていた自民党幹部が苦笑いしながら解説した。

 「安倍首相の言いたいのは、無条件で誰でもいいからと参加者を募ったのではなく、一定の要件を満たした人を厳選して募ったのだという意味なんだろう。ただ、この答弁は国民受けが悪いよな。立憲民主と国民民主が合流して、新たな政治勢力が誕生していれば、内閣支持率の低下と、新たな勢力への国民の期待が広がる一因になったかもしれない。杜撰な答弁は安倍首相の気の緩みだろう。緩ませたのは、野党合流のおそまつな顛末。そういう事だろうな」

合流失敗で遠のいた憲法改正?

 自民党内では「桜を見る会」とIR汚職のほとぼりを冷ましながら、粛々と予算を仕上げ、東京五輪・パラリンピックで国民意識が高揚した今年秋の衆院解散が本線との見方が強まっている。それまでは、野党に何を言われようが、メディアに叩かれようが気に止めない。ひたすら鉄面皮を貫き、時間を稼ぐ戦略なのだ。

 「日本国民は忘れっぽいから、そのうち、桜もIRもかすんでいくだろう。ところが、東日本大震災と結び付いた野党政権、つまり民主党の悪いイメージは国民のトラウマとして残っていてなかなか消えない。野党の皆さんには申し訳ないが、そのうち、政界の関心は自民党総裁選に移っていく。その意味で、今回の合流失敗は、当人達が思っているよりもずっと深刻だ。そこのところが分かっていない枝野・玉木はまだまだ〝ひよっ子〟という事だな」

 自民党長老は少し残念そうな表情を浮かべながら続けた。

 「政治を動かすには『一期一会』の気概が必要なんだ。それを理屈を並べて解決しようとするから失敗する。逆説的だが、安倍首相にとっても野党は大事なんだよ。憲法改正は自民党だけでは出来ないからな。存在感のある野党が誕生して、自民党と丁々発止の議論を進めないと憲法改正はいつまでたっても出来ない。だから、野党に奮起を促したいね」。

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