バーゼル
前回に引き続き、スイスについて述べたい。バーゼルはドイツとフランスの国境に接するスイス北西部の都市である。人口は2016年時点で約17万6000人である。ライン川のほとりに位置するので、昔から製紙業や化学工場、最近では製薬業が盛んである。
人口で見ると、チューリッヒが1位で、ついでジュネーブ、3位がバーゼルである。首都のベルンはバーゼルより小さいのである。そもそもスイス自体が人口は850万人(17年)ほどで、面積は約4.1万km²と九州より少し大きいくらいだ。言語としてはドイツ語が中心であるが、フランス語、イタリア語、また現地の方言を喋る人もいる。1人当たり国内総生産(GDP)が非常に多額で、日本の約2.5倍になる。
その理由は金融や、製薬・時計といった精密工業が産業として成立していることにある。製薬業に関しては、ロシュやノバルティスといった世界トップ5の常連である企業がスイスに本社を置いている。今回その1つのバーゼルにあるノバルティス本社ビルを訪問する機会に恵まれた。本社ビル内は撮影禁止であったので、外観の写真を載せた。
スイスの医療制度
スイスの対GDP比医療費は、経済協力開発機構(OECD)の2013年のヘルスデータによると、2011年は11.0%で6位。また、2014年のヘルスケアデータによると、2012年は11.4%で3位になる。
2017年に保険料が平均で4.5%上がり、国民が反発した(平均で収入の約14%が保険料で、収入の8%以上を医療保険料が占める場合には政府が補助するという)。World Development Indicators (WDI), October 2015では、乳児死亡率は1000人当たり3.4、平均寿命は男性が82.7歳、女性が84.9歳である。
スイスは1996年より国民皆保険制度を開始している。ただし、国が運営するのではなく、国がスイス連邦医療法によって法律で医療保険の枠組みを制定し、実務は80社以上の民間会社に委託するという管理競争政策がとられている。日本でいえば自賠責保険、医療保険でいえばオランダに似たシステムをとっている。
年齢や性別、疾病の有無等リスクに関係なく、基礎保険は全保険事業者に提供の義務がある。そのため、保険者ごとの加入者リスクは保険者間の補助金で調整される。また、保険者は標準医療保険で利益を上げることは禁じられているが、追加オプションを提示することができ、この部分で利益を得る。
対象者としては、全スイス滞在者(3カ以上滞在者及び出生者)に強制で適用される。国際公務員及び外交官とその家族は強制保険から免除されるが、任意加入が可能である。この場合、加入形態は強制加入であるが、主たる財源が保険料で、母体が民間であるため、通常、民間医療保険に分類されることになる。
一方で、スイスの医療保険市場では、皆保険を達成することを目的として、強い規制がかけられており、OECD から公表される総保健医療支出(System of Health Accounts, SHA)や、それに基づくOECDヘルスデータでは、スイスやオランダの医療保障制度は公的なものとして分類されている。契約する保険会社は毎年変更できる。年末になると保険会社からの勧誘が増加するという。
また、入院時の待遇(2人部屋/個室、担当医の選択等)、一部の代替治療(2012年からホメオパシーや鍼などの一部は保険でカバー)等に関しては、任意で追加の民間保険に加入することになる。スイス国民の25%が追加保険に加入しているといわれる。
スイスの医療制度は政府(連邦、州、地方自治体)、雇用者、個人の共同財源で成り立っている。医療費の高騰により、毎年のように個人が支払う保険料の引き上げが検討されたり実施されたりしている。全ての保険加入者は保険料を毎月支払う義務があるが、保険料は保険者及び居住地域(カントン)によって様々である。
2014年では平均で1人月額300スイスフランの負担となっている(生後3カ月から18歳の子どもも91.52スイスフランの支払い義務がある。保険料は19歳〜25歳、26歳以上で異なる)。また、低所得者には州/自治体から保険料の助成があり、約30%が助成を受けている。
保険プランは民間保険らしく、基本プランでも下記のように免責額が決まっている。
●医療費の10%を自己負担し、かつ年間自己負担の総額上限が700スイスフランというプランが基本で、入院時は1日15スイスフランの支払いである。
●米国のHMO(health maintenance organization)のような割引保険も提供されており、この場合には、ゲートキーパーとしてのホームドクター制をとる、あるいは、保険会社に事前に電話でアドバイスを受けるシステムも割引となる。
●年平均の医療費を、300〜2500スイスフランの間で被保険者が選択する。年間負担額が高いと、毎月の保険料は安くなるプランもある。
なお、歯科医療は保険対象外であるが、予防接種や乳幼児健診、妊婦健診や分娩等は対象になる。
混合診療が認められており、医師は標準医療保険でカバーされない治療も実施できる。その際、患者に対して告知義務があり、患者はそれに疑問点があれば保険者に審査を求めることができる。
自己負担の割合は高いが、経済が豊かであるスイスでは、費用が多少かかってでも質の高い医療の実現を目指しているという。
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