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人災以外の何物でもない日本経済「失われた30年」

人災以外の何物でもない日本経済「失われた30年」
最大の原因は「デフレ克服」政策の失敗

2019年の最後の取引日の12月30日、日経平均は2万3656円62銭で終了した。年間では18・19%の上昇率を記録し、「株高が支えられてきた」という評価も珍しくない。恒例の大納会の挨拶で、日本取引所グループの清田瞭・最高経営責任者(CEO)は「高値近辺で取引を終える事が出来たので、良い相場だったのではないか」と述べたという。だがこうした楽観論は、現在のこの国の危機意識の無さを象徴してはいまいか。

株価・GDP・時価総額等で衰退露呈

 株価自体、日銀が年6兆円ものペースで上場投資信託(ETF)を買い入れており、どう考えても企業の株価を人為的につり上げる「官製相場」であるのはさておき、ちょうど30年前の1989年12月29日の日経平均は、3万8915円で引けていた。無論、30年前はバブルであり、翌年に日経平均は2万円台に下落してバブル崩壊の前兆となるが、30年たった現在の株価は当時の6割り程度しかない。他の先進国で、30年前と比較してのこうした異常事態が生じている例は皆無だろう。

 ちなみに、米国のダウ平均株価は1989年の水準が2753㌦だったが、2019年4月23日は2万6656㌦というから、約10倍だ。

 株価だけではない。この30年の間に世界経済の中で日本の自壊にも等しい衰退傾向は、あらゆる指標が示している。1人当たりの国内総生産(GDP)では、日本は世界第2位であったが、現在は26位。アジアではマカオ(3位)、シンガポール(8位)、香港(17位)に抜かれ、いずれ28位の韓国の後塵を拝しかねない。

 何しろ日本の名目GDPは、1994年の水準からほとんど変化がない。同じ「成熟型経済」の独仏ですら、同年の比較では2倍近い規模になっているのと対照的だ。当時、日本の名目GDPの約7分の1でしかなかった中国は、2014年に日本を抜き、今や約3倍の規模になっている。英金融大手HSBCが示した近未来予測では、日本は2028年までにドイツとインドにGDPで追い抜かれ、世界5位まで後退するという。1995年から2015年までの間の名目GDP成長率で見ると、世界平均は139%だが、日本は20%のマイナス。先進国・中心国でマイナスは、実に日本だけだ。

 国際通貨基金(IMF)が昨年10月に発表した「世界経済見通し」によると、実質GDP成長率の各国比較で、2018年度の日本の伸び率は0・8%という低さ。ほとんど経済が成長しておらず、米国の2・9%、ユーロ圏の1・9%はおろか、中国の6・6%、インドの6・8%に差を付けられている。

 しかも、今後も衰退からの脱却が困難視されているのは、経済的パーフォーマンス自体が低迷しているからだ。スイスのビジネススクールIMDの世界競争力センターが発表した「世界競争力ランキング2019」(63カ国・地域が対象)によると、日本は30位。1997年以降、最低の順位だ。1位のシンガポール、2位の香港はともかく、アジアでは中国(14位)や台湾(16位)、韓国(28位)、タイ(25位)にも及ばない。

 実際、30年前の時価総額で見ると、世界で上位20社のうち上位5社、計14社が日本企業で占められていたが、現在は全て姿を消した。しかも今や、1位のアップルを筆頭に6位まで米国企業が占めるが、その全てが30年前の20社の中には見いだせず、あるいは存在すらしなかったという事実は何を意味しているのか。日本国内の時価総額に限ると、上位20社中、この30年間に誕生した企業など1社もない。

 同時に、かつて世界市場で圧倒的強さを誇った家電や半導体、液晶を始め、通信機器やスパコンといった産業は次々に存在感を失って日本は世界貿易の中のシェアを低下させ続けた。しかも、今後の通信ネットワーク市場の中核となり、数百兆円規模の市場創出が予想される第5世代移動通信システム(5G)に関する特許出願件数の割合で見ると、日本は5%。中国の34%、韓国の25%に離され、フィンランド及び米国の15%にも及ばない。

 では、世界でここまで無残にも凋落し、成長が止まって衰退を続けている日本は、他国と比較して根本的に何が違うのだろうか。少子高齢化等の社会の構造的変化もあるだろうが、最大の問題はデフレの継続だ。

「賃金水準の伸び悩み」が他国より顕著

 日本経済がデフレに入ったのは1997年とされ、以後30年間の大半を占めている。特に他国との違いが顕著に生じているのが、賃金水準の伸び悩みだ。

 経済協力開発機構(OECD)が2018年に発表した数字では、1997年の実質賃金を100とした場合、ユーロ圏は113・9、米国は115・3という水準だが、日本は驚くことに90・1とマイナスになっている。OECD加盟国35カ国中、マイナスを記録しているのはやはり日本が唯一だ。GDPの6割を占める国内消費の原資となる賃金水準がこれでは平均所得・家計消費は低下して、最初から成長など望めるはずもない。

 デフレで内需が縮小すると売り上げ増の見込みがないから、企業は新たに投資する意欲が減退し、「内向き」になりがちで、リスクがあっても技術改革に挑戦するような姿勢も弱まる。企業が利益を得ても投資に繋がらず、内部留保や役員賞与に回されるだけでますます内需が細る。

 今や「失われた30年」という用語が頻繁に使われるようになっているが、その実態はデフレ克服の失敗なのだ。日本は2011年に東日本大震災と、未だ原因も分からず廃炉に向けた方策すら手探り状態の史上最悪の原発事故を経験したが、そうした要因があろうともここまで衰退が止まらないのは、明らかに政策の失敗と見なすしかない。

 そして断言出来るのは、第2次安倍晋三内閣が2012年末に発足してから始めた異次元の金融緩和やアベノミクスなるものが、現状からの脱却に向けた回答ではないと、とうに現実が証明した点だ。だが、日銀総裁の黒田東彦が「物価目標2%達成」を実に6回も先送りしながら自身の政策の失敗を未だに認めようとはせず、その座に居座り続けている。

 黒田の「任命権者」の安倍に至っては、国会で「エンゲル係数」の意味すら理解していないような無知ぶりを露呈しながら、恥ずかしげもなく「4選」の意欲を隠そうとしていない。「アベノミクスの新3本の矢」といった空疎なスローガンを次々と掲げては、肝心の経済にとってほぼ成果ゼロに終わっているのにだ。

 日本が本格的にデフレに突入した1997年は、3%から5%への消費増税が実行された年だ。本来この種の増税はインフレへの対策だが、デフレが続いても安倍はこれまで2回も消費増税に手を付けている。消費税を上げれば必ず消費が冷え込み、その悪影響が長引くのはこれまでの経験が雄弁に示しており、デフレの進行に拍車を掛けるだけだ。こうなると「失われた30年」とは、人災以外の何物でもない。   (敬称略)

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