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未来の会

盛り上がりに欠けたまま審議進む「全世代型社保改革」

盛り上がりに欠けたまま審議進む「全世代型社保改革」
「改革」に値せず得意の「やっている感」示す事も難しい

全世代型社会保障制度改革の議論が開会中の通常国会で間もなく本格化する。同改革は安倍晋三首相が「内閣の最大チャレンジ」と位置付けている。

 しかし関連法案は、「持続可能な社会保障制度の構築」には程遠い内容だ。野党も徹底抗戦に持ち込む構えはしておらず、「桜を見る会」問題や「カジノ疑惑」の陰でかすんでしまっている。

 政府・与党内では「与野党対決法案にはならない」(自民党国対関係者)との見方が支配的で、このままでは盛り上がりに欠いたまま淡々と審議が進み、すんなり法案成立という運びになりそうだ。

 1月20日に招集された通常国会。安倍首相は衆参本会議での施政方針演説で全世代型社会保障制度に触れ、「本年、改革を実行する」と強調。「現役世代の負担上昇に歯止めをかける事は、待ったなしの課題だ」と述べ、75歳以上の医療費の自己負担割合(原則1割)について、一定以上の所得がある人は2割に引き上げる考えを表明する等した。

 ただ、通常国会で審議されるのは、介護と年金・雇用に関する制度改革関連法案だ。来年度予算案と並行して審議される介護関連の法案は2月に、予算関連法案ではない年金の法案は3月に国会に提出される。一方、2割負担となる75歳以上の人の所得基準等、これから細部を詰める医療関連の法案提出は秋の臨時国会となる見通しだ。

「政権の総仕上げ」が社会保障改革

 首相は当初、医療関連の法案も今国会に出す事にこだわった。首相の自民党総裁任期は2021年の9月まで。残り2年を切る中、社会保障に手を付ける事にしたようだ。

 「政権の総仕上げとして、社会保障改革をやり遂げましょう」。首相と菅義偉・官房長官は12年の第2次安倍政権発足直後からそう確認し合ってきた。

 また、1月6日の年頭記者会見で「全世代型」への意欲を示した首相は、前回の東京五輪が開催された1960年代に言及し、「世界に誇る国民皆年金・皆保険が形成された」とも語った。

 59年の国民年金法成立によって実現した国民皆年金は、首相が敬愛してやまない祖父、岸信介・元首相が手掛けたものだ。野党から「レガシーも成果もない長期政権」と酷評される首相について、自民党幹部は「全世代型の社会保障改革を政権の総仕上げとしてまとめ、退任後の影響力を保持する事を意識している」と見ている。

 全世代型社会保障制度改革のキーワードは「支え手を増やす」事と、年齢によらず経済力に応じて負担する「応能負担」。その応能負担という理念に最も合致するのが、一定以上の所得がある75歳以上の人の自己負担を引き上げる医療保険制度改革だった。

 だからこそ首相は医療関連の法案も年金や介護とセットで成立させる事に執着し、再三、加藤勝信・厚労相らの尻を叩いた。

 だが、医療関連の改革を法律に落とし込むには準備不足が明らかだった。昨年末にまとめた「全世代型社会保障検討会議」の中間報告には、医療分野を盛り込んだものの、法案としての上程は加藤氏の進言によって秋の臨時国会に先送りする事になった。

 こうした経緯により、通常国会に提出される法案からは「応能負担」の柱になるはずだった医療関連の法案が抜け落ちている。

 医療の代わりにメーンとなるはずの年金改革関連の法案は、厚生年金のパートらへの適用拡大が軸となっている。現在の適用要件である勤務先の企業規模「従業員501人以上」を22年10月に一旦「101人以上」に引き下げた後、24年10月に「51人以上」とする。

 ただ、「51人以上」まで緩和しても、新たに厚生年金に加入出来る人は65万人程度と試算されている。当初案通り、企業規模要件を撤廃していれば約125万人が新規加入出来たといい、結局は半減した格好だ。同じ会社員でも厚生年金に入れない人が多数残る。

 首相は年頭会見で「年金の世界でも『非正規』という言葉をなくしていく」と決意を述べたが、実態とはかけ離れている。

 「年金の底上げ」という面でも今ひとつ。企業規模を「従業員51人以上」にしても、モデル世帯の30年後の給付水準(現役世代の平均手取り額に対する年金額の割合)は51・0%と、何もしないより0・2ポイント改善するに留まる。

 とはいえ、野党が「高所得の高齢者優遇」と攻撃していた、所得の高い65歳以上の人の年金抑制を緩める案は土壇場で見送った。希望する人に70歳まで働ける機会を確保する事を企業に義務付ける雇用関連の法案や、年金の受給開始年齢の上限(現在70歳)を75歳まで引き上げる法案については、真正面から与野党がぶつかる事はない。

 これまで散々、年金を政権攻撃の材料としてきた野党も、今回の法案に関しては「厚生年金の適用拡大自体には異論がなく、ぬるいとは指摘出来ても追及しづらい」(立憲民主党の中堅議員)というのが本音だろう。

「今回はしょぼい」と厚労省幹部も自嘲

 先に提出される介護関連の法案にしても、厚労省幹部さえ「今回はしょぼい」と自嘲する有り様。医療同様、介護保険にも月の自己負担額に上限を設けており、一部高所得の人の限度額を引き上げたり、資産を持つ施設入所者への食費補助をカットするといった給付カット策は含まれている。

 だが、焦点とされていたサービス利用時の自己負担割合(原則1割)を2〜3割とする対象者を拡大する等の案は早々に見送られた。また、「本命」と目されていたケアプラン作成を有料化する案も最後は姿を消した。

 さらに、不足が際立っている介護人材の確保に関し、新たに始まった外国人労働者の受け入れ拡大はあまり機能していない。厚労省は25年に約34万人の介護人材不足に陥ると試算しているのに、有効な対策は打たれていないままだ。

 これからの超高齢化社会を踏まえ、政府は40年度の社会保障費が約190兆円に膨らむと推計している。18年度の1・6倍だ。

 首相が消費税率について「今後10年ぐらいは上げる必要はない」と縛りをかける中、全世代型社会保障制度改革の使命は「持続可能な社会保障制度」を作り上げる事にあるはずだ。

 にもかかわらず、与党内からさえ「『改革』の名に値せず、安倍政権お得意の『やっている感を示す』事さえ難しい」(中堅議員)との嘆きが漏れている。

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